Ep3-4
「お母さん、お父さん、ただいま!」
夢の中で少年は元気よく叫び、駆け足で家に上がる。そして、満面の笑みで彼は両親で話しかけた。
「僕ね、初めてお友達ができたんだ!しかも、人間の。」
それを聞いて母親は笑顔でよかったねと言いながら夕飯を作っていた。
「あ、でも安心して。僕がアザンだって言ってないよ。」
そんなことを言っていると父親が寄ってきて、
「その友達が本当に信用できる人物なら、隠す必要なんてないんだぞ。お父さんにも軍に親友がいてね、彼は私がアザンだということを知っている。」
「本当?じゃあ、アザンってことを言ったら家に呼んでいい?」
「もちろんだ。ただタイミングは慎重に選びなさい。」
少年は嬉しそうに母親に話しかけ、母親もお友達が来るならおいしいご飯でも作ろうかしら、なんてことを言いながら笑顔を見せる。その光景だけをみると、一家全員が人類の敵だと思えないほど平和だった。
数日後、彼は友達に真実を話した。そして、彼はアザンとして人間らしい充実した日々を送っていた。しかし、運命はそこまで甘くなかった。
参観日に彼の父親は参加していた。その時だった、彼の担任の教師の脳細胞がアザン細胞に侵食され、暴走状態に陥った。彼と父親は人間として避難しようとした。
「お父さん!ホース君が!」
彼がそう叫んだ先を父親が見ると、彼の友達がそこで今にも殺されそうになっていた。
「キーク君!僕のことはいいから逃げて!じゃないと、エクスが来たら君も・・・、」
そう言っている途中、彼らしかいなくなった教室に金属音が鳴り響く。
「ほう、能力はまだ使いこなせてないみたいだな。」
そういいながら父親はどこから取り出したのかわからない刀を相手の腕に刺していた。
「お前誰だ?人間か?」
唸り声の合間にそんな事を言ってくる敵に対して、
「同族だよ。でも、お前らと俺は別格だ。」
といい父親は相手の腕を切り落とした。痛みに対して、本能的に距離を取った相手に対して、
「ちなみに俺の武器じゃアザンは倒せないんだ。でも・・・、」
「我々、軍人は違う。」
敵は砂みたいなものになり始め、声がした方を彼が見ると、そこには銃を持ち、23と書かれたネックウォーマーを付けた男が立っていた。
「鬼門一馬様の到着ってか?遅いんだよ。俺が能力使う前に来いよ。」
「約束だ。現場で能力を使ったお前に会ったら殺すんだよな?何か言い残したいことは?」
「キーク、アザンとして産んじまってごめんな。もし、憎しみなんて感情を持つんだったら、その対象は俺にしろ。」
そう言い残し、父親は軍人である親友に打ち殺された。
その時に能力を使わなかったことを考慮し、彼は殺されなかった。父親が守った彼の友達はショックで記憶を失い、母親は暴走してしまった。父の親友だった男の配慮で、彼の遠い親戚のもとに預けられ、苗字も深里に変わった。そして、キークという男も変わってしまった。
キークはゆっくりと目を覚ました。夢の内容を思いだしながら、隣で珍しくいびきをかいていないユーマの顔を確認して部屋から出た。軍服を着たまま寝てしまっていたので、彼は少し宿舎の外へと出た。外の冷たい空気を吸い込み、自分の体温で暖かくなった空気を吐き出す。そんなことをしていると、自分が人間であるように錯覚しそうになる。
「親父が死んでなかったら、みんなとは会えていなかったんだろうな・・・。」
そう呟きながら、彼は上を見上げた。灰色になった地球、昔は青と緑の綺麗な星で、人類は争いながらもそこで幸せに暮らしていたという。
「俺は何者なんだろう?」
そう空に問いかけると、彼の後ろから女の子の声がした。
「キー君はキー君だよ。他の誰でもない。」
その声の方を見ると、パジャマ姿の結芽がそこに立っていた。
「たまたま窓から見えて、私も来ちゃった。」
彼女はもじもじしながら彼の横に座り、彼と同じように空を見上げた。
「実は私ね、キー君のこと好きなんだ。」
そんなことを何の前触れもなく、顔を真っ赤にして結芽は言い出した。
「もちろん恋愛の意味合いでだよ。」
「・・・。でも、俺はアザンだった。敵だった。」
「そう。私は軍にたくさんの大切な人がいる。照おじさんもいるし、お母さんの遺志もちゃんと継ぎたい。だから私は軍を裏切ってキー君と恋ができない。」
「・・・。」
「だからね、私に大きな目標ができたの。」
彼女は視線を空からキークの方へ変え、それにつられるようにして、彼らは見つめ合った。
「私は偉くなってアザンにも人権を持てるようにしたい。そしたら私がキー君と恋しても問題なくなるでