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蒼の剣士 ~ fantasy ~  作者: 紅の豚丼
6/53

剣聖

(6)


 レーヌ河畔…

 エルフィア王国、東方諸都市視察隊本陣

 国王一家の天幕前ーーー


「リーシェ!リーシェしっかりして!」

 リーシェはラーリアの言葉に、もはや答えることはできなかった。

 気が尽きかけている。ラウンデルの目から見ても、それは明らかであった。彼は後悔の臍を噛む。

 あの時、精霊魔法(エレメント)を使わせなければーーー

 ラウンデルは首を振る。あの時そうしなければ、結果はもっと酷いものになっていただろう。暗殺者の数も知れず、首無騎士(デュラハン)に襲われて何もできずに、国王一家を惨殺され、エルフィア王国全土が大混乱に陥っていたに違いない。

「ラーリアーーー僕をーーー刺すんだ」

「できないよ」

 そう言ってラーリアは泣きながらリーシェを抱きしめた。

 既にリーシェの身体は、顔を含め半分近くが黒く染まりかけている。


 その時。

「エルフィア王国軍の本陣は、ここか」

 鈴がふるえるような、若い女性の声。

 足音もなく、一人の女性が近づいて来る。 

 聞き覚えのある声に、ラウンデルは立ち上がると、振り返る。

 どうやらやってくる相手は、敵では無い様子であった。

 近づいてきた人の顔が篝火の灯で見えると、ラウンデルの顔色が変わる。

 彼は恐懼してその場に跪いた。

「久しぶりじゃな、ラウンデル」

「はっ」

 やってきたのは、長い金髪をした、耳のとがった美しいエルフの女性であった。腰には細身の長剣一振りを帯び、ブーツにチュニックという軽装である。その美しさに、居並ぶ者たちはみな息を飲む。彼女は、リーシェを抱いて泣いているラーリアのそばに歩み寄った。

