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Ep4-1

 少し騒がしかった支部の中に警報が鳴り響いた。その頭に響く音に反応して、そこに居た全ての人間が一斉に動きだした。

「何があった?」

 照正は走りながら通信班の管制室へと駆け込んできた。

「照正君?どうやら非番の隊員が1人殺されたみたい。彼の恋人が通報したんだけど、彼女も・・・。」

 通信班班長のミレイユに言われ、照正は状況を頭の中で整理する。少ない情報で目標の全体像をつかもうと試みる。

「非武装状態の隊員が通報できる時間が稼げるのか・・・、目標はアザンじゃなくて通り魔か?」

「でも訓練を受けたうえで、なかなかの実績を残している隊員を殺せるかしら?」

「だな、念のために第31部隊で現場に向かう。アザンが相手じゃないだろうから警報を止めておいてくれ。マナ、出撃だ。隊員のB、C級装備の使用許可通しておけ。」

 その場にいたマナは返事をし、マイクとキーボードを駆使して出撃の準備を進める。そして、照正は走って輸送機へと向かう。


「今回の目標は通り魔かもしれないが、エクス隊員が殺されていることからアザンの可能性がある。人間だったら俺一人で取り押さえるが、アザンだったらマナの指示に従って作戦行動にあたってくれ。」

 輸送機の中にいる隊員が一斉に返事をする。そして、エリカだけが挙手をし、

「私が先行して偵察しましょうか?」

照正は頼むとだけ返事をして、黙り込んだ。

 数分で輸送機は通報があった市街地に到着した。到着と同時にハッチが開き、照正とエリカ、そしてエリカの護衛として結芽が飛び出した。

 エリカは高い建物の屋上で狙撃銃を構え、スコープを覗く。そして、その先に残酷な光景広がっていた。

「隊長、相手はアザンです。一般人の殺され方が尋常じゃありません。」

そうエリカが叫びながら報告をすると、

「全隊員C級装備を起動して出撃!マナ、一般人の避難状況は?」

「ほぼ自主的に完了しています。作戦をアザン殲滅戦に変更。緊急事態のため、コロニー全体に警報を鳴らします。」

その言葉と共に警報が鳴り響く。照正が目標の目の前までたどり着くと、彼はかなりの距離を詰め、花川流銃術で攻撃をする。しかし、目標はそれを受け流してしまう。

「おいおい、この連撃受け流すのかよ。」

そんな事を言いながら彼は攻撃の手を緩めない。足元に横たわる死体の山を踏まないように心掛けながら、彼は敵を圧倒するほどの体術を繰り出す。そして第31部隊が到着し、彼は勝利を確信した。

