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歯車①

今回から本編です。プロローグとは切り離してお楽しみください!

 

 月明かりの下、ずっと待ち望んでいた。

 誰よりも大切な人。

 そう。あなたのことだよ。



「お姉、ちゃん…?」



「…っ……ミスラ…」



 これはきっと、全てを最初から決められた


 運命だったんだ———



 □■□



 青歴2000年。

 永世中立国であるセイセラ王国、その北部に位置したチアーノ州の端の方、とある街。



 木々を撫でる風に、まだ冷たさが残る時間。

 白い煉瓦造りの家、その玄関で慌ただしく革靴を履く少女がひとり。

 名をミスラ。

 太陽を思わせる色の髪と瞳を持つ17歳の少女。



「ミスラちゃん。お弁当、忘れてますよ」



 台所から聞こえてきた声に、ミスラは慌てて自分の鞄に手を突っ込む。



「…あ、本当だ。なんだか鞄が軽いと思ってたんだー。ありがとう、おばあちゃん」



 台所からミスラのお弁当を持って来たのは彼女の『おばあちゃん』ソフィ。

 ミスラがソフィの手からお弁当を受け取った時、部屋の奥から再び名前を呼ばれた。



「ミスラちゃん、これも持っていきなさい」



 声の主はジルベール。ミスラが『おじいちゃん』と呼ぶ、彼女のもうひとりの『家族』



「わぁ、金平糖?ありがとう、おじいちゃん!」

「うむうむ」



 お礼を言われ、ジルベールは満足そうに頷いた。

 ミスラはもらった金平糖をお弁当と一緒に鞄へ入れた。

 靴を履きドアノブに手をかける。



「じゃあ、いってくるね!」

「あぁ、待ってミスラちゃん」



 ソフィに呼び止められ、ミスラは外へ出ようとした足を引っ込める。



「なぁに?」

「ネックレスはちゃんと付けていますか?」

「うん、大丈夫だよ!」



 ほら、と言って首にかけられた金色のネックレスを目の前のふたりに見せるミスラ。



「お守りなんでしょ?」

「ええ、そうですよ。きっとあなたを守ってくれるわ」

「うん。……じゃあ今度こそ」



 ネックレスを触っていた手をドアノブにかけ直し、ミスラは笑顔でドアを開ける。



「いってきます!」

「はい、いってらっしゃい」

「気をつけるんだよ」



 ソフィとジルベールの声が耳に入ると、ミスラはドアが閉まらないうちに駆け出していった。



 □■□



 ———……

 バタン、というドアがしまる音と同時に、ソフィとジルベールの顔から笑みが消える。



「おじいさん…あれ…」

「わかっておるよ」



 不安そうなソフィの言葉を、だがジルベールは厳しい顔でそう言い遮る。

 そしてため息混じりで続けた。



「ミスラちゃんのネックレス、少し錆びついておった」

「それだけ……あの子の力が目覚め始めているということですか……」

「そうかもしれぬ。また新しいものを作らなければ」

「そうですね。でも貴方もあまり無理なさらないでくださいな。貴方も私も、もう若くはありませんからね」



 ジルベールの肩に優しく手を置くソフィ。

 厳しい表情を少しだけ和らげ、ジルベールは言う。



「そうじゃな。だがこればかりはわしがやらねばならない」

「ええ……。一応、あの子達にも知らせておきましょうか?」

「うむ。それが良いじゃろう。今すぐに来てもらえるよう掛け合ってくれ。念には念を。何かあってからでは遅い」

「わかりました」

「わしらはあの子を守らねばならぬ。この命にかえてもじゃ」



 自分の胸に拳をおき、ジルベールは決意を再確認するように言った。

 ソフィはそんな彼を見つめた後、靴棚の上に飾られた複数の写真立てに目を向ける。



「ええ。それがあの子達との約束、ですから……」

「あぁ。それに……」



 ソフィの視線の先の写真立てをひとつ手に取るジルベール。

 懐かしむようにその中の写真を見つめて零す。



「これはこの子の願いでもある。なぁ、セレネよ」



 写真には、2人の姿が写っていた。

 まだ小さなミスラと彼女にそっくりな黒髪の少女。

 同じ年くらいのふたりは手を組んで顔を寄せ合い、写真の中で幸せそうに笑っていた。



 □■□



 さわさわと風が優しく木々を揺らす小路。



「お守り……ね。」



 ミスラは自分の首にかかっているネックレスを指で弄びながら、学校へ向かう道を歩いていた。



「おじいちゃんもおばあちゃんも、ちょっと過保護だよね………」



 独り言を呟きながら、彼女は大きな公園に入っていく。

 公園と言っても、子供が遊べるような遊具は無く、中央に枝が無造作に伸びる大きな木が一本立っているだけの静かなところである。今は朝の早い時間というのも手伝って、一層閑静なものに感じる。