「娘」

 呼びかけられてラーリアは涙にぬれた顔を彼女のほうに向ける。

「リーシェを私によこしなさい」

 言われるままにラーリアは彼女に場所を譲る。

「…また随分と、無茶をしたな」

 ソルフィーは二言三言古代語のルーンを唱えると、リーシェの左の二の腕の傷口にそっと触れる。

 リーシェの身体に眩い光が流れ込んだ。と同時に、リーシェの口から、先程リーシェに取り付いた悪霊が苦しみながら逃げ出してくる。

「フィルカスめが」

 忌々しそうに彼女は悪霊に呟く。

「私の前に次に現れたら、必ず切り刻んでやる。許しはせん、覚悟しろ」

 そう言うと、彼女は目の前の悪霊を、鍔鳴りの音も高く、見事に居合で一閃した。

 居並ぶ傭兵達、騎士達が目を疑う。明らかに、ただ者ではない。あまりの居合の速さに、彼女の剣筋を見ることができたものは一人もいなかった。

 悪霊は断末魔の声をあげて虚空に散った。

 リーシェの顔色が、元に戻る。肩で息をしているリーシェに、彼女は優しく言う。

「お前はいつも、無茶ばかりするーーーあまり私に心配をかけるな、リーシェ」

 リーシェは微かに笑うと、小さな声で感謝の言葉を口にする。彼女はリーシェの言葉ににっこりすると、かしこまっているラウンデルのほうに厳しい顔で向きなおる。

「---大方、その方が私のかわいいリーシェをこき使ったから、こんなことになったのであろう、ラウンデル」

「も、申し訳ございません」

「いつもよからぬことばかり企んでおるから、こんなことになるのじゃ。…何じゃ、この無様な陣立ては。襲ってくださいと言わんばかりではないか」

 ようやく立ち上がったリーシェが、彼女に言う。

「どうかラウンデル師兄を責めないでください、先生…師兄のせいではないのです」

「先生…って…まさか」

 ラーリアの言葉に、リーシェは頷く。

「そう、彼女が僕の師、剣聖アルウェン・レオンハルト・ソルフィー様だ」

 リーシェの言葉に、ソルフィーは目を細める。リーシェはソルフィーにラーリアを紹介する。

「リーシェが世話になっているようじゃな。礼を申す」

「と、とんでもありません!アタシ、リーシェに助けてもらったんです」

 ソルフィーはシャルロット姫に支えられて立ち上がろうとしているリシャールに歩み寄る。

「そなたの名は」

「リシャール・ヴァンダム・コーディアスと申します、剣聖様」

 ソルフィーはリーシェを振り返る。

「この者にマスターを授けたのは、そなたか」

「はい」

 ソルフィーは満足そうに再び目を細める。

「よく戦ったようじゃな。明日にでも、一つ褒美をやろう。今夜はゆっくり休むがいい」

「ありがとうございます剣聖様、お久しぶりです」

「姫君か、美しゅうなられたの」

 ソルフィーは満足げにほほ笑む。

「私共は、天幕に戻ります」

 リーシェはソルフィーに礼をする。ソルフィーは慌てて言う。

「では、私もそこへ」

「ラウンデル師兄も同じ天幕ですが、よろしいですか」

 リーシェは笑って言う。ソルフィーはうんざりした顔をする。

「---こやつも一緒か。まあよいわ、厄介になるぞ」

 宿営地のあちらこちらに篝火が焚かれ、ようやく体制が整ったのは、夜も更けてからであった。


 D・S隊野営地

 本部天幕ーーー

「良い酒じゃな」

 ソルフィーはリーシェがコップに注いだ酒を一口飲んで言う。

「バレスティア産か」

「はい」

 保存のきく大きな田舎パンを、ラウンデルが自ら切り分け、チーズとともに皿に乗せてソルフィーに差し出す。ラーリアが外から温かいスープを運んでくる。D・S隊の主だったメンバー、ラウンデル・リシャール・ラーリア・ジェット、そしてリーシェが、ソルフィーと遅い夕食の卓を囲んでいた。

「そなたがあやつの剣を直接受けたのではないことは、すぐにわかった」

「申し訳ございません」

 リーシェは深々と頭を下げる。よいよい…とソルフィーは目を細めた。

「そなたがリシャールを救おうとして、身を傷つけたこともな」

 しかし、とソルフィーは言う。

「おのが気のみで黒死剣の悪霊を焼き殺すことは、簡単ではない。マリューがそれをやるのは、奴の信じる十字教の神の力を借りてのことなのじゃ」

 リーシェは神妙に頭を下げる。

「しかし、予想以上にエルフィアの近衛騎士団は使えんのう…」

「あの、剣聖様」

 ラーリアが尋ねる。

「何じゃラーリア」

「剣聖様はお若いのに、どうしてそんな話し方をなさるんですか」

 ラウンデルとリーシェの頬に、微かに緊張が走る。しかしソルフィーは上機嫌で、こう答えた。

「ラーリア、そなたはよい娘じゃな。私はエルフだから、こう見えてもそなたらよりはだいぶ年が上なのじゃ」

「リーシェの先生が、まさか女性ーーーそれも、こんなに美人だなんて」

 ラーリアはため息をつく。ソルフィーはラーリアに酒を注いでやりながらいう。

「そなたは腕のいい傭兵じゃから、いつもあまり意識はせんのじゃろうけれど…そなたとて若く、十分に美しいぞ」

「ありがとうございます」

 ラーリアはソルフィーの言葉に、素直に礼を言う。ソルフィーはリーシェに言う。

「よい仲間に、恵まれたようじゃな」

 リーシェは頷く。

「それもこれも、ラウンデル師兄に会えたからです」

「こやつもたまには、役に立つということか」

「きついですな」

 ラウンデルは苦笑する。

 リーシェとリシャールは、今回の陣立てに関しての経緯をソルフィーに話した。

「なんじゃ、お飾りのくせに、見栄だけは一人前、ということか。どうなるかが見えていながら、それを容認したそちもそちじゃ。肝心なところで甘いのは、相変わらずじゃな」

 ソルフィーは再びラウンデルを叱責する。

「ラスカーに気を使うことなどないのじゃ。そちの危惧や感覚は、すべて当たっておった。それも、そちの想定した最悪の方向にな」

「しかし、その想定があればこそ、奴らを退けられたのです、先生」

 リーシェの言葉に、ソルフィーは頷く。

「本当は、エルフィアの全軍を、そちが動かすべきなのじゃろうがーーー」

「私はその器ではございません」

 ラウンデルはきっぱりと言い切る。

「帷幕にあって、策を立てること。そして敵の策を読み、その裏をかくこと。それが私の仕事です」

 ラウンデルはリシャールの方を見て、

「家柄・人物・仁徳その他を鑑みても、その役目は彼、リシャールのものでありましょう」

 ソルフィーはリシャールを見る。

「---それ故リーシェは命がけで彼を護ろうとした、というわけか」

 リーシェは頷く。

 ソルフィーはまた一口酒を飲み、明日ここで王に会う、と告げた。

「今夜は皆休め。私が夜を明かそう」

「先生」

 リーシェが不安そうな顔をする。ソルフィーはリーシェを見ると、

「そんなに心配するな。二日や三日寝なくても、私は死にはせん」

「ではお言葉に甘えることにいたします」

 ラウンデルは深々と頭を下げる。

「そうじゃな。私がここにおることを知れば、奴は決して仕掛けては来ん」

 ソルフィーはきっぱりと言い切る。 


 レーヌ河畔

 エルフィア王国、東方諸都市視察隊野営地

 朝五時半―――


 朝の光が野営地に差し込む。騎士達、傭兵達は皆忙しく立ち働き、炊煙が上がり始める。

 ソルフィーは川岸に立ち、その様子を眺めていた。周囲に敵の気配は全くない。フィルカスは銀水晶を使い、主戦場である聖十字教国(クルーセイド)に逃げ戻ったのであろう。であればエルフィアがすぐにウィルクスの侵略を受ける恐れは、ひとまずのところなくなったと見てよい。これで諦めた、とは思えないが、当面自分が手を下す必要はないだろう。そう、ソルフィーは考えていた。涼しい風が川を渡って吹いて来る。

