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蒼の剣士 ~ fantasy ~  作者: 紅の豚丼
22/53

侯爵夫人

(22)


リューク十五朝エルフィア王国

王都ヴィサン、グロアール宮殿


五月二十日…


丸々一ヶ月をかけ、聖十字教国(クルーセイド)への友好使節は首尾良く目的を果たし、王都に無事帰還を果たした。随行したもののうち、ベルンハルトだけは現地の魔法学院(アカデミー)に留学した為戻っていない。しかし、他のメンバーは皆疲れも見せず、トーラスIII世の前に顔を揃えていた。

その席に華を添えていたのが、リーシェが聖十字教国(クルーセイド)の都、ロードポリスから迎えた新妻、フェリアの美しい姿であった。

「…猊下に、こんなにお美しい妹御がいらしたとは…」

そう言って、王は言葉を失う。まあ…と、王妃も嘆息を漏らす。

「リーシェ、貴方は本当に果報者ですね。こんなに素敵な方に、お嫁にいらしてもらうなんて」

リーシェは頬を染めつつ頭を下げる。アルトワ大公が嘆息して言う。

「しかしこれだけの美男美女、どれ程のお子が生まれるやら。見届けるまでは、死ねませぬなあ」

「私どもの子より、大公様ご自身のお孫様が先でございましょう」

リーシェははにかみながら答える。

「暫くは王都に慣れてから、ブラウエンブルクにも連れて参りたく思っております」

「その時は、必ず余の所に二人で顔をみせるのじゃぞ。」

「はい、かしこまりました、陛下」

フェリアがお辞儀をする。フェリアの名は、あっという間に宮廷中に広まった。

桜の花弁のような可憐な美しさ。

春の淡雪のような清らかさ。

見つめる者が、吸い込まれるような澄んだ青い瞳。

たおやかな物腰、いつも控え目にリーシェに寄り添う淑やかさ。

そして思慮深く、優しい気遣い。

彼女に腕を与えて宮殿内を案内するリーシェの、普段人前で見せない優しさを目の当たりにした貴婦人達や宮廷の女官達は、それこそひと目フェリアの姿を見よう、一言挨拶を、と二人のいく先々で待ち構えていた。

