涙
そんなに、護られるのがイヤなの?
「!?」
どこからか声がしたような気がした。
後ろを振り向いてみたが、そこにはなんの影もなかった。
「なに、今の……」
「娘!!」
柱の向こうからラムの声がして顔を出すと、エルを飛び越えてきたらしいホアが目の前に降りてきた。
「ふふふ。あなたも一緒に遊びましょう?」
「っ」
伸ばされた手に、また首を締められると思い反射的に体が強ばる。
しかし………。
「………」
しばらくしても何も起きない。恐る恐る目を開くと、自分に伸ばされたホアの手首にエルの鞭が巻きついていた。
「エルさん!!」
「女王様、あなたのお相手は私たちですわよ!」
そう言ってエルは鞭を握る手に力を込める。ホアの手首に鞭が食いこみ、彼女はエルのほうに少しずつ引っ張られた。
「痛いわぁ、手首がもげそう」
そう言うホアにエルは嘲笑をまぜて
「では手首などではなく、首に巻いておけばよかった」
と言った。
綱引き状態のふたりを柱越しに見つめているミスラに、ラムが声をかけた。
「娘、無事かの?」
「ラムさん。はい、わたしはなんとも……。あの、影花ってどうやったら退治できるんですか?急所とかって……」
「影花は植物のバケモノじゃ。故に茎や葉を切り落とすことで消えるものが多い。じゃがあれはなぁ……」
「………?」
「あの女は完全に影花の闇に取り込まれてしもうておる。ほれ見い、彼奴の影花。女と離れまいとがっちり繋がっておるじゃろ」
見ると確かに影花はホアの背に這いつくようにして根をまわしている。しかし根の先はホアの体内に入り込んでいるようにも見えた。
「っ…あ、あれ……体の中に……」
「そうじゃ。ああして身体の中に根を張りあの女の生命力やら負の感情やらを養分として、影花はあそこまで成長した。こうなればもう影花だけを消しても、身体の中に残った根からまた新しい影花が生まれるだけじゃ。そうなれば、方法は一つしかない」
ミスラにも、その先の言葉は想像できた。
「苗床となる人間を殺すしかないのじゃ。まぁあの状態じゃなくとも、一度影花の苗床となった人間が生きて戻ることは、ほぼ無いがの」
それを聞いたミスラの脳裏には、つい数分前のホアの柔らかい笑みが浮かぶ。
「じ、じゃあ、もう…ホアさんは……っ…」
ミスラの震える声にラムはホアから視線を外すことは無く、ただ残念そうに言った。
「これが、彼奴の選んだ答えじゃ。たとえ自分がバケモノになったとしても、己の願いを優先する。……本当に人間はときとして、わしらには理解し難い行動をとるわい」
不意にポタポタと雫が床に落ちる音がラムの耳に入る。
「哀しいのかい?」
あえてそちらは見ずに聞いてみた。
手で顔を覆ったまま、だが彼女の肩は小刻みに震えているのが、視界の端で確認できる。
「太陽の娘よ。お前さんはこちらの世界に身を置くには…ちと優しすぎるやもしれんのぅ……」