 後ろから足音を感じ、ソルフィーは振り向いた。

「こちらでしたか、剣聖様」

 やってきたのはリシャールであった。

「昨夜はお助けいただき、ありがとうございました」

「なんじゃ、礼などよいわ」

 ソルフィーは目を細めて言う。

「それと、その場で剣を構えよ。昨日そちに言った褒美をやろう」

 リシャールは緊張した面持ちで剣を抜く。

 ソルフィーは細身の長剣を鞘から抜く。

「参れ。―――リーシェと手合わせしたように、来るのじゃ」

 リシャールはお願いいたします、と一声かけると、一気に間合いを詰め、剣聖に一太刀を浴びせる。ソルフィーはその一撃を片手で、剣で受ける。

「良い一撃じゃ」

「!」

 リシャールは一瞬驚く。か細い彼女の腕のどこに、こんな力があるのか。リシャールがいくら剣に力を込めても、彼女の剣はびくとも動かなかった。しかしそれもほんの一瞬のこと。彼女はあのリーシェの師、自分ごときの力が、そもそも通じるはずはないのだ。全力で、とにかく全力で―――斬るつもりで!

 彼の愛剣「両刃のローラン」が、彼の想いに答える。彼の剣が、まるで炎のような白い光の揺らめきを放つ。気合とともに、リシャールは剣を振り抜く。

 ソルフィーはすっ…と身を躱す。彼女の後ろに広がった河原の枯れ葦が、リシャールの剣が放った光に刈られて風に吹き飛ばされる。

 ソルフィーは剣を鞘に納める。

「これが『衝撃斬(ソニック・ブレイド)』じゃ。…後は自分で磨き、修行するのじゃ」

 ソルフィーは言う。

「踏み込みから見てそなたは既に、『斬岩剣(ソリッド・スラッシュ)』は使えるようじゃし、並の相手に後れを取ることはあるまい。後はリーシェと手合わせして、受けを少しずつ学んでいくことじゃな」

「ありがとうございます、先生」

「それでよい」

 ソルフィーはリシャールに微笑む。

「そなたは私からも剣を学んだのじゃ。タズリウムやリーシェの弟子である以前に、私の弟子でもある。―――リーシェの後にもう弟子は取るまい、とも思ったが、そなたは私にとっては孫のようなもの。どこまで大きくなるのか、見てみたい」

 リシャールは深々と頭を下げる。

「ところで、そなたがここに来たのは、何かあってのことでは」

「そうでした、朝食のお支度ができましたので――」

「早いな。では参ろう」

 二人は河原から緩やかな坂を上り、天幕に戻ってきた。天幕の外にテーブルと椅子が並べられ、つつましい食事の支度が整っていた。既にラウンデルやリーシェは起き出して天幕をたたんでおり、輜重隊の兵士達に荷物を託していた。ジェットがソルフィーを上座に案内する。

「剣聖様、どうぞこちらへ」

「すまぬな」

 ソルフィーは言われるまま上座に座り、朝食が始まった。彼らの今日の任務は、昨日の野営地まで一行を無事に進ませること。食事が終わり次第、先遣隊が出発する予定であった。

