少し長めのプロローグ
初投稿です!
あからさまな伏線回で謎を感じると思いますが
後半になるまで回収する予定はないので、
あまり気にしなくても大丈夫です。
これは昔々のとある神様の物語。
神様は辛かった。気が狂いそうになるほど辛かった。彼女に与えられた永遠の命が呪いのように彼女を苛んだ。
神様は孤独だ。友達を作ってはその死を悲しみ、永き時を共有した親友を作ってはその必然の別れに号泣した。
そしていつしか彼女は他人を拒絶する。自分の心に蓋をする。彼女は自分の気持ちを理解してくれる対等な仲間なんてできないことを悟った。彼女はそれが何よりも辛かった。
彼女はすべて投げ捨てたかったのだ。神様という肩書きなんか捨て去って、ただの女の子として普通に暮らしたかった。けどその重い十字架は簡単に放り出せるようなものではなく、彼女は自らの代わりとなる者を探すしかなかった。
そして異世界で『彼』を見つけた。
彼は神様となる条件を満たす非常に稀な存在だった。神様と同じ呪いを背負う魂だった。彼女は彼を呼び寄せ、神様となるよう誑かした。
しかし、その計画は彼に露見してしまう。そして彼は怒りと共に叫ぶ。
『もとの世界に帰せ!』
それは当然の望みだった。しかし特殊な事情を抱えた彼は、神様でも帰すことはできなかった。彼はこの世界でしか生きることができないのだ。それを知った彼は代わりにとんでもないことを要求する。
『それなら俺に、全ての能力を寄越せ!』
神様は驚いた。彼の剛胆さにもそうだが、それ以上に理解ができなかったのだ。
なぜなら、、、
「それは、私の…」
「お前の計画の要だろ、さっき聞いたさ。そうしたらお前が神様を辞めることができるんだろ?」
「なら、なんで…」
「…お前を助けるためだよ」
彼は彼女を助けると言った。憎むべき彼女を救ってやると言った。彼の狙いは別にあるとはいえ、それは偽りなく彼の本心だった。
「だからもうそんな辛そうな面見せんなよ、可愛い顔が台無しだぞ」
神様は多重人格だ。それは時に非情さを伴う仕事に対する防衛機能の現れだった。自分はこんなことをしない。自分はこんなことはしていない。自分はこんな人じゃない。自分は、私は…自分じゃない。認めたくない感情が冷酷無情な人格を作りあげた。その化粧は彼女の素顔を厚く厚く塗りつぶしていた。
神様は気が遠くなるほどの間、全てを救い続けてきたのだ、自分以外の全てを。そう、彼女だけが救われなかった。彼女だけが救われることを知らなかったのだ。だから神様が不意に彼の言葉を聞いた時、彼女は嘗て拒絶してきた人の温もりというものを思い出し始めた。『彼』だから違った、『彼』だから響いたのだ。埃を被った時計のように錆付いていた彼女の心に、とくっとくっと暖かい血液が巡り始める。
体の異変に気付いた神様はおもむろに手を頬に伸ばした。そこには僅かに、けど確かに、一筋の光り輝く跡が残っていた。彼女の目から流れる液がクレンジングのように彼女の厚化粧を落としていった跡だった。
「君はバカなのかっ 私は君の敵だぞ」
彼女は必死で作り笑いをしていた。そうでもしないと、もう耐えられそうになかった。
「あぁ、確かにお前は俺の敵だ。大嫌いな宿敵だ。それでもさ、俺はお前のことを大切に思ってるんだよ。今にも崩れてしまいそうなお前が心配で堪らないんだよ」
ーー わけがわからない
「なんで、なんでなの!私は君を騙した!利用しようとした!恨まれたっておかしくない!憎まれたって文句は言えない!それなのになんで、なんでそんなこと言ってくれるの!なんでそんなに優しくしてくれるのよ!」
そう叫ぶ彼女にはもはや神様のような達観とした風格などどこにもない。声を張り上げる彼女はとても脆く繊細な芸術品のように異様で歪で、そしてそこはかとなく…美しかった。
「その敵が守るべき女の子の一人だった。それだけの話だよ。……それにいいじゃないか、シナリオ通りに事が運んだ、俺は騙され全てを押し付けられた。そういうことにすればいいじゃないか。それがお前のしたかったことなんだろ?」
「したかったこと、私のしたかったことは…」
それは何事もない平穏な日々を過ごすこと。違う。それは死んだ友達とまた会うこと。違う。昔に戻って楽しい日々を繰り返すこと。違う!神様をやめて普通の女の子になること。違う!!!
「私は、ただ…」
私のことを思ってくれる人、ただずっと側にいてくれる人が欲しかった。…でもそれならもういるじゃない!ほら、目の前に!
神様は友達が欲しかっただけだ。隣に立ってくれる対等な仲間が欲しかっただけだった。彼を異世界から召喚したのも、そんな思いが隠されていたのかもしれない。彼女と同じく永遠の呪いを持つ彼と、ただ一緒にいたかっただけだったのかもしれない。
けれどそれはもう遅かった。彼女たちは今や敵同士なのだ。許し合うには多くのものを失い、笑い合うには互いに傷を付け過ぎた。だから彼女は、そのおこがましい願いを胸の中に閉じ込めた。その飲み込んだ思いが胸を圧迫し、心臓の鼓動を加速させる。『苦しい、苦しい、苦しい』声に出さずとも彼女はそう叫んでいた。
そんな彼女の頭を彼は優しく、とっても優しく撫でた。大丈夫、分かっているよと伝えるように。彼の表情は敵対の色などどこにもなく、ただ慈愛の色に満ちていた。
「だから、その〜、なんだ…」
彼は照れ隠しに、はにかみながら告げた
「おつかれさま」
『 おつかれさま 』
それは神様が待ち望んでいた言葉
それは彼女の仕事の終わりを告げる言葉
それは少女が積年の苦しみから解放された事を指す言葉
とうとう我慢仕切れなくなった彼女は、撫でらてる気持ちよさに身を任せながら、下を向き、その肩を小刻みに震わせた。ポロポロと落ちる滴が彼女の厚化粧を全て流れ落とした。そして溜まりに溜まった悲しみが心の飽和量を超えた時、堰を切ったように彼女は泣いた。大声で泣き叫んだ。その姿はもうただの可愛い女の子にしか見えなかった。守るべき女の子にしか見えなかった。
そんないつ泣き止むともしれない少女を少年は優しく撫で続けた。ゆっくりとゆっくりと撫で続けてた。
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世界中が輝き出す
立ち昇る柔らかな光が彼女の元に集まってゆく
光は彼女を介して彼に取り込まれ
彼女の身体もまた光の粒子となってその大いなる魂の流れに呑み込まれていく
穏やかな光は彼女の門出を祝うかのようにあたり一面を覆っていた
『たぶん私も…君の事を忘れちゃうけど、その時もまたこうやって優しくしてね』
そんな彼女の切ない願いもまた、光の粒となって、その幻想的な風景の一部へと溶け込んで行くのだった。
かくして世界は書き換わった。
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これは、光り輝く未来の歴史には語り継がれることのない物語、悲しい喜劇の物語、ひとりの男の子がひとりぼっちの女の子を救う英雄譚、
『観察者』 観月 健太 の
THE SAD SIDE OF THE STORY
小説情報を読んでくれた方はわかると思いますが、少し忙しい時期なので頻繁には投稿できません。
10話ほど貯めてから連投していきたいと思います。
読んだ感想などあれば書いてもらえると嬉しいです!