「驚きましたわ」

後宮の、王妃の居間に案内されたフェリアが、心地よいソファの上、リーシェにぴったりと寄り添いながら言う。何がです、と問う王妃に、フェリアは答えた。

「こんなにもたくさんの方々のご注目を集めるとは…」

「疲れたかい、フェリア」

フェリアは首を横に振る。

「まだまだ、皆様ともお話したいですもの」

「沢山お友達ができそうね」

王妃は目を細める。マリエルは頷いた。

「落ち着いたら、上屋敷に遊びにいらしてね、フェリア。夫達がいない方が、話しやすいこともあるわ」

「まあ、嬉しい」

フェリアはリーシェを振り向く。リーシェはにっこり頷いた。

「ありがとう、マリエル」

マリエルはニコニコして言う。

良人(うちのひと)がリーシェ様をいけない遊びに誘ったら、必ず教えてくださいね、リーシェ様」

リーシェはグリムワルドと顔を見合わせ、苦笑する。

「お約束します」

フェリアはリーシェに言う。

「そうでした。…行きたいところが、ありますわ」

リーシェはフェリアの顔を見る。フェリアは頷くと、言う。

「リリーズというお店に」

一瞬、居間に緊張感が走る。居合わせたのは、リーシェ、王妃、シャルロット姫、グリムワルド、マリエル、そしてラーリアであった。

「…そうよね、フェリア。早い方が、いいわよね」

ラーリアはフェリアにそう言うと、リーシェに言った。

「今夜の席を、押さえさせる?」

リーシェは一瞬逡巡する。彼が頷くのと、フェリアがお願いします、男爵夫人(バロネス)、と言うのと、ほぼ同時であった。

「任せて」

ラーリアは伶人を呼ぶと、素早くテーブルで手紙をしたためて、リリーズに、という。伶人は一礼して歩み去った。

「これでいいわ。…ま、リーシェが顔を見せれば、満員でも必ず席はできるでしょうけどね」

「済まない、ラーリア」

ラーリアは首を横に振る。

「舞台は、用意したわ。あとはフェリア、…がんばって。」

フェリアは一瞬驚いた目でラーリアを見る。しかしすぐにその目に感謝の色が浮かぶ。

「ラーリアも、いらして」

ラーリアは笑って首を横に振る。

「今日は、あなたとリリーの『一騎討ち』だもの…決着がきちんとついてから、お邪魔するわ」

「…ありがとう、ラーリア」

フェリアの言葉には、万感の想いがこもる。しかしラーリアは、いたずらっぽく言う。

「一太刀で負けたアタシが言うのもなんだけど、彼女は私なんか比べ物にならない程、手強いわよ。心してかかることね、フェリア」

フェリアの顔に、緊張が走る。リーシェが苦笑する。

「心配ない、フェリア。四時にここからおいとまし、上屋敷で支度しようか」

「はい。リーシェ様も」

リーシェは頷いた。程なく、時計は四時を打つ。後宮から一足早く退出する二人を、笑顔で見送って、王妃は複雑な顔をする。

「今夜のリリーズは、凄いことになりそうね」

ラーリアは笑って首を横に振る。

「普通のお客さんが見ても、きっと分かりませんわ、王妃様」

「そう…そうね、ラーリア」

ラーリアは言う。

「…アタシが行くと、コミカルになっちゃうから…二人で心ゆくまで、やりあわせてあげたいと思って」

マリエルはラーリアに言う。

「優しいのね、ラーリアは」

「そんなこと、ないない」

ラーリアは笑う。

「アタシは、どっちが勝っても負けても、それなりに楽しめるから」

「?」

首を傾げるマリエルに、ラーリアは一瞬悪魔のような笑みを浮かべて言う。

「アタシがやられたように、リリーもいきなり心を折られるかしら。それとも、リリーならアタシの仇…取れるかしら…、ふふふ」

「女は怖いぜ、本当に」

「まあ、あなたったら」

身震いするグリムワルドに、ラーリアは軽く、冗談よ、という。しかし王妃はラーリアの心の奥に残った、一欠片の暗い滓の存在を感じた。紛れもなく、今宵のリリーズでは世紀の大一番が行われる。たった一人の男をかけて、二人の美女が手合わせするのである。敗れたラーリアは、自らはその勝負に立ち会う資格が最早ない、そう考えている様子であった。

「兎に角、今夜で決着が全て着くわね」

その時、そこへソシエール公爵がやって来た。

「王妃様、ラーリアはこちらに?」

「ええ、そこに」

彼は一礼してグリムワルドの隣に座る。

「いよいよか」

ええ、とラーリアが言う。

グリムワルドがフローリン金貨を一枚テーブルの上に置く。

「フェリアだな」

とグリムワルド。ソシエール公爵はニヤリと笑って、

「分が悪い、半額なら」

「ちぇ、しっかりしてらぁ」

グリムワルドは舌打ちして頷く。ソシエール公爵は笑って、半フローリン金貨を一枚テーブルに乗せる。

「じゃ、リリーに」

「まあ、呆れた人達だこと」

王妃はため息をつく。そこに、マリエルがもう一枚、フローリン金貨を乗せて言う。

「あなた、私は引き分けに張りますわ。負けた者が、折半で三人分飲み食い放題支払うこと。よろしくて?」

マリエルはいつものニコニコ顔で二人に言う。王妃は笑って言う。

「マリエル、さすがです」

しかしマリエルは首を横に振る。

「そうでないと、…引き分けでないと、困るのです。」

グリムワルドは初めて、マリエルの悲しそうな顔を目にした。

「あの二人…負けたほうが恐らく命を絶ちますから」

ラーリアは目を伏せる。

「そうかな」

「二人とも、生きていてほしい」

マリエルは十字を切り、リリーズの方角を向いて祈る。

彼女の唱える断章が、静かに響いた。


主は悲しむ者を慰め

傷つく者を癒し

争う者に和を

恐れる者に平安を

驕れる者に鉄槌を

貪る者に飢えを

そして

正しき者に神の御国の鍵を

あやまたずもたらすなり…


グリムワルドは彼女の隣に跪くと同じように祈る。


…よりて人の子よ

悲しむ者を慰め

傷つく者を癒し

争いを仲裁し

恐れる者を守り

驕れる者を諭し

貪る者を諌め

そして

過ちを正すことを

ゆめ怠ること勿れ


「マリエル」

「はい」

グリムワルドは彼女に頭を下げる。

「すまん。俺が間違っていた」

マリエルは愛おしげにグリムワルドを抱きしめ、優しく口づけすると、いたずらっぽくこう答えた。

「あら、でももうこの賭けは有効ですわ、あなた、そしてアーク様も」

ソシエール公爵とグリムワルドは顔を見合わせて苦笑した。

「やはり、一番の知恵者はマリエルだわ」

ラーリアは晴々とした顔で言う。

「ーーーさて、どうなるかしらね」


エッシェントゥルフ侯爵家上屋敷

四時四十分…

「フェリア様、できましてございます」

「ありがとう、ダリア」

ロードポリスからついて来た彼女のメイド長、ダリアが言う。鏡の中にうつった自分の姿を確認し、フェリアは頷く。

「綺麗だよ、フェリア」

リーシェはフェリアにそっとキスする。彼女は鮮やかな青いドレスに身を包み、宝飾品をつけずにリーシェの側に歩み寄る。リーシェはいつもの制服でなく、彼女と同色の騎士服を纏い、腰の長剣のみを帯びていた。