 手早く食事をすませると、テーブルや椅子を全てたたみ、輜重隊の馬車に積み込み、一同は再集合した。ラウンデルはソルフィーのために馬を一頭引いて来る。

「リーシェはどちらの隊に」

 ソルフィーの言葉に、リーシェは先遣隊として進む予定であることを告げる。

「では私は、王の側におることにしようか。それで良いなラウンデル」

「そうお願いしようと思っておりました」

 ソルフィーは頷く。

「ラーリアとリシャールも我が側におるがよい。昨夜本陣を守り切ったのは、そなたら両名の手柄じゃからな」

「ラウンデル殿も、ジェット殿も駆けつけてくれました。私達のみの手柄ではございません」

 リシャールはあくまでも謙虚に言う。

「そうじゃな。じゃが、我々六名の内三名は、先遣隊として道中の安全を確保せねばなるまい。それをリーシェ、ラウンデル、ジェットがやらねばならぬ」

わかるな、リシャール。そう、ソルフィーは諭すように言う。

 ソルフィーはリーシェに言う。

「昨夜の酒は、まだあるのか」

「はい、小さい樽ですが、半分位なら」

「ではそなたは先に行って、鶉の二、三羽も仕留めておくがよい。せっかくの行軍じゃ、すこしは美味いものを食わんとやる気が出ぬわ」

 リーシェはにっこり笑うと頷く。

「お任せください。当隊には、串焼の名手がおります」

「ほう、そちが焼くより上手か。それは楽しみにしておこう。ラウンデル、その者も先遣隊に加えておけよ」

 ラウンデルは恭しく礼をした。

 ラーリアがソルフィーに言う。

「あの、…私もご一緒していいですか」

「勿論じゃラーリア、肉は好きか?ではリーシェ、気張って狩りをするのじゃぞ。大切なお客を招くからの。獲物は―――多いほどよかろう」

「先生もご一緒にいかがですか」

「そうじゃな、到着し次第行く」

「かしこまりました」

 そう言ってリーシェは馬上の人になる。

「じゃ、先に行く。先生をたのむよ、二人とも」

「気を付けてねリーシェ」

 ラーリアが手を振る。リシャールは騎士礼を取る。傭兵隊の半数が、先遣隊として出発した。次にヴェスタールの率いる二百の東方騎士団の半数。その後ろに、近衛騎士団が続く。

 ソルフィーとリシャール、ラーリアの三名が、王の馬車のすぐ側に付き、守りを固めて出発したのは、八時を少し過ぎた頃であった。


 東方への街道――

 王妃と王女シャルロット、女官たちの馬車―――


 シャルロット姫は、夢を見ているような表情であった。

 昨夜、命がけで自分を護ってくれた最愛の人リシャールが、美しく磨きあげられた魔法銀の鎧に身を固め、自分の馬車をすぐ側で護ってくれている。その姿を見ることができることが、彼女にとって無上の喜びであった。彼女は本来は下座である窓際の席を占め、リシャールの姿をぼうっとしながら眺めていた。

 リシャールに剣聖ソルフィーが馬を寄せ、何事か指示する。リシャールは拱手して一礼し、風のように列の前の方に馬を走らせて行く。窓辺のシャルロット姫の顔が、悲しげに曇る。

「済まぬの、姫君。じゃが、そなたを護るため、リシャールには大いに働いてもらわねばならんのじゃ」

「剣聖様!」

 ソルフィーから窓越しに直に声をかけられ、シャルロット姫は驚いてお辞儀をする。

「ソルフィー様、娘はきちんとそのことを理解しておりますわ」

「これは王妃様」

 ソルフィーは馬上で騎士礼を取る。

「しかし、折角久々に会ったのに、話も出来ねば姫君もおかわいそうじゃ。今宵は私がささやかながら、宴を開くので、両陛下と姫殿下にもおいでいただきたく思うのじゃが」

「まあ、よろしいのですか?」

 ソルフィーは、リーシェに先遣隊としてタルソに急行し、両陛下と殿下の為に狩りをさせていることを告げた。剣聖ソルフィーと、蒼のリーシェの宴である。

「剣聖様、リシャールは…」

「リシャールは我が一門の弟子。同席いたします」

「お母様、素晴らしいお話ですわ」

「お父様にもお伺いしないと」

 王妃は逸るシャルロットを窘める。

「では、陛下もお誘いしてくることにしようかの」

 ソルフィーは王妃に一礼すると、馬の歩みを早め、前の馬車に追いついた。後ろから窓越しにトーラスⅢ世と暫く会話し、…快活な笑い声をあげ…、一礼すると馬の歩みを緩めて、また王妃とシャルロット姫の馬車の側に来た。

「お許しをいただいて参りましたぞ、王妃様、姫殿下」

「剣聖様、ありがとうございます!」

 シャルロット姫の顔は、喜びに輝いた。ラーリアはその様子を馬上で眺めていた。

 あんなに素直に、自分の想いを外に表すことができるなんて。自分にはとても無理だ。

 それに、何年も一人のひとを想い続ける純粋な気持ち、一途さ…。

 明るく美しく、可憐なシャルロット姫を見て、ラーリアは自分にないものを沢山見せつけられた気がした。彼女は小さくため息をつく。

「どうしたのじゃラーリア」

 その溜息に気付いたソルフィーが、ラーリアに声をかける。

「大丈夫です、剣聖様。なんでもありません」

「あの娘は?」

 王妃がラーリアを見て、側の女官に尋ねる。その問いには、シャルロット姫が答えた。

「お母様、彼女は昨夜リシャールと二人で、私たちの天幕を悪霊から守り続けてくれた、エルフィア最強の傭兵団『D・S(ドッペル・ソルドネル)隊』の小隊長、ラーリア・フライブール殿ですわ。リシャールが第一小隊長、彼女が第三小隊長。そううかがっています」

