国境
ルチア達一行は深い森の中をさまよっていた。
「あっ」
「どしたの?疲れた?」
「ううん。木の棘に制服引っ掛けちゃったみたいで、ここほつれてる」
スカートの裾を持って糸が飛び出たところを先を歩くセレネに見せるミスラ。
「学校の制服、着てこないほうがよかったかな」
「大丈夫。汚れたらわたしの服、貸してあげる」
「え。あーうん。ありがと……」
「ん」
どうしても自分の服を着せたいのか。
一度は回避できたはずかしめを、次はどうやって切り抜こう。ミスラは頭を悩ませた。
はっきり「嫌だ」と言えばそれ以上言ってくることはないと思うが、それではセレネを傷つけるかもしれない。自分の危機は脱出出来てもなんというか……後味が悪い。
「…………?」
ミスラはふと周りを見渡して口を開く。
「この森……よく見ると生えてる木は全部榎だ」
その言葉に前を歩いていたルチア達が視線を足元から木へと移した。
「そういえば全部葉の形が同じだね」
小枝についた葉を見上げながら、ルチアが言った。
「でもよくわかったね。好きなの?植物とか」
「おばあちゃんが詳しいので小さい頃から色々聞かされてたんです」
感心したフェルドがへぇと頷く横で、セレネが微かに目を輝かせる。
「ミスラ、すごい」
「えへへへ。たしか榎の花言葉は……」
「そんなことどうでもいいですわ」
————ピシッ
棘のあるエルの言葉が、場の空気を音を立てて凍りつかせる。
「エル。そんなこと言わないの。仲良し。ね?」
唇を噛み締めてぐっとこぶしを握るエル。
「っ、お姉さま……。でも、私は……」
セレネは俯いて言葉を詰まらせる彼女に、手を差し伸べた。
「行こ。もうすぐ着くから」
「……はい…」
エルがその手を取ると同時、セレネはミスラにも反対の手を伸ばす。
「ミスラも」
「え……」
共にいると空気が悪くなる気がして、ミスラは差し出された手を取ることをためらった。
「……わたしは…」
「3人一緒に行くの。ほら」
「……う、ん」
渋々セレネの手に自分の手を重ねる。するとその手を勢いよく引かれた。
「!!」
一瞬で近づくセレネとの距離にミスラの頭は現状の処理に追いつかず、そこだけゆっくりと時間が流れているような錯覚を起こした。
風がセレネの長い黒髪を緩やかに巻き上げる。頬をかすめたその髪の一筋から、ミスラの知らない匂いがした。
「ん。完、璧っ……!」
「……え?」
気が付くとミスラはセレネに腕をがっちりと絡まれ、一定の自由を制限されていた。見ればエルも自分と同じ状況にあったが、彼女は何故か嬉しそうに微笑み視界にはセレネしか入っていない様子だった。
「これならみんな仲良くできる」
「仲良くなれるかどうかは置いといて、私はお姉さまと密着したこの状況に……あぁ!歓喜のあまり気を失ってしまいそうですわ!」
「エルさん落ち着いて」
「いいえ!気を失うなどそんな勿体ないことできませんわ!このような距離でお姉さまを感じることができる。あぁああぁこんなにも近くにお姉さまのお美しいお顔が……!今私の右腕はお姉さまの体温を受け取りそして豊満なこのおむn……」
「エルさん落ち着いて!!それ以上言うのは良くない気がする!わたしもちょっと感じてるけど!自分との差に落ち込んでるところだけど!」
それから森を出るまでエルの興奮はおさまらなかった。
お読みいただきありがとうございます。蒼依です。
エルは読んで分かる通りセレネの事が大好きなのです。 そう!周りの目なんか気にしなーい。
そして前回の新キャラの影ですが今回はまだでした。次に出てきます。お楽しみに。