「はは、暴走する前のあんたと手合わせしたかったぜ。」

照正はそう捨て台詞を吐き、目標と距離を取った。

 目標は地面に手をつき、その瞬間、地面から無数の鎧が出てきた。それは圧倒的な数で、かなりの威圧感をその場にいた全隊員に与えた。

「まずい、能力は錬金かよ。あの時と同じことになるかも。」

照正は慌てたように言い、無線のマイクに向かって叫んだ。

「将!どうせキークの監視で近くに居るんだろ?ちょっとまずいことになりそうだから加勢しろよ!」

 そして、それを叫んだ直後に目の前の動く鎧が真二つになった。

「もう来ているよ。君と僕の分のA級装備の使用許可を無制限で通しておいた。錬金能力は前例がひどかったから、簡単に申請が通ったよ。」

と低い声で将一は言い、少し笑ってみせる。

「確実に死人が出るな。」

そんなこと照正は言いながらA級装備を起動させる。

「マナ、状況は?」

「現在、広域に動く鎧が進行中。各隊員が対応していますが数分後には向こうの数が上回りそうです。」

 照正は目の前の鎧を破壊しながら将一に向かって叫んだ。

「もう片方のA級装備を使え。この状況を打破するにはそれしかない。」

「は?冗談言っている暇ないでしょ。あれを使ったらリミッター解除していないC級装備を装備している隊員は確実に被曝するんだよ!」

「そんなもん百も承知だ。でも、使わねえと数で圧倒され確実に全滅するぞ。」

そんな口論をしながら彼は無線をオンにし、

「全隊員のC級装備を強制的にリミッター解除できないか?」

とマナに聞いてみる。

「私の立場でそんなことができるわけないですよ。」

それを聞くと照正は舌打ちをして言った。

「仕方がない、梅香のIDを使え。」

「死んだ人間のIDを使ったなんてばれたら・・・、」

「全責任は俺がとる。死んだ嫁さんのIDだったら言い訳もしやすいしな。」

 マナは黙って申請を出した。機械が処理をしているので、申請はあっさりと通ってしまった。

「よし将、やれ。」

そして、将一はネックレスに着けていた十字架を手に取り空中へと投げた。それと同時に周辺区域を包むようにして、薄い赤色の膜が張られた。それを確認したのち、照正は無線で全隊員に現状を報告した。

「現在、鬼門少将のA級装備を起動させた。これにより敵アザンは弱体化、錬金能力で新たな鎧が生成される心配はない。目の前の敵に集中してくれ。」

 そんなことを言っても、最悪の状況には変わりなかった。敵はとても固く、破壊力があるからだ。いつもは1体のアザンに対して数十の兵力で対抗しているので死者は出にくいものの、そのクラスの敵兵1体に対して1人の隊員が当たるしかできないこの状況では、やはり死人が出てしまう。照正は選択肢を次々と失うはめになった。


「くそっ。」

 そういいながらキークは目の前の鎧に刀を振っていた。刀をどれだけぶつけても、傷をつけるのが精いっぱいで全く破壊できない。

「はやく結芽やユーマのところに加勢したいけど、無理そうだ。」

そんなことを言いながら彼は少し周りを見てみる。先にあった無線で、将一が前線に立って戦闘を行っていることは把握できていた。なので、彼は周囲に他の本部から送り込まれた人物がいないか探してみる。

「これはあぶなくなったら能力使ってもばれそうにないな。」

そんなことを呟きながら、攻撃の手を緩めない。そして、珍しくよく喋る自分に少し驚く。それが今の戦況のせいでアドレナリンがかなり分泌されているのか、結芽やユーマ、エリカのおかげなのかはわからない。でも彼は後者だといいなと思った。

「お前は意思を持っているみたいに戦うが、アザンでも人間でもない。俺と同じだ。でもな、信頼できる人がいる俺の方が、戦う理由がまともだと思う。」

 キークは決心をした。最初は軍で、結芽やユーマやエリカのために戦うと決めていた。しかし、今からは自分が生き残るために戦う。結芽が生き残れるように戦う。ユーマやエリカが生き残れるように戦う。そのためには、クズになろうが、卑怯になろうが、完全なアザンになろうが、無様に戦い続けてやる。そうしたらいつかきっと、自分たち4人が本当の意味で平和に暮らせる日々を、彼女が作ってくれるから。

 キークの思いを込めた一振りは、鎧の足の関節部位を砕いた。バランスが取れなくなった相手の首を、また同じ勢いで振り払う。敵の頭部は高く飛び、体は動かなくなった。すぐに彼は無線をオンにし、

「頭部と体を切り離したら、目標の動きが静止しました。弱点は首です。」

 全く勝利の見えない戦いに、一筋の光が差したのだった。


 エリカは援護射撃をしながら、逐一、マナに現状を報告していった。そして、将一のA級装備が発動した時に彼女は護衛役の結芽に前線に行くように指示した。

 結芽は少しエリカが心配だったもの、彼女の言ったことを信じると決めた。

「あの重量だったら上には上がってこないし、今は鬼門少将のおかげで新たな鎧も出てこない。ここで狙撃している分には安全だから心配しないで。」

その一言は、1人だけ安全な場所に居ることに対する悔しさがあったように、彼女は感じた。

 結芽は走りながら途中で動く鎧に足止めを食らった。敵の腕には血がべっとりとついており、近くにはその血の主だと思われる隊員の死体が転がっていた。こんな相手にどう戦えばいいのかわからなかったが、耳元で聞きたかった愛おしい声がノイズ交じりで響いた。内容は敵の弱点だったが、その声は彼女に勇気を与えてくれた。