「まあ、それはそれは…私からも礼を言わねばなりませんね」

「勿体ないお言葉」

 ソルフィーはラーリアに馬を並べ、王妃とシャルロット姫に言う。

「彼女も私共の宴には同席させます。詳しいお話は、その時にでも」

 そう言って、ソルフィーはラーリアとともに馬を進める。

 ラーリアは少しだけ哀しそうな表情をして、ソルフィーに言う。

「―――あんなに素直に、自分の気持ちを表に出せたら―――」

「そなたも、そうすればよいのじゃ、ラーリア」

「アタシは…」

 ソルフィーはラーリアに優しく言う。

「そなたとて、一途で芯が強い、素直なよい子ではないか」

 ラーリアは微かにはにかんで、高く登った陽を見上げる。その時、列の前方から、リシャールが戻ってきた。わずかだが、行軍のペースが上がったようである。

「お言いつけの通り、速度を上げるように命じて参りました」

「ご苦労。リシャール、今宵はリーシェが捕えた獲物で、陛下や姫殿下をおもてなしすることにした。そなたも同席せよ」

「は…あの、よろしいので」

 ソルフィーはサファイアのような青い瞳を、リシャールに向ける。

 無言の圧力に、リシャールは参加を約す。

「それでよい。…せいぜい姫殿下をおもてなしして差し上げることじゃな」

 リシャールは耳まで赤面して頷いた。


 午後二時―――

 東部辺境、タルソ村郊外、アンヴィル丘陵

 エルフィア軍野営地―――


 行軍速度を上げたエルフィア軍は、陽が高いうちにタルソ村郊外、アンヴィル丘陵に到着した。既に先遣隊により、宿営地の割り振りが済んでおり、それに従って迅速に天幕の設営、防護柵の設置が行われ始めた。昨日の手際とは天地の差である。ソルフィーは野営地に到着するや、長弓を手に林に入っていった。リーシェとともに、狩りをするためである。川から水を組んで来る者、薪の準備をする者…みな忙しく立ち働いていた。その中で、リシャールはソルフィーに言われた通りの準備に大忙しであった。

「リシャール、竈の支度はいいぜ」

「済まないギュンター、頼む」

「いいってことよ。それに、今夜の客は剣聖様とロイヤルファミリーだっていうじゃねえか」

 ギュンターはいつも通りの準備を進めている。

「ま、俺としてはいつも通りにやるだけだけどな」

 ラーリアがリシャールに声をかける。

「後は肉が来れば、煮込みも始められるよ、リシャール」

「ありがとうラーリア」

 ラウンデルが言う。

「さ、羽むしりの準備でもするか」

 ジェットが新しい酒樽をかついで現れる。

「それは?」

「王様からの下され物だ。バレスティア産の白ワインの様だな」

「豪勢だな」

 やがて沢山の獲物を担いで、リーシェが戻ってきた。ソルフィーも一緒である。

「樽ごと川の水で冷やすといいよ、ジェット」

「そうだな、そうすらあ」

 ジェットは軽々と小さな樽を抱え上げ、川に向かう。雉や鶉、山鳥といった獲物が沢山取れたようであった。傭兵たちは手早く獲物をばらし始める。ソルフィーは見つけてきた野生のハーブを糸で縛り、野菜が入った鍋に入れる。串に肉が刺され、塩と胡椒が振られる。|田舎パン《パン=ド=カンパーニュ》が切られ、大皿に無造作に積み上げられる。


 同、野営地

 王の天幕―――


 風に乗って、肉の焼ける良い匂いが王の天幕まで流れてきた。

 既に近衛騎士団の各天幕前でも、火が焚かれ食事の支度がなされている。そのなかでも、傭兵隊D・Sの本部天幕前の活気と笑い声、意気の高さは、王の天幕からもありありと見て取れた。

「―――程無く支度も整いましょう。陛下のお出ましを待つばかりでございます」

 リシャールが仮の玉座の前に跪く。その時、そこらの農家のオヤジ風の衣服を来たトーラスⅢ世が、同じように農家の女将の恰好をした王妃と、ごく普通の村娘の装いのシャルロット姫を伴って現れた。三人とも頭に小さな略冠をつけてはいたが、堅苦しくなく無礼講でいく、という意思表示であった。

「どうであろうリシャール、こんなところじゃが」

「良くお似合いです。では、参りましょう」

 行って参る、とセギエ候に声をかけ、王は天幕を出た。

「留守を頼むぞ、侯爵」

「存分にお楽しみください、陛下」

「うむ。リシャール、案内してくれ」

「御意」

 リシャールは先に立って三人を案内していく。

 一旦緩やかな坂を下り、そこから少し北東に上ったところに、開けた小さな丘がある。その丘の上に炉が組まれ、赤々と火が燃えていた。篝火が焚かれ、所々に置かれた台の上に、酒や料理が並べられていた。火の側に丸太作りの椅子がいくつも置かれ、その中の主人の席にソルフィーが、その側にリーシェが座っており、何か談笑しているようだった。リーシェの隣にはラーリア、その隣にラウンデル、ジェットと並んでいた。

