すき、きらい①
中庭、榎の大樹のそばでエルとホアは向き合っている。
ホアの腕に鞭を巻き付け注意を自分に向けたはいいが、彼女の力は予想以上に強かった。一瞬でも鞭を握る手を弱めれば、簡単にもっていかれる。
息をすることも忘れ、エルは何とかして影花の動きを完全に封じる術を探した。
もう一度ラムの能力で氷漬けにして、どうにかあの一部でも破壊できれば……
ちらりと影花を見やって思案するエル。
それを他所にホアが口を開いた。
「ところでひとつ聞いてもいいかしら?」
「………?」
こっちは力をフルに使ってそれでも自分と繋いでおくのがやっとな状況なのに、ここでよりによって何故質問なのか。
唖然とするエルに、だがホアは口を閉ざさない。
「どうしてそんなに必死なの?」
「……は?」
「体に傷を負ってまでミスラさんを護る理由が、あなたにあるとは思えないのだけど」
「………」
「だってあなた、ミスラさんをあからさまに嫌っているようだったじゃない」
そう言い探りを入れるようなホアの目線に、エルの機嫌が一層悪くなる。
「………本当に、ムカつきますわねあなた」
「あら、ごめんなさい」
「…そのようなこと、あなたに教える義理はありませんわよ!」
エルは怒りをぶつけるように、鞭を思い切り振り上げた。
会話に意識がいっていたホアは、腕から引っ張られ空中に投げ出された。
「ラム!来なさい!」
「はいよお嬢!」
ラムはエルを乗せ再び影花に突進していく。
「今度こそ全力で行きなさい」
「それはいいが、娘が耐えられるかわからんぞ。守飾りがない今、あまり娘を刺激するようなことはせんほうが良いのじゃないかね」
「……それを気にしていたらまたさっきの繰り返しですわよ」
エルの言葉にラムは少し考えこみ、そして納得したように頷いた。
「む……それもそうじゃな。わかった。わしの力、余すこと無く使ってやろうぞ」
「ええ。お姉さまが来るまで、せめて僅かでも戦力を削ぎ落としますわ!」
そう言いながらも、エルはミスラに視線を移した。
見たところ自分の力もまだ自覚していないようですし、大丈夫ですわよね……。
大人しく柱の陰に身を隠し、怯えるような心配しているような瞳を向けるミスラに、エルは思わずふっと笑った。
「………本当に、どうして私はこんなに必死になっているのかしらね」
ラムの走るスピードが秒ごとに増していき、通り過ぎる風がエルの耳元で唸る。
ふと、ミスラが何かを言っているようだったが、大きくなっていくその風音がその声がエルの耳に入ることを拒んだ。
「お姉さまの足枷にしかならないあんな子、大嫌いなはずでしたのに……」
エルがそうこぼしたその直後、ラムが大きな牙のある口から最大出力で攻撃を仕掛けた。