「参りましょう、フェリア様」

ダリアがフェリアを先導する。リーシェが差し出した左腕につかまった彼女の身体が微かに震えているのを、リーシェは感じた。

彼はフェリアの右手の上に、さらに自分の右手を重ねる。

ダリアは二人を振り向き、息をのむ。

リーシェの身体から、柔らかく優しく温かい、蒼い糸のような気が放たれ、真っ白になって震えているフェリアの気を柔らかく包み込む。フェリアもびっくりしたようにリーシェを見上げるが、リーシェの笑顔を見た彼女の青い瞳にたちまち涙が浮かぶ。

フェリアの気の色が、柔らかな桜色に徐々に変わって行く。二人の気が、きつく絡み合う。

「何も、心配することはないよ」

「リーシェ様」

リーシェはフェリアの手を取り、ダリアの後について馬車に向かう。


グラン・マルクト広場…


時計台が五時を告げる鐘を打つ。広場前の店は皆賑わいを見せ、既にあちらこちらで笑い声が起こっていた。今日も王都ヴィサンは平和そのものである。初夏の爽やかな夕風が街を渡り、道行く人々の顔もどことなく華やいで見えた。東の空からは既に満月に少し足りない月が明るく顔をのぞかせていた。空は雲ひとつなく晴れ渡っている。

リリーズの中には、しかしながらいつもと違う、一種の緊張感が漂っていた。

「…いよいよだねえ」

母親がリリーに言う。

「母さんが緊張して、どうするの」

リリーは笑う。だって…というと、母親は心配そうにリリーの顔を覗き込む。

「私の顔に、何かついてる?」

「…緊張してます、って、書いてあるわよ、リリー」

リリーは頷く。

「…ええ、そうよ。私、緊張してるわ、母さん」

彼女は心地よさそうに笑う。その通り、彼女は緊張していた。しかしそれは、一流の歌手である彼女の本能が、今夜のステージのもつ意味の重さを正しく感じ取っていることのあらわれであり、彼女自身がそれを理解していることを意味していた。自分でも驚く程に、彼女は冷静であった。

リーシェ様が、最愛の女性を伴ってこの店においでになっても、私は冷静でいられるかしら。

難しいかな、と彼女自身思っていた。

しかし、彼女はそれをも、自分の力に変えることができる、と確信していた。

最愛の人、リーシェ。

彼の妻になれなくても、彼の歌を歌い続けていきたい。

それさえ許されれば、私は生きていける。

そのためには、彼女の前で最高の歌を。

…歌も失うなら、私には生きている価値などない。

そうなってまで生に執着する意味など、皆無。

「…その割にゃ、ずいぶんと冷静じゃないの」

母親は気合の乗った顔のリリーを見て、少し安心した様に厨房に消えていく。

「マドモアゼル、エセック男爵閣下とグラナガン様が…お連れ様方とお見えなのですが」

リリーは彼らの前に向かう。ユージェニーとミューゲが相次いでリリーと抱擁する。

「テオドール様、グラナガン様」

「おお、リリー。四人で来たので、あれば一番の席を、とーーー」

リリーは首を横に振る。

「お許し下さい…。今宵は、予約があるのです」

テオドールが訝しげに言う。

「しかし、一番を予約できるとはーーー」

リリーはテオドールに頭を下げる。

「そこを…どうか、ご理解下さい」

ユージェニーがエセック男爵に言う。

「テオドール、リリーがここまで言うのは余程のことですわ」

そして、ユージェニーはリリーに言う。

「私は貴女の歌さえ聴こえれば、どの席でもいいの。ね、ミューゲ?」

ミューゲも頷く。その表情に、グラナガンが動く。

「テオドール、二人の言う通りだ。とにかく席を確保しよう」

「ありがとうございます、グラナガン様」

「…しかし、一体誰が、一番を予約なんてことをーー」

リリーは苦笑して言う。

「すぐに分かりますわ、テオドール様。…よくご存知の方です」

ユージェニーが溜息を吐く。

「…テオドール…あきれた、あなたまだ分からないの?」

その一言でテオドールの顔が真っ赤に染まる。

「す、すまないリリー」

「…穴があったら入りたい、って、まさにこのことだわ、もう…」

ユージェニーはテオドールの手を引き、一番の真後ろの、七番テーブルに連れて行く。

ほっとした表情で店の奥に戻ったリリーの元に、緊張した面持ちのウェイトレスが二人、早足で歩み寄る。

「マドモアゼル」

リリーの表情が、一気に引き締まる。

「…お着きになりました」

「ありがとう、すぐに参ります」


店の前に、小さな馬車が到着していた。

馬車のドアから、静かにリーシェが石畳に降りる。彼は手を与え、フェリアを馬車から降ろしてやる。

「ここですのね」

「ああ」

リーシェはフェリアに腕を与え、いつもの様に店の中に入っていった。すぐにウェイトレスが二人を一番のテーブルに案内する。リーシェは七番の席にいる四人の姿を見て、にこやかに挨拶する。