「あちらです」

「おお、剣聖殿…」

 王は火の側に歩み寄る。ソルフィーは席を立つと、王を自らの隣に案内する。リーシェはその隣に王妃を案内した。リシャールはシャルロット姫の手を取り、王妃の隣に案内する。

「そなたは姫の側に座れ」

 ソルフィーはリシャールに命じた。リシャールは一瞬まごつく。ソルフィーは舌打ちをすると、

「無粋な…姫はそなたの顔見たさに、ヴィサンからおいでなのじゃ。お側にいて差し上げんか」

「しかし―――」

 王妃がリシャールに言う。

「リシャール、私からもお願いします。どうぞそちらに」

 王もにっこり頷く。

「ここには、文句を言う面倒な十五朝の当主たちはおらん。気にするなリシャール」

「では」

 リシャールは姫の隣の椅子に腰を下ろす。見た目だけで言えば、田舎の傭兵団の酒盛りも同然であった。

「お久しぶりじゃ、トーラスⅢ世陛下」

「剣聖殿も。…十年ぶりになりましょうかな」

 酒を満たした木のコップが皆に回される。ソルフィーが立ち上がり、乾杯の音頭を取る。

「エルフィア王とそのご家族の健康に」

「剣聖殿と、ご一門の皆様の武勲に」

 乾杯が叫ばれ、皆が杯を干す。リーシェが皆に焼き串を配る。

「これはこれは、『蒼の剣士』殿に給仕をさせては申し訳ない」

「良いのです陛下、まずは存分に召し上がって下さい。そのままかぶりついていただくのが一番です」

 王はよく焼けた肉にかじりつく。

「旨い。串焼きの名人がおるとは聞いておったが…」

「外で食べると、何でも旨く感じるものです」

 前掛けをしたギュンターがそう言うと、新たに焼けた肉を皿に乗せて運んでくる。リーシェは肉を一切れ口に運ぶと、バレスティア産のワインを一口含む。

「ありがとうギュンター、今夜も素晴らしい」

「なんの、リーシェが魔戦将軍を追い払ってくれたから、こうして肉が焼けるのさ。さ、どんどんやってくれ、沢山あるから」

 D・S隊の生存者四十六名が、皆手に手にコップを持ち、ソルフィーと王に順に挨拶をしていく。皆それぞれに精悍な顔つきをした、一騎当千の手練である。平隊員たちの挨拶が終わり、ジェットが席を立つ。

「D・S隊、第五小隊長、ジェット・ローゼンフェルド、初めて御意を得ます」

「そなたも、我らの天幕の前で悪霊を斬り払ってくれたうちの一人じゃな」

 ラウンデルが言う。

「昨夜は東からの街道を護っており、フィルカスめの操る首無騎士(デュラハン)を一体打ち倒してございます。当隊でも屈指の大剣の使い手でございます」

「頼もしい限りじゃ、奮戦見事であった」

「ありがたき幸せ」

 続いてラーリアが席を立つ。

「第三小隊長、ラーリア・フライブールでございます」

 シャルロット姫が父王に言う。

「昨夜『蒼の剣士』様と二人で、私たちのところに駆けつけてくれたのは、彼女ですわ、お父様」

 ラウンデルは彼女が部下を率いて林からの八名の刺客のうち六名を仕留めたことを王に伝える。

「女ながら、近衛騎士団にもそなたほどの手練はほとんどおらぬ…王妃と姫を護ってくれて、ありがとう。感謝しておる」

「勿体ないお言葉です、陛下」

 リシャールが席を立つ。

「第一小隊長、リシャール・ヴァンダム・コーディアスでございます。」

「リシャールがおらねば、本陣はフィルカスに蹂躙されておりました。彼がフィルカスを足止めしたおかげで、リーシェとラーリアが間に合ったのです」

 リーシェも席を立つ。

「リーシェ・ロワール・フランシスでございます」

「おお、リーシェ殿…よくぞ、よくぞエルフィアにいらしてくださった。東方ではアルファナイツの副将を討ち、ここではフィルカスを追い払い…その腕、その武勲、まさにグランド・マスターの名に相応しい…」

「リシャールがひとりでフィルカスと打ち合い、足止めしてくれたおかげです。ありがとうリシャール」

「とんでもない。私は奴の悪霊に傷つけられ、命を落とすところだったのです。リーシェが助けてくれなかったら―――」

「そうです、リーシェ様…本当に、本当にありがとうございました」

 シャルロット姫が目に涙を浮かべてリーシェにお辞儀をする。リーシェは慌てて首を横に振る。

「自分がどんな状態かも顧みず、無謀なことをして…先生が来てくださらなかったら、お恥ずかしい話ですが僕も死んでいました。礼など不要ですよ、殿下」

「全くそなたは、時に信じられないような無茶をする。あまり私に心配ばかりかけるな」

 ソルフィーは呆れたようにリーシェに言う。リーシェは再びソルフィーに詫びる。

「しかし、リーシェ殿が傭兵になったと聞いたときはびっくり仰天したものじゃ」

 王はソルフィーに言う。

「お手紙をいただいたのじゃが、待てど暮らせどリーシェ殿がヴィサンに来ぬ。どうしたことかと思っていたら、オストブルクのドナンとラウンデルから報告が届いた。正直、どうしてよいかわからなかったぞ」

「この子は」

 とソルフィーはリーシェに酒を注いでやりながら答える。

「自分がこうすると決めたことを、曲げませんので…困った子です」

「陛下は経緯をご存じなのですか」

「それはラウンデルとドナンの報告で読んだ。騎士団に幻滅されても、仕方が無いと思った」

 リーシェはラーリアのグラスに酒を満たし、器用に肉を骨から外して彼女の皿に乗せてやると、王にこう言った。

「騎士団にも、腕の立つ立派な騎士はいます。ヴェスタール殿やドナン殿は、得難い将であると思います」

「そうじゃな」

「しかし」

 リーシェは周りにいる傭兵達を見回しながら続ける。

「ラウンデル師兄の率いるこの傭兵団は、猛者が揃っています。ここにいる隊長たちの剣は全て、魔法大戦期に作られた本物の魔剣ばかり。剣を見る目があり、技も力も、知恵も勇気も兼ね備えた、素晴らしい本物の戦士ばかりです。各国の騎士団を見ても、これだけの猛者が揃っているところはそう多くない。そう考え、ラウンデル師兄にご厄介になることにしたのです」

「地位や身分は問題ではない、という訳じゃな」

 ソルフィーは納得したように言う。リーシェは頷く。

「先生が折角指南役にと紹介状を書いてくださったのに、我儘をいたしました。申し訳ありません」

「よいのじゃ」

 ソルフィーは満足気に肉をひと齧りすると、ラウンデルに言う。

「最初はそなたがリーシェをたぶらかして、無理やり傭兵にでもしたのかと思ったが―――」

 ラウンデルは苦笑して言う。

「酷いおっしゃり様ですな、先生」

「そうではないことがよく分かった。許せ、ラウンデル。よくぞこれだけの手練をあつめたものよ」

 ラウンデルは恭しく一礼する。周囲に集まっているD・Sの隊士たちは、大樽から赤ワインを酌み、チーズを齧りパンを食べ、語りそして笑い声を上げている。大鍋の、様々な鳥の肉と野菜のワイン煮が完成したようで、それも木の鉢に取り分けられ皆に回される。

「おいしい…」

 シャルロット姫が呟く。リシャールが自分のマントを彼女の肩にかけてやる。彼女は椅子をリシャールの側に寄せ、リシャールの肩にも半分マントをかけ、二人で一つのマントに入りながら暖かな料理を口に運ぶ。王は上機嫌で口にする。

