聖国ルシアーゼ
———………
そこは、闇の中で暖かい色の光が舞っていて
「…………」
舞い遊ぶ光と同じ色の髪と瞳をもつ少女がひとり、そこに『存在して』いた。
「……ここは……?」
少女は光をひとつ手のひらにのせてつぶやいた。
光は少女の手に触れると小さくはじけて消えた。
「綺麗……」
おいで————
不意に少女を呼ぶ声がした。
「だぁれ……?」
『———おいで』
「………?」
おいで————
声の主を探して動かした少女の瞳が捉えたのは
「………とり、かご…?」
ぼうっと光る大きな黄金の鳥籠だった。
今まで少女のまわりをちらちらと浮遊していた光が、次々に南京錠が掛かった金の鳥籠へと吸い取られるように集まってきた。
「…………!!」
光たちが照らし見せてくれた『者』に、少女の瞳が開かれる。
「———————」
□ ■ □
「………ら……みすら……。起きて、ミスラ」
「……う、ん…?」
揺れる馬車の中、セレネに起こされたミスラは目を覚ました。
「…お姉ちゃん…。あれ、わたし寝てた……」
「ん。………悪い夢、みた?」
ミスラの汗ばんだ額に、セレネが優しく触れて言った。
「…あ…うん……ちょっと……」
窓に寄りかかった体を起こして、ミスラはその先の言葉をつまらせる。
「…………?」
「ううん、なんでもないよ」
さっきまでみていた夢を隠すようにミスラが笑顔を取り繕った時、馬車がガタンッと言うと音を立てて止まった。
「到着しました」
御者が外からそう声をかけた。
「ああ、ありがとう」
ルチアがお礼を言って馬車から降りる。
次いで外に出たフェルドとエルは目の前に広がる景色にため息をこぼした。
「あらー。これは想像以上だね」
「……ねぇ、まさかこの中を歩いていくなんてこと言いませんわよね」
セレネとミスラはその様子に顔を見合わせ首を傾げながら馬車から降りた。
「うわあぁ。すごいねお姉ちゃん!」
ミスラは思わず感嘆の声を漏らした。
眼前にあったのは、一面の森。
ゆさゆさと太い枝を風に揺らす木々。それはまるで行く手を阻む大きな壁のようだった。
ルシアーゼという国は聖獣と人間が一緒に暮らしていて、部外者が国に近づけないように周りを木々で覆っていると事前に聞いていた。
馬車のようにに大きいものは通れないので、ここからは歩いていかないと国まで辿り着かないことになっているのだが。
『……………』
一同の間に沈黙が流れる。
「行きたくありませんわ」
「エル。今その言葉をみんな堪えてたのに」
フェルドが隣で眉間にしわを寄せるエルに、空気を読んでと遠回しに注意する。
「あははは……まあここで立ち止まってても仕方ないしね。行こうか」
生い茂る木々の方へと歩き出すルチア。その後ろをだるそうに付いて行くフェルドが声を上げた。
「あーあ。もう少し楽な仕事がしたいなー」
「無茶言わないの」
「お姉さまっ。私と手を繋いでいきましょう。足元危ないでしょうから」
そう言ってエルがセレネの右腕に自分の左腕を絡ませる。
「ん」
「あ、じゃあわたしも」
「ん」
セレネのもう片方の腕をミスラが両腕で包み込むのを見て表情を歪ませるエルが言う。
「ちょっと!何故ですの?お姉さまの助けは私だけで十分ですわ」
「わたしはお姉ちゃんと手を繋ぎたいだけです。エルさんには関係ありませーん」
ふい、とそっぽを向いて唇を尖らせるミスラに、エルは下唇を噛んだ。
「生意気ですわよその言い方!!」
「年下に生意気とか言われなくないです!」
ミスラとエルがぐぬぬぬと火花を散らして睨み合う一方、セレネは大好きなふたりに囲まれて嬉しいのか、ほこほこと顔を紅潮させていた。最もそれは彼女をよく知る人にしかわからないほどの小さな変化だが。
火花と小花が散る中、ルチアを先頭にミスラ達はその深い森に足を踏み入れた。
□ ■ □
白い床。白い壁。白い天井。
「ねーぇ、ハンプティ」
「なぁーに、ダンプティ」
そして白い光と、ふたつの白い「人」
「お客様、まだかな」
「もうすぐ来るって女王様言ってたよ」
白い紐を指に掛け合い遊ぶ白いふたり。
「早く来ないかなぁ」
「早く来ないかなぁ」
同じ言葉を繰り返して話すふたりの少し大きな耳が何かに反応した。
『!!』
ぴくぴくと動く耳に入ってきた音。
白いふたりは顔を見合わせた。
『きたぁぁっ!!』
こんにちは。
今回は新キャラの影だけチラつかせて続きは次回です。よろしくおねがいします。
今回もお読みいただきありがとうございますd('∀'*)