「テオドール様、グラナガン様、ユージェニー様、そしてミューゲ様」

「指南役殿、お帰りなさいませ」

「ぶ、無事ご帰国、おめでとうございます」

リーシェは四人にフェリアを紹介する。テオドールとグラナガンはフェリアの顔を惚けた様に眺めている。

それからリーシェはフェリアに四人を順に紹介する。

「皆様初めまして。フェリア・ヴェア・アドリア・フランシスと申します。夫がいつもお世話になっております」

四人は我に返った様に丁寧にお辞儀を返す。

「…何てお美しいかた…。リーシェ様、素敵な奥様ですわね」

「ありがとうございます、ミューゲ様」

リーシェは四人に会釈して、フェリアを一番の席に誘う。

一番のテーブルでは、セルリアンブルーのドレスに身を包んだリリーが二人を待っていた。

「無事ご帰国、おめでとうございます、リーシェ様」

リーシェとフェリアの前で、リリーは深くお辞儀をする。

「ご無沙汰して済まない、リリー。約束通り、妻を連れて来たよ」

その言葉に、リリーはゆっくりと顔を上げる。

リリーとフェリアの視線が交差する。店内の緊張感は、その瞬間跳ね上がった。

男爵夫人(バロネス)のお手紙でもうかがっておりましたが…本当にお美しい奥様ですわね」

リリーはその場で宮廷礼(レヴェランス)をする。

「私がリリーでございます。奥様においでいただきまして、本当に嬉しく思います」

フェリアも礼を返す。

「リリー様こそ…本当に素敵な方ですわ」

「本日最初のステージまで、あと少しございます。それまで、お二人にはお酒とお料理をお楽しみ下さい」

「ありがとう、リリー。」

「では後程、リーシェ様」

リーシェはフェリアをエスコートする。フェリアがふうっ!と深呼吸する。リーシェは苦笑してフェリアの左肩に腕を回す。

「不安なの?」

フェリアはリーシェを見上げる。彼女の青い美しい瞳に、微かな不安の色が浮かんでいた。

「大丈夫だよ。僕は君の言うことに、全て従う」

「リーシェ様」

二人の前に、冷たく冷やされた、目にも美しいテリーヌと生ハム、新鮮なトマトの前菜と、バレスティア産のロゼワインが運ばれてくる。リーシェはフェリアのグラスにもロゼワインを注ぐ。細かい泡が浮かび、そして消えていく。

「君と…こうして二人で食事をしに出かけることができるなんて」

フェリアは恐る恐るテリーヌを口に運ぶ。

彼女を包んでいた不安の影が、ふっ…と和らぐ。

「美味しい」

リーシェはその反応に、優しい微笑みを浮かべる。

「よかった」

リーシェはフェリアに、この店は先生に教わったのだ、と告げる。

「お酒も、サービスも…本当に素晴らしいですわ」

リーシェは頷く。

「でも、だからこそ不安なの」

フェリアは目を伏せる。

男爵夫人(バロネス)がおっしゃった通り、リリー様は……」

リーシェはフェリアにそっとキスをする。

「君は一騎討ちと言ったね」

フェリアは頷く。

「勝負はもう、着いた。君の勝ちだ」

フェリアは半信半疑という顔をする。リーシェは言う。

「彼女は…僕の妻の座など、望んでいないよ」

「でも、あなたを深く深く愛しておいでですわ」

リーシェはフェリアを見つめて、答える。

「そうかな」

「私には、そう見えます」

「…そうかもしれないね」

リーシェは一口ワインを飲み、フェリアに言う。

「…まずは彼女の歌を、聴いてくれないか」

「ええ」

二人は前菜を食べ終え、寄り添ってリリーの登場を待つのであった。


下手側最前列、三番テーブル…


「それにしても、とんでもない美人だな」

コジモは一番テーブルの方を眺めて、傍の妻に言う。そうですわね、とベラドンナは答えた。

「あの席にだけ、光が差しているかと思う程だ」

コジモはテリーヌの最後の一切れを口に入れてしまうと、冷たいロゼワインで流し込む。

「リーシェ様も、今日は少しおめかししておいでの様ですわ」

「彼も美男子だからな。よく似合う」

「ええ」

ベラドンナはステージの袖に目を向ける。リリーはまだ、小さなステージの上手袖には入っていない様であった。彼女が開店時に会った時、そしてリーシェと新妻フェリアが来店した時…どちらも、リリーは落ち着いていた。むしろ、いつもより却って冷静なのでは…そう、ベラドンナは見ていた。