「何としても、宮宰(マヨル・ドムス)に、リシャールを婿にくれるように頼まねばならぬ。この国の為じゃ」

 リーシェはにっこりして幸せそうな二人を眺める。彼はつと座を立ち、自分の天幕の方に歩いていく。ややあって戻ってきた彼の手には、魔法銀の小さなリュートがあった。

「おお、よいものを持っておるではないか。…グアダラーニ!?どこで手に入れたのじゃ」

「オストブルクにある、皆でよく行く料亭の看板娘が、貸してくれたのです。よろしければ、先生もご案内いたしましょう」

「それなら余も同道したいものじゃ」

 王が大いに乗り気でリーシェに言う。王妃が呆れたように王を窘める。

「まあ、貴方。あまりお酒を過ごされてはいけませんよ」

「かたいことを言うな。こんな機会は、二度とないかもしれんのじゃぞ」

 ラウンデルは王に言う。

「―――しかし、確かに『アルキュイ』は、エルフィアの東方辺境では一番の店でございましょう。私が受け合います」

「ラウンデル、それは誠か?なおのこと行ってみとうなったわい」

 リーシェはラーリアに言う。

「十分に食べられたかい、ラーリア」

 ラーリアは満足そうに頷く。

「料理もお酒も最高。まだ飲みたいわ」

「そうだね」

 リーシェは樽からワインを汲んで来ると、ラーリアと自分のコップに満たす。一口酒を飲むと、リーシェはリュートの弦を合わせ始める。

「何か弾きましょうか、先生」

「そなたが好きな曲を。何でもよい、そなたに任せる」

「では」

 リーシェはそう言うと、サラサラ…と静かな小夜曲(セレナーデ)を弾き始めた。音色は深々と星空に広がっていく。みな言葉を失い、ただ黙って酒を飲んでいる。

「不思議なお方…」

 リシャールの方に頬を乗せ、シャルロット姫がそう言う。リシャールも頷く。

「リシャールは剣士様と…リーシェ様と親しいのでしょう?」

 リシャールは頷くが、

「しかし、私も彼と知り合ったのはごく最近なのです」

と続ける。

「彼は混血(ゲミシュト)なのです。…北方では酷い目にたくさんあったと聞きました」

混血(ゲミシュト)…。それで魔法も剣もよくお使いになるのでしょうね。」

 ソルフィーは姫の言葉に、首を横に振る。

「魔法も剣も、すべて彼の努力によるもの…才能だけではないのです、シャルロット姫」


 それからリーシェはソルフィーにせがまれて、魔法大戦期の英雄譚を弾き語りした。宴は夜が更けるまで続き、用意した肉や料理、酒がすべてなくなったのは夜の十時少し前であった。さすがに翌日は早立ちとなることもあって、王は王妃を伴い天幕に戻る旨をソルフィーに伝えた。

「すっかりご馳走になった。剣聖殿、感謝いたしますぞ」

「こちらこそ。オストブルクまでは同道いたします、ご安心ください。」

「剣聖殿もゆっくりお休み下され。さ、帰るぞシャルロット」

 父王の言葉に、シャルロット姫の瞳が涙で満たされる。リシャールは彼女に言う。

「聞き分けのないことをおっしゃいますな。また明日お会いできます」

「リシャール」

 姫はリシャールに縋りつくと、思いを込めた口づけを交わす。

「リーシェ、ラーリア」

 ラウンデルが言う。

「皆様を天幕までお送りしてくれ」

 二人はラウンデルに騎士礼をとり、列の前にリーシェ、列の最後尾にラーリアがたち、王の天幕に向かって歩き出した。シャルロット姫は、時折後ろを振り返りながらとぼとぼと歩いていく。

「ラーリア」

「はい」

 シャルロット姫はラーリアに声をかける。

「私はあなたが羨ましいわ」

「なぜ、ですか」

「あなたはリシャールの側にいることを許されるだけの強さをもっているわ」

 シャルロット姫は悲しげに俯く。

「私には、何もできない」

 ラーリアはシャルロット姫に言う。

「でも、殿下はこの国の王女様です。我々が着ることのできない服を着て、我々が身に付けられない宝飾品を身に着け、我々の口に入らない物を食べることができます。そして、意中の方を意のままにすることも、不可能じゃない」

「そんなものに、何の意味があるでしょう」

 ラーリアの言葉に、シャルロットは悲しげに答える。

「私たちが―――私が王都で安穏と暮らしている間にも、愛する方が命がけで戦い、血を流し―――命を落とすかもしれないのです」

 もうそんなことには耐えられない、とシャルロット姫は嘆く。ラーリアはシャルロット姫の側に進み、声をかける。

「それに耐え、リシャールを最前線に送り、エルフィアの国と民を護らせること…その恐怖に耐えることが、殿下の戦いなんです。アタシ、そう思うんです。」

「辛い」

「そう、辛いですよね」

 ラーリアは頷く。

「でも、殿下とリシャールは、どんなに場所は離れていても心は繋がっている。そうでしょう?」

 シャルロット姫は頷く。

「なら、それを信じるだけです。アタシなら、そうします」

 シャルロット姫はラーリアの言葉に、もう一度力強く頷いて、前を向く。

「ありがとうラーリア。…私は、私のするべきことをする。彼を信じ、彼の無事をひたすらに祈ります」

 ラーリアはにっこりして頷いた。

「あなたに会えて、よかった。私のお友達でいて下さい」

「殿下のお友達なんて、恐れ多い」

 ラーリアは笑って言う。

「…でも、アタシもリシャールとともに、殿下の―――エルフィアの盾であり、剣でありたい。その為に、もっともっと強くなります」

 シャルロットはラーリアの手を握る。

「どうぞゆっくりお休み下さい。明日もまた、早い出発ですから」

「ラーリアも…リーシェ様も」

 リーシェは騎士礼を取る。王の一家は天幕の中に消えた。近衛兵たちに敬礼をし、二人は踵を返してD・S隊の天幕に向かい歩きはじめた。

 リーシェは星空を見上げる。降るような星空である。

「ラーリアは明日も先生と一緒に、本陣だね」

「リーシェは先行するんでしょ」

「ああ」

 ラーリアは溜息をつく。

「アタシはリーシェと一緒がいいんだけどなあ」

 リーシェは笑って言う。

「それもいいんだけれど、殿下とも仲良くなったんだろう?君もいないと、殿下が寂しがるんじゃないかな」

「リシャール一人いれば十分なんじゃない」

「まあ、それは違いないだろうけど」

 そう言ってリーシェはクスクスと笑う。

 

 翌朝七時――


 三千の手勢に護られ、エルフィア王トーラスⅢ世と王妃、王女シャルロット姫は、東部辺境最果ての町、オストブルクに向けて街道を出発した。


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