棘②
「ルチア!」
「……っ…うるさい。余所見してっと、お前の体にも穴が開くぞ」
心配するフェルドをきつく睨んで、ルチアは自分の腕に埋まった棘を抜く。裂けた血管から大量の血が溢れ出し彼の服を赤く染めた。
「チッ、汚れた。おい!こんなこと、いつまで続けるつもりだ!消耗戦じゃオレ達に勝ち目が無ぇことぐらい、お前も分かってんだろ!」
「そうだけど!でも相手は一国の王だ!それに苗床にされても彼はまだ人の形を残している。助かるかもしれないだろう!?」
「はあ!?そんな呑気なこと言ってる場合か!状況をよく見ろ。このままじゃ明らかにオレ達が死ぬ。影花も始末出来ずにオレ達が死んじまったら元も子もねぇだろうが!!」
「だけど!でも……!」
「っ、いい加減にしろ!」
ハンプティたちにまた視線を移すフェルドの顎を、ルチアは乱暴に指でつかんだ。
「お前、なめてんじゃねぇぞ」
「!!」
ルチアの血色の瞳が獣のような殺気を帯びて、フェルドを捉える。
「さっきからあのガキどもをチラチラ見やがって。王を失うかもしれないあいつらを憐れんでるつもりか!」
「っ!」
「お前があの苗床の男を殺ろうとしねぇのは、あの男が王だからなんてそんなキレイな理由じゃねぇだろ!!お前は……!」
「……っ…うるさいな」
フェルドはルチアの手を八つ当たりするようにはたいた。
「今のキミは嫌いなんだ」
フェルドの深緑色の瞳が怒りの色をもった厳しい視線をルチアにあびせる。
「触らないでくれるかな」
「………。戦場に心を持っていくなとは言わねぇ。お前がそんなことできるやつとも思ってねぇし。だが、優先すべきことを見間違えるな。オレは命令されなきゃ動けねぇ身体なんだ。お前がそんなんじゃ、こっちも困るんだよ」
冷酷な声でそう告げ離れるルチアに、フェルドはぐっと歯を食いしばった。
「……わかってるよ」
———……
ふたりの様子を、部屋の隅で見ていたハンプティ。
「ねぇ、ダンプティ」
「……なぁに、ハンプティ」
影花に怯えるダンプティは、ハンプティの腕の中で少しだけ顔を上げた。
「ごめんね」
唐突に、視線も合わせずそう言われ、ダンプティは首をかしげた。
「どうして?」
そう聞くと、抱きしめられた腕に力が込められた。
「……ぼく、ダンプティに嘘ついちゃった」
「……?」
お互いの鼓動が聞こえるほどの距離で、だがダンプティはハンプティの抱えているものが想像出来なかった。
不安になってきゅっとハンプティの袖口を掴むと、彼はやっとその瞳にダンプティを映した。
「でもね、ダンプティ。ふたり一緒なら絶対大丈夫だからね。ぼくがダンプティを守るから…だからね、何も怖くないんだよ」
「………。うん……。ダンプティは、ハンプティとずっと一緒にいられるなら、それでいいよ」
自分よりも少しだけたくましいはずのハンプティの体が、今はとても弱々しく思えて、ダンプティは自然と彼の背に手を回し強く抱きしめ返していた。
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