覚悟は、できている。後はいつもの様に、歌うだけ。

ベラドンナはむしろ、最愛のリーシェの側、他に知る者もなく、不安そうに彼の左肩に寄り添っているフェリアの表情が気がかりだった。

聖十字教国(クルーセイド)宮殿騎士団(テンプルナイツ)の長であり、十二名の枢機卿のうち最年少ながら、教皇ヨハネス十二世の信頼厚く全軍の指揮を預かる、マリュー・ド・アドリア侯爵の異母妹。エルフの歌姫の母と、マリューの父先代のアドリア侯爵との間に生まれた、混血(ゲミシュト)。その容姿はまるで妖精の如く美しく、性格は善良にして慈愛に溢れ、魔法学院(アカデミー)を優秀な成績で修了した賢者。更にアルマノック男爵夫人の話では、剣の腕も男爵夫人を遥かに凌ぐらしい。リーシェと同じバイアームである。しかしベラドンナの目には、彼女はただ、最愛の男性をリリーに奪われることをひたすら恐れている、ただの普通の娘として映っていた。

ベラドンナはリーシェに目をやる。彼はフェリアのそんな気持ちを分かっているのかしら…しかし、今夜の彼は側にいるフェリアの様子に常に気を配り、優しく甘い、そして強い意志に満ちた気を放って彼女を包んでいる。それが無ければフェリアは、とっくに今日のこの店の放つ一種異様なまでの緊張感に押しつぶされているだろう。

「どうなりますかしらね」

「どう、とは?」

ベラドンナは夫の反応に溜息をつく。

「何でもありませんわ…。」

「初めから、そんなことは分かりきっている」

コジモはニヤリと笑うと、ステージの方に向き直る。驚く妻に、彼は続ける。

「なるようにしか、ならんよ」

ステージ袖に、静かに目を閉じたリリーが現れた。


店が拍手に包まれる。お辞儀をしたリリーが顔を上げ、口を開く。

「皆様、今宵もリリーズにおいでいただきまして、ありがとうございます。暫くの間、私の歌とリュート、そして問わず語りにお付き合い下さいませ…」

彼女はリュートの弦を確かめ、一番高い弦を軽く弾く。美しい音が、店の天井を超えて響く。

美しい小夜曲(セレナーデ)を、彼女は奏で始めた。いつもにもまして、冴えた音色。聴く人々の心に染みこむようなそのメロディー。

リリーの方は、問題ない。最低でも、この春一番の演奏になる。ベラドンナはそう確信した。

彼女は左後ろの一番テーブルの方を見る。

リーシェはリリーの方を見ていない。側にいるフェリアの表情にだけ、注目している。

フェリアはそのリュートの音色に完全に引き込まれていた。


前奏曲、とも言うべきそのリュートの後、間髪を入れず彼女は歌いはじめる。


今夜もあなたは帰らない

私でない誰かの側で

私でない誰かを抱いて眠る


今夜もあなたは帰らない

私でない誰かを愛し

私でない誰かに口づけする


世の中うまく行かないもの

やって来る男は皆誰も

私に優しいけれど


一番優しくしてほしい人は

今夜も私の側にいない


今夜もあなたは帰らない

私でない誰かに抱かれ

私でない誰かの愛を受ける


今夜もあなたは帰らない

私でない誰かを見つめ

私でない誰かに見つめられる


世の中うまく行かないもの

寄って来る男は皆誰も

私を求めるけれど


求めてほしいあなたは

今夜も私の側にいない


一番側にいてほしいひとは

私のものではない 今夜も…


いつものように、店が再び喝采に包まれる。リリーはそこでいったん立ち上がり、改めて店内に向けお辞儀をする。

「皆様ありがとうございます。『今夜もあなたは』…私の好きな曲の一つです」

彼女は水を一口含んで口を湿らせると、微笑みを浮かべながら言う。

「今宵はお祝いすべきことが幾つかございます。一つは、皆様の中にもご存じの方がいらっしゃると思いますが、先月ヴィサンから聖十字教国(クルーセイド)に向かわれた皇太子リシャール殿下、フェリア妃殿下ご夫妻が、教皇台下へのお祝い言上を無事お済ませになり、ご帰国されましたことです」

店のあちらこちらから、おお!と言う安心したような嘆息が起こる。いくつかグラスがぶつかる音もする。リリーはグラスのぶつかる音のした方に微笑みを浮かべて頷くと、話を続ける。

「…もう一つは、宮殿騎士団武術指南役、エッシェントゥルフ侯爵リーシェ様が、聖十字教国(クルーセイド)の一の騎士、枢機卿マリュー・ド・アドリア猊下の妹君とご成婚、こちらも無事にご帰国され、本日こちらにおいで下さっていることです。高いところから失礼いたします。閣下、おめでとうございます」

店中から拍手が起こる。リーシェはフェリアの手を取って立ち上がり、後ろを振り向くと二人で並んで深々と礼をする。ひときわ大きな拍手と、おめでとうございます!蒼の剣士万歳!の声が店のあちこちからかかる。二人が席につくのを見届けてから、フェリアは再びリュートを取る。

