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出会い、のち①

  ◎第1章◎



 天から覗く紅い月。

 その光に照らされ見えたのは



「……お姉ちゃん…!?」

「…っ、ミスラ…」



 夢の中で何度も逢いたいと手を伸ばした、

 わたしの『家族』でした———



 □■□



「な、なん……」

「セレネ」

『!!』



 ミスラの言葉を遮った男の高い声に、ふたりははっと我に返る。



「どうしたの?やっぱりそこに誰か……」

「ルチア……誰もっ、誰もいない!!」

「え……」



 黒髪の少女、セレネが言い放ったその言葉に、ミスラはまるで自分の存在を否定されたかのような気分になった。

 少しの間をあけて、ルチアと呼ばれた男の声が再び聞こえた。



「……そう?じゃあ帰ろっか」

「ん」



 セレネはルチアの提案にこくりと頷き、そのままミスラから離れていく。



「あ……」



(どうして?)



 やっと会えたのに、セレネの態度は素っ気ない。

 待って………。

 待って……待って———



「待ってよ、お姉ちゃん!!」

『!!』



 樹の陰から飛びだしたミスラの声と姿に、セレネは凍り付いたように固まり、他の者は大樹の方を振り向いた。

 ミスラの眼前にはセレネを入れて5、正確には4人と1匹の姿があった。



「ほれみい。わしが言ったとおり、もう1人おったわ」



 その中の1 匹、獅子のような獣が鋭い眼差しをミスラに向け、そして沈黙を破った。



「うん。そうみたいだね」



 獣の言葉に返したのは、長身の男。

 その隣には、高い位置でふたつに結んだ長い金髪を風に揺らす少女。



「セレネ。この子、まさか……」



 セレネと向かい合うように立っていた群青色の髪を持つ男、ルチアは、樹下にいるミスラを見上げながら問う。

 その問にセレネは唇を少し噛んで答えた。



「知ら、ない」

「え、でも……」

「お姉ちゃん!!」

「知らないっ!!……もう、帰ろ…」



 セレネが歩き出すと同時に、ルチアの耳飾りがシャランと揺れる。



「あ、待ってセレネ。リンゼから連絡……」



 ルチアの言葉にセレネは振り向かずにその場に立ち止まる。



「……はい……任務は無事完了しました。……被害は無いと思われます。……はい…え?……はい…わかりました。直ちに遂行します」



 ルチアが耳飾りをおさえていた手を離す。

 直後、長身の男が右手を腰に当てて、愚痴をこぼすように言った。



「なぁに。もしかして追加任務?」

「うん。俺達に保護してほしい人がいるんだって」

「保護?」

「で、その方はどういった方なんですの?」



 金髪の少女が丁寧な言葉で問う。



「えーっとね、名前はミスラ」

「え…」



 今迄黙っていたセレネが聞こえてきたその名に思わず声を漏らす。

 構わず続けるルチアの言葉に、セレネは息を呑んだ。



「太陽を思わせる色の髪と瞳を持つ、女の子だって……」



 夜風が体温を徐々に奪っていく中。

 そこにいる全員の視線が、一斉にミスラへと集まった。



 □■□



 …………——————


 影と炎が渦巻く、酷く息苦しい空間で



「……うっ……ひっ…く……」



 幼い少女は大粒の涙を流していた。

 遠くで口から血を吐く男を見ては



「……うっ…お父さん……」



 と、呟き

 後ろでボロボロになった女2人を見れば



「……あ、う…お母さん…お姉ちゃん……」



 と、何度も呼んだ。

 少女の母は必死で叫んだ。



「ミスラ!逃げなさい!こいつらはあなたを!」

「や、やだ……わたしを、ひとりにしないで……っ…」

 

 

  □ ■ □



「お母さん!!」



 気が付くとミスラは、天に手を伸ばし、涙を流していた。


「…はっ…はぁ。ゆ、め……?」



 ミスラは汗で額に張り付いた前髪をかきあげる。



(最悪の目覚めだ)



 涙を拭きながらそう心の中で零す。



(悲しい夢。でも、どうしてだろう。ただの夢とは思えない…)



 ふと顔を上げたミスラは



「あれ」



 身の回りに違和感を覚える。

 ミスラが目を覚ましたのは、高い天井から上等なシャンデリアが光る



「ここ、どこ?」



 見知らぬ部屋の大きなベッドの上だった。

 キョロキョロと辺りを見回していると。

 コンコン、というドアを叩く音が聞こえた。

 ミスラが返事を返す前に、ゆっくりとそのドアが開かれる。



「……あ、起こしちゃった?部屋の空気を変えておこうと思って」

「……」



 ドアの向こうから現れたのは、群青色の髪と瞳が特徴的な優しそうに微笑む男。



(え、誰)



 ミスラがじっとその男を見ながらそんなことを考えていると



「ごめんね。女の子の部屋に男が入るのはあんまり良くないと思ったんだけど」



 男が窓を開けながらすまなそうに謝ったので、ミスラは慌てて弁解する。



「え!?あ、いや!あのっ別に……」

(そんなことよりあなた誰ですか!?)



 と、ミスラは心の中でつけ足しながら、頭は混乱していた。



「そっか。それならいいんだけど。あ!」

「!?」



 突然の男の大声にミスラはびくりと体を震わせた。だが男は構うことなく続ける。



「せっかくだから自己紹介しちゃおうかな」



 窓際から空を仰いでいた視線をミスラに移し、その優しい微笑みで言った。



「俺の名前はルチア。国際警察部隊セイセラ王国チアーノ支部所属の、影花討伐を専門とする隊員だよ」



 眩しい朝の日の光が、窓際のルチアを照らす。

 そんな彼を見るミスラは首を傾げる。



「……?こくさい……?カゲハ…??」

「まぁ、詳しいことはみんなが揃ってから話そうか」

「あ、はい」



 自分がここにいる理由どころか、ここがどこなのかもまだわかっていなかったと、ミスラは思い出したように答えた。



「じゃあ、着替えはこれね」



 ルチアはそう言って、1着の服をミスラに差し出す。



「多分サイズはぴったりだと思うよ。俺は廊下にいるので、支度できたら出てきてね。あ、急がなくていいよ。ゆっくり準備してくれて大丈夫だから」



 ルチアのこの言動から、彼がいろいろと気を回してくれる優しい男だという事が伝わって、ミスラの表情には自然に笑みがこぼれる。



(よくわかんないけど、警察の人みたいだし、怖い人ではなさそう……?)



 そう思いながら、ミスラは返事を返す。



「はい。ありがとうございます。あの、わたしの名前……」

「ミスラ」

「え?」

「でしょ?」

「そう、ですけど……。あ、あの。なんで知って……」



 思わず眉をひそめるミスラに、ルチアは意味深な笑みを浮かべ。



「それも後で、ね」



 ドアの向こうへと消えていった。

 途端に静まり返る部屋の中、ミスラは呆然とその場に立ち尽くす。



「……どういうこと…?」


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