 ミスラは大樹の前まで来ると、そこで立ち止まり、まるで誰かに話しかけるように言った。



「ねぇ、お姉ちゃん……」



 風が彼女の頬を撫で、髪を乱す。

 かさかさと音をたてて揺れる葉は、彼女のその言葉に答えているかのようだった。



「ミスラぁーー!!早くしないと、遅刻するぞー!」



 名前を呼ばれ振り向くと、友人が公園の外でこちらに手を振っているのが見えた。



「レイ!」



 ミスラは友人の名前を呼び、彼女のところへ走る。しかし、なにかに気づいたのか、慌てて立ち止まり大樹の方へ戻る。そして目の前の大きな幹に片手を当てて言った。



「行ってきます、お姉ちゃん」



 □■□



「まぁた木に話しかけてたの?」



 レイは綺麗に巻いた栗色の髪の毛を弄りながら、呆れた様子で言う。



「うん」

「毎日毎日、よくも飽きずに……」



 はははと乾いた笑いを返すミスラにレイはあぁでも、と



「あんたにとっては大切なもんなのか」



 レイはミスラの背中越しに見える巨木に、ちらりと目をやる。



「え?」

「だってあの木の下で出逢ったんでしょ?あんたのお父さんとお母さん」



 レイはにっと笑った。それにつられるようにして、ミスラの表情にも笑みがこぼれる。



「うん。お母さんが、あの木は特別なんだって言ってたから……。大切な人に会わせてくれる、出会いの木なんだって……」



 そう言った彼女の瞳は、どこか遠くを見つめていた。



「だからあの木のそばにいれば、お姉ちゃんにもいつか会えるんじゃないかと思って……」

「そっか。でも、もう10年でしょ?お姉さんが、その……行方不明になってから」



 レイの言葉に、ミスラの表情が曇っていく。



「……うん」



 ミスラも本当は分かっていた。母の言っていたことは、信じるに値しない、ただの偶然が作りあげた物語であることを。だがミスラが姉に会うためにできることは、もうこれくらいしか残っていなかった。



「あたしだったらそんなお姉さんの事なんか、とっくに忘れちゃうけどなぁ」



 レイはミスラの少し前を歩きながら続ける。



「ていうか、こぉんなに健気でかわいい妹をほったらかしになんて、出来ないよねぇ」

「え?ちょっ、うわっ!?」



 突然飛びついてきたレイに、ミスラは一歩引いて抵抗する。



「ね、ねぇ、レイ!学校!遅刻するって言ったのレイでしょ!?急がないといけないんじゃ……」

「まだ大丈夫だもーん。だから…あんたをもふもふさせろぉ!」

「いぃぃやぁぁぁ!?ちょっと!ほんとにやめ…こら!ね…レイ…やめ……。やめろ!!」



 胸元にぐりぐりと頬をすり寄せるレイを雑に引きはがすと同時。



 パキンッ———



 金属が切れる音が聞こえた。

 視線を落とすと切れたネックレスがミスラの足元に落ちているのが見えた。



「あっ」



 急にしゃがみこんでそれを拾い上げるミスラ。



「あぁ、どうしよう。お守りなのに…」

「どしたの?」



 若干顔色が悪く見えるミスラの様子が気になって声をかけてきたレイに、だがミスラは手のひらにのせた金属、即ちお守りのネックレスをじっと見下ろす。

 金属の接続部がところどころ少しさびているようだ。

 あのふたりに言えばまた作ってくれるだろうか。



(あれ。どうしよう…なんか急に心細くなってきちゃった)



 さっきまでは過保護だとか言っていたくせに、いざ無くなってしまうと心許ない。

 ミスラはさみしくなった首元を指でなぞった。



(結構頼りにしてたのかな、あのお守り)



「ミスラー?」



 耳元で聞こえたレイの声に、ミスラはハッとして顔を上げた。



「あ、ううん、なんでもない……よ…」



 この時ミスラは、これは夢かという疑いを初めて自分に持った。



「なに、これ」



 目の前にいたのは友人のレイ、などではなく



『ギュルルルルルルル』



 陽光が消えた空の下、不気味に蠢く真っ黒い巨大な花のバケモノだった。



 □■□



 それは、ジルベールがミスラの新しいネックレスを作るため、自室に籠っていたとき。



「……!!」



 そのパーツを選んでいる途中、全身の血も凍りつく様な恐怖を覚えて手を止めた。



「こ、これはいかん………!」



 慌てて部屋を飛び出し、リビングに向かうジルベール。



「ばあさん、ソフィばあさん!」



 はぁはぁと息を切らしながら、ジルベールは自分の妻を呼んだ。



「あらおじいさん。さっきあの子達に連絡したらね…」



 言いかけたソフィは、ジルベールの瞳から、焦りと共に絶望感が滲み出ているのを、一瞬で見抜いた。



「何か、あったのですか?」



 ソフィの問いに、ジルベールは心ここにあらずな様子を見せた。



「……切れて、しもうた……」



 掠れた声で答えた。だがソフィはジルベールの返事がよく聞こえず、衝動的に聞き返す。



「……え?」

「ミスラちゃんのネックレスが、切れてしもうたんじゃ!」

「まさか!?」



 彼の口から放たれた言葉に、ソフィは絶句した。

 ジルベールは続ける。



「一刻も早く、あの子らにこのことを知らせねば!奴らが襲ってくるのも、もう時間の問題じゃぞ!」

「それなら大丈夫よ。今さっき連絡したらあの子達、ちょうどこの辺りに来ているみたいだから」

「本当か!?」



 ピンポーン———



 ジルベールがとりあえず一安心と息をついた時、来客を知らせるチャイムが家の中に響いた。



「む?誰じゃ!」



 焦りから怒気のはらんだ声とともに勢いよく家のドアを開けたジルベールは、飛び込んできた光景に目を見開く。



「お、お前さん……!」



 そこには左目に眼帯を付けた男が立っていた。

 男は口を僅かに開き、ジルベールに対してこう言った。



「お久しぶりです」



 予期せぬ客人に驚きを隠せないジルベール。それに対して、眼帯の男は表情ひとつ変えることは無かった。



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