「ご存じの通り、私はリーシェ様の英雄譚(サーガ)を沢山歌わせていただいております。本日はその中でも私が一番長く歌わせていただいているものを、ご夫妻にお聴きいただこうと思います。どうぞ皆様も、お酒を片手にお楽しみ下さい…」


彼女は座りなおすと優雅に足を組み、銀色のリュートを膝に乗せて爪弾きながら、心持ゆっくりと歌いはじめる。


北の国 火の山 蒼き龍が棲み

街を焼き 人を焼き 全て喰らい尽す

滅びんとするその時に―――

蒼き両刀携えて

一人の剣士来たりけり


「蒼の剣士が来たりけり―――」

フェリアはリーシェの肩に頬を寄せながら、小さくリリーに唱和する。彼女の気が落ち着きを取り戻したのを、リーシェは感じ、ステージのリリーの顔に視線をやる。

ステージの上で一番のテーブルを見ながら歌っていたリリーは、リーシェの視線でそのことを悟った。

私の戦いは、ここから。見ていてね、ラーリア、アーク様…。私は全力を尽くします。

彼女の歌語りに、さらに熱がこもる。


鱗割られ爪折られ

翼裂かれ牙砕かれ

ついに龍は力尽き

火の山の火口に堕ち

二度と人に災いをなさず


蒼の剣士唯一人

龍を討ち街に戻る

身は焼かれ傷を受け

血を流し跪く


大恩あるかの剣士に

されど民は恐れなして

目を背け背を向けて

去ることを求めたり


いずこにかある

安住の地

いずこにかある

優しき民


畏れられ 石もて追わるる

蒼の剣士

我は歌う 彼の人の勇気を

我は歌う 彼の人の愛を

我は歌う 彼の人の悲しみを

我は歌う 人の世の哀しさを―――


北方でのリーシェの英雄譚。

フェリアがそれを知らないはずはなかった。

聖十字教国の北部。そのさらに北にある北部辺境での出来事である。魔族の力を借りた北部の蛮族の侵攻に手を焼いた聖十字教国(クルーセイド)は、剣聖ソルフィーとその高弟「銀騎士シュテッケンシュテッケン・ザ・シルバーナイト」に対応を要請する。ソルフィーはリーシェと共に各地の魔族の拠点を攻撃し、多くの民を苦しめたブルードラゴンを退治したのである。以来北方の蛮族はここ十年聖十字教国(クルーセイド)の国境を侵していない。しかし、北方の民は混血(ゲミシュト)である彼を恐れ、忌み嫌い、リーシェはまたも心身ともに深い傷を負って、再び西方の小さな自由都市パヴィアに引き籠ってしまった。その功績をもって、今度こそ聖十字教国(クルーセイド)に彼を迎えようとしていた時の教皇、クレメンス六世は彼の為に悲しみ、また非常に落胆し、病を得、彼にわびながら亡くなったのであった。

フェリアの瞳からは、大粒の涙が後から後から溢れていた。


リリーは静かに歌い終えると、いつものように、誰でも知っている恋の歌を一曲歌う。


私の大好きなあなた

たとえ会えない日も

いつも大好きなあなた

とても優しいあなた

私の我儘をいつも

許してくれるあなた

あなたは私の全て

他に何もいらない

欲しいのはあなただけ

欲しいのは―――

あなた だけ


「皆様、お時間を頂戴いたしましてありがとうございました」

万雷の拍手の中、リリーは立ち上がり、深々とお辞儀をする。フェリアは自然と立ち上がり、涙を流しながら拍手を続けていた。リリーは満足そうな表情でフェリアと目を合わせ、もう一度お辞儀をすると、再び舞台の上手袖に消える。店の中にはステージ直後の興奮とざわめきが充ちた。あちらこちらでウェイトレスが呼ばれ、心づけを渡したり、注文をしたりする客の声が聞こえる。リーシェは呆然として涙を流しているフェリアをそっと抱き、キスをすると、涙を拭いてやる。

二人は暫くの間、無言でただ見つめ合っていた。北方での痛みを伴う記憶…フェリアはリーシェの受けた心身の傷と、自分達聖十字教国(クルーセイド)の民が彼から受けた無償の愛を想い、リーシェは自分の受けたその傷の為に悲しみ、自分を思いやってくれるフェリアの気持ちを想っていた。

