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休息

 

 ………————


 国際警察チアーノ支部屋敷。

 携帯電話の目覚まし音で、ミスラは目を覚ました。

「んんーーっ」

 まだ眠いと訴える体を伸ばして、ベッドからおりる。

 洗面所の大きな鏡に、相変わらずの爆発した寝癖がうつり顔をしかめながらも身支度を始めた。髪を軽く整え、寝ぼける顔を冷たい水で起こす。

 まだ中身がスカスカのクローゼットから、数日前に借りた数着の服を今の気分で選んだミスラは。

「………。この服全部お姉ちゃんのなんだよね。お姉ちゃん、いつもこんな短いのはいてるのかな……」

 細かい装飾の施された薄い緑色のワンピースを、全身鏡の前で自分の体にあててみた。

 首周りの広く開いたそのワンピースに、ミスラは思わずため息をつく。

「双子に有るまじき体格差……しんどい……」



 早朝のキッチンから陽気な鼻歌が聞こえる。

「ふんふんふーん。今日の朝ごはんはなににしようかなぁ」

 ぴしっとアイロンのかけられた白シャツに、同じくシワひとつない黒いズボンのいう服装で冷蔵庫を開けるのはルチア。

「卵が沢山あるから、目玉焼きにして食パンにのせよう」

 そう言ってルチアは、壁にかけてあった白いひらひらエプロンをかける。

「あとは……野菜のスープがいいかな」

「おはよう」

 大きなあくびをしながら、フェルドがキッチンに顔を出した。

「フェルド、おはよう。眠そうだね」

「うーん。昨日乙女たちの手入れしてたら遅くなっちゃって」

 フェルドの言う『乙女たち』とは、彼の対影花用武器である2丁拳銃のことだ。

「ふーん」

 野菜を慣れた手つきで切るルチアの姿に、フェルドは可笑しそうに笑う。

「そのエプロン、まだ使ってるんだね」

「………うん。せっかくもらったんだし、使わないと勿体ないでしょ?」

「まぁ、そうかもしれないけど」


 男なのにどうしてそんなに女性用のエプロンが似合ってしまうんだろう……


「………」

 ふと視線を感じて振り向いたルチアは、真面目な顔をしてじっと見つめてくるフェルドに首を傾げた。

「なに?」

「いや……。ルチアってさ、本当は女……」

「男だよっ!!寝ぼけてんの!?」

「おはようございます」

 ダイニングルームからふたりに挨拶をしたのはミスラ。

「おはよう、姫」

「おはよう」

「おはようございます。あ、お手伝いします」

「本当?ありがと」

 前を通り過ぎてルチアの手伝いに向かうミスラを、フェルドが視線で追う。

「姫」

「はい?」

 トースターに食パンを入れながらミスラがフェルドの方を振り返る。

「どうして…学校の制服着てるの?」

「えっ」

 フェルドの言葉に、行く予定のない学校の制服を着るミスラの顔がひきつる。

「確かに……。昨日セレネに服を何着か借りたんだよね」

 ふたりの視線が一気に注がれ、ミスラの太陽色の瞳は宙を泳いだ。

「あ、いやぁ、なんていうか…その…わたしの好みじゃなかった、みたいな……?」

「ふーん…?」

「双子でも、そういうのって違うんだね。面白い」

「あははは……」


 言えない……

 自分の体型がお姉ちゃんと違いすぎて恥ずかしさと何故か申しわけなさを感じて着れませんでしたなんて絶対に……言えないっ


 ルチアとフェルドに乾いた笑いを返しながら、ミスラは心の中で涙を流した。

「ミスラ。今日は館内を案内しようと思ってるんだけど、何か予定ある?」

 ルチアがスープを煮込みながら聞いた。

「いえ、特になにも……」

「そう。よかった。じゃあ朝ご飯食べ終わったら行こう」

「わかりました」

「えー。ルチアだけずるくないか?」

 フェルドの言葉にスープの味見をしていたルチアは、小皿から口を離した。

「なにが?」

「だって館の案内なんて口実つけて、今日一日姫を独占するつもりなんだろ。ずるいじゃないか」

 そう言うフェルドに、ルチアは半目の呆れ顔で言い返す。

「………。あのさ、その何でも男女関係にもっていこうとするのやめない?」

「違うの?」

「違うよ!!え、なに!?フェルドは俺が本当にそんな事考えてると思ってたの!?」

「思ってた」

「うわ……」

 本気で引きながらスープの入った鍋をダイニングルームに持っていくルチア。

 ミスラはその後ろからずっと言おうとしていたことを口にした。

「あの、フェルドさん。わたしのことは普通に名前で呼んでください」

 その言葉に、フェルドはにやりと口のはしをあげた。

「………。えー、じゃあ……」

 不意に距離を縮められ異性にほぼ免疫の無いミスラの体が警戒音を鳴らす。フェルドは自分から一歩後ずさるミスラの首に手を伸ばした。肩にかかるその太陽のようなオレンジ色の髪を一筋手にとると、腰をかがめふっと不敵に笑って言った。

「ミスラ姫………?」

「っ!?」

 瞬間、ミスラの顔が赤く色付く。

 それは調子にのるフェルドへの怒り故か、それとも羞恥からか。

「ひ…姫はいりません!なんなんですかそのあだ名は!もうっ!」

 近すぎるその距離にお互いの息が交ざりあってしまいそうで、ミスラは反射的に顔をそむけた。

「あ、照れちゃった?かわいいなぁ」

「かっ………!?照れてなんかいませんよ!」


 ………チンッ


 トースターがパンの焼き上がりを教えた。

 にやけるフェルドを手で押し退け、ミスラはこんがりと焼けた食パンをいそいそと皿にのせ強めの口調で言った。

「あ…あんまりからかうと、怒りますよ!」

「はは、ごめんね」

 余裕のあるふうなフェルドの笑顔と態度に振り回されないうちにと、彼の横を早足で通りキッチンを出た。


お読みいただきありがとうございます。朝食はパン派の蒼依です。

隊員たちのしばしの休息、ちょっと落ち着かないけど貴重なお休みのときを次話も続けてお送りします。

よろしくおねがいします。

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