「私だって花川流銃術が使えるんだから、照おじさんやユーマ君に負けてなんていられないよね。」

 彼女の叫び声は、その可愛らしい容姿からは想像できないほどの威圧感を帯びていた。


 照正と将一は彼らが持てる全てを目標にぶつけていた。茶色いローブを身に着けたアザン本体は、将一のA級装備の影響で弱体化しているにもかかわらず、壁や武器などの金属を地面のコンクリートから錬成しながら応戦していた。

「なんか妙だな。」

 照正が息を切らしながら言うと、将一も余裕がない声で、

「そりゃアザンなんだから、奇妙の塊みたいなもんでしょ。」

という。そして刀型のA級装備を起動させ、一瞬で敵の背後に回り、切りかかろうとする。しかし敵は、腕に金属のナックルを錬成し、将一の一撃をしゃがみながら避け、起き上がる勢いでアッパーを彼の腹にくらわした。それに反応しきれず、彼はもろにその一撃を受け、目標との距離を取った。

「ごめん照。確かにおかしい。」

その一言を言ったタイミングに照正は、花川流銃術の型にのっとり、至近距離で体術を使い、ゼロ距離射撃を試みようとするが、あることに気づき、距離を取った。

「あー、わかった。お前、自我があるだろ?」

そう照正が茶色いローブを着たアザンに言うと、敵は甲高い笑い声を発しながら、フードから顔を出した。

「よく気が付けたね。バレないためには叫んだ方がよかったかな?でも、よだれを垂らしながら、あんなことはしたくないな~。」

 照正はそんな事を言っている目標に構わず攻撃を仕掛ける。しかし頭上に大きな金属の塊を錬成され、それに反応して後ろに下がった。

「僕を君らが殺してきた奴らと同じだと思うなよ。僕は能力を100%扱えるし、集中すれば、君たちのこの放射能でできた結界のなかでも、あの鎧の兵士を量産できる。」

「でも俺らが強くてそれができないんだろ?」

「そこは図星かな。きっとそんな隙を与えてしまったら、一瞬で殺されそうだし。でも、現状で君たち僕を殺しきれないんだったら、他の人間が来る前に・・・、」

 目標が台詞を言い切る前に、敵の体は吹っ飛んでいった。そして、そこには刀を持った男の隊員が1人立っていた。

「集中すれば、この下でも能力が使えるという情報を親切にもしていただき、ありがとうございます。」

 キークはさらに、攻撃を続ける。目標はそれに反応するが数回ほど体に当たってしまう。

「君も自我をね・・・。何の能力だい?」

「教えねぇよ。」

「見栄を張るなよ。気配を感じなかったから、そんな感じの能力かな?」

不正解だ、そんなことを言いながら振るった彼の一撃は重く、受け止めた目標は向こう側の壁まで吹っ飛んでいった。

 目標はよろめきながらキークに尋ねた。

「どうして軍服なんて着ているんだ?君はこっち側だろ?」

キークはその質問に答えず、次の一振りの構えをとる。

「まあいいや。そのうち迎えに行くよ。次は強い味方を連れてね。あ、それまでに人間どもの洗脳を解いておくように。」

そんなことを言う敵に不自然さを照正は感じ取り、

「キーク、早く殺れ!逃げる気だ!」

と叫んだ。キークはすぐに敵の元に走り込み、重力を操作して重くした一撃を振るったが、その寸前で敵は黒い煙のようなものになって、その場からいなくなってしまった。



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