今の二人には、その痛みすらも、甘い追憶であった。

「お聴きくださって、ありがとうございました」

ステージを降りたリリーが、一番テーブルに歩み寄る。フェリアは立ち上がり、リリーと抱擁する。

「リリー様、素晴らしい歌でした」

フェリアの賞賛に、リリーは微かにはにかむ。

「奥様からのそのお言葉、私の何よりの喜びですわ。改めまして、ご結婚おめでとうございます」

「ありがとうございます」

フェリアはそう言うと、リーシェに言う。

「リーシェ様」

「何だい」

「…暫くの間、リリー様とお話したいのです」

リーシェは頷くと、席を立つ。驚くリリーに、リーシェは言う。

「リリー、妻が君と話したいらしい」

「はい」

リーシェはフェリアに、何かあれば、呼んでくれ…というと、三番テーブルのコジモとベラドンナの方へ歩み寄る。リリーはウェイトレスに言う。リーシェは振り返らない。

「奥様と私に、冷たいお水を」

「かしこまりました、マドモアゼル」

リリーは先程までリーシェが座っていた席に着く。改めて彼女は、フェリアの美しさにうたれた。

「こうしてお近くに寄せていただくと…、ほんとうにお美しい」

フェリアは微笑みを浮かべて首を横に振る。

「リリー様こそ…。」

リリーはフェリアに言う。

男爵夫人(バロネス)は、フェリア様に『一太刀で倒された、心を折られた』…そう、おっしゃっていました。私も同じ気持ちですわ」

「折れたのは…私の心の方です」

フェリアは悲しげに俯く。

「そんな、何故」

リリーの言葉に、フェリアはしぼり出すように言う。

「…貴女の心は、折れていないわ、リリー」

リリーはフェリアを真っ直ぐに見つめる。そして、同じ真剣さを持って答える。

「ええ。…私には、歌がありますから…」

彼女はそこで表情を和らげ、フェリアから視線を外す。

「愛して…らっしゃるのでしょう?」

フェリアの言葉に、リリーは頷く。

「はい。…しかし、リーシェ様がお選びになり、一番大切に思っていらっしゃるフェリア様、貴女をないがしろにしてまで…愛されようとは思いません」

リリーは再びフェリアと視線を合わせる。

「私の夢は…フェリア様、私の夢は、これからも蒼の剣士、リーシェ様の英雄譚(サーガ)を歌い続けること。…そして、フェリア様がお産みになられる、お二人のお世継ぎ…赤騎士と蒼の剣士の血を受け継いだ、ヴィシリエン全土の一の騎士となるであろうお方の歌を、命のある限り歌い続けること。それだけなのです」

フェリアはリリーの言葉を、目を丸くして聴いていた。その表情が、柔らかい微笑みに満ちる。あまりの愛くるしさに、見つめるリリーの顔が赤く染まる。

「ほんとうに…それだけ?」

リリーはフェリアの優しい微笑みに、答えに窮する。

「嘘」

フェリアはニッコリ笑って、リリーに言う。

「リリー、貴女だって…リーシェ様の赤ちゃん、欲しいでしょう?」

「わ、私は…」

「正直におっしゃって」

フェリアはじっとリリーを見つめる。リリーは暫く言葉を失った様に押し黙っていた。

やがて彼女は、観念した様にフェリアに答える。

「…奥様の目は、ごまかせませんわね。そう、私も…リーシェ様の愛を頂きたい…!お慕いしております」

リリーは一息つくと、続ける。

「でも、先程の言葉は嘘ではございません。フェリア様とリーシェ様のお子様の歌を、歌いたい…あくまでも、奥様のお許しが頂ければ、のお話しですけれど…」

フェリアの瞳から、一筋涙がこぼれて流れる。

「ありがとう、リリー…」

フェリアはそう言ってリリーの手を取る。

「正直におっしゃってくださって…。」

彼女は涙をそっと拭い、リリーにこう言った。

「私が今まであちこちで聴いた、夫の英雄譚(サーガ)の中で、先程の貴女の歌は抜きん出て素晴らしかった。これ程の女性がリーシェ様を愛し、リーシェ様の歌を歌って下さることに、感謝しなくては…そう、思うのです」

フェリアはそう言って、目を伏せる。

「それなのに…私、貴女が怖いの。貴女が、私から彼を奪っていってしまうのではないかと…貴女に、嫉妬しているのです…」

「奥様」

フェリアはリリーの目を見て訴える。

「あさましい女…そう、軽蔑されても、仕方がありませんわ。でも、でもねリリー。私…」

フェリアの目から、涙がこぼれ落ちる。

「貴女のことも、好きになってしまったみたいです…」

「奥様」

リリーはフェリアを優しく胸に抱く。

「私を許して、リリー…貴女だって、リーシェ様をこんなにも愛していらっしゃるのに…」

「いいのです、奥様」

リリーは優しく答える。

「私も、奥様が大好きになりましたわ」

「ありがとうリリー」

リリーはフェリアに言う。

「最初のお子様は、必ずフェリア様にお産みいただくこと。そして、今後とも奥様のお許しなく私がリーシェ様の閨にうかがうことがないこと。音楽の神(ムーサイ)にかけて、お誓いいたしますわ」

「許してね、暫くは彼を独り占めすることに」

リリーは苦笑して答える。

「ですから、一日も早くお世継ぎを…お願いいたしますわ」

「まあ」

フェリアもつられて笑う。

「いいわ、貴女なら。一日も早く、おすそ分けいたします」

「感謝いたします、奥様」

リリーは一口水を飲むと、

「お優しい奥様に、もう一つお願いが…」

フェリアは苦笑しながら、

「また、良くない予感がしますわね」

と言い、頷く。

「…ご領地、ブラウエンブルクのお館に、リーシェ様が妙齢の女性を六人住まわせていることを、ご存知ですか」

フェリアは、そのこと…という様に微笑んで頷く。

「…どの娘も、非道な前領主のせいで、とても不幸せな目に遭っております…」

フェリアはリリーを手で制して言う。

「貴女の目から見て、どの様な方々ですか」

「六人ともリーシェ様が命じれば、命をも投げ出しましょう。…奥様も、きっとお気に入られることと思いますわ」

フェリアは頷く。

「彼女達がそれを望むなら、…そして貴女と同じ様に誓って下さるなら…、同じ様に許して差し上げなくては…。それで、よろしくて?」

リリーは嬉しそうに顔を輝かせ、フェリアの前に跪く。

「今後は、私にできることがございましたら、何でもおっしゃってください、奥様」

フェリアは苦笑して、しかし嬉しそうに言う。

「貴女とお話できて、本当に良かったわ、リリー」

「私の方こそ、奥様こそヴィシリエン一素晴らしい女性です。私リリーが保証いたします」

フェリアはリリーに言う。

「近くブラウエンブルク入りする時、ご一緒して頂きたいの…よろしくて?」

リリーは顔を輝かせて頷く。

「喜んで!」


三番テーブル…

リーシェはコジモ夫妻と、酒を酌み交わしていた。店の雰囲気が一気に和やかさを増す。一番テーブルでは、リリーとフェリアが酒を頼み、料理を一緒に食べながら楽しそうに話し始めた様である。

「落ち着く所に、落ち着いた様ですな、閣下」

リーシェは苦笑しながら、コジモのグラスに酒を注ぐ。

「まあ、あなたったら」

ベラドンナが呆れ顔になる。リーシェは彼女に言う。

「奥様、コジモ殿のおっしゃる通りです。…店中の皆様に気を遣わせてしまって」

「何をおっしゃる、閣下」

「そうですわ。それよりああして二人の間で決まりましたことを、どうかお守り下さいませ、閣下」

リーシェはベラドンナに頷く。

「もとより、そのつもりで連れて来たのです」

リーシェは安堵の溜息をつく。その時、フェリアがリーシェを呼ぶ。

「どうしたの、フェリア」

フェリアはいたずらっぽい表情で言う。

「今夜は、ずっとリリーとお話したいのです。」

「でも、彼女にはステージがーーー」

二人の美女は、じっとリーシェを見る。

「…まさか」

リリーはリーシェに、愛用のグアダラーニのリュートを手渡す。

「後はお願いしますわね、リーシェ様」

「さ、飲みましょう、リリー」

「はい、奥様!」

呆然とするリーシェを尻目に、二人は楽しそうにバレスティア産のロゼワインを飲み始めた。

その晩、リーシェは九時まで、残る二つのステージでリュートを奏で、歌い続ける羽目になった。

リリーズのお客は、滅多にないことに大喜び。噂を聞きつけた近隣の女達が、八時のステージを聴こうとリリーズに押しかけ、店はとんでもない騒ぎになった。コジモ夫妻、テオドールとユージェニー、グラナガンとミューゲを相席で一番に呼び、フェリアとリリーは共にリーシェに拍手と声援を送り、笑い、酒と料理を楽しんだ。自分の歌は歌えないから…と、リーシェは幾つもの英雄譚(サーガ)を歌い、恋の歌・失恋の歌・哀歌(エレジー)を歌い、小夜曲(セレナーデ)を幾つも弾いた。

「いや、閣下はお見事だ!」

コジモがブランデーを飲みながら嘆息する。ユージェニーが夢見る様な表情で言う。

「フェリア様が羨ましい!こんなにも素敵な旦那様、私も一人欲しいですわ」

「お、おいユージェニー!」

ユージェニーはテオドールに言う。

「…テオドール、もっと空気を読める様になってね。お願いよ、悲しくなっちゃう」

「分かったよ、分かったから…」

「そうですわ、ユージェニー様。何事も、最初が肝心なのです」

リリーはフェリアと顔を見合わせて、会心の微笑みを浮かべる。ステージの上で美しい曲を爪弾きながら、かなわない…という表情でリーシェが苦笑する。


翌日、宮中で事の顛末を知った時のこと。

リーシェが久々に精魂傾けて二つのステージをこなしたことを聞きつけ、ラーリアは歯ぎしりして悔しがり、ソシエール公爵に八つ当たりした。

そのソシエール公爵は、グリムワルドと二人、ニッコリしながら、店をどこにするか考えているマリエルの顔を恨めしそうに見ているばかりだった。

そんな彼らを、王妃は愉快そうに眺めながら、美味しそうに紅茶を飲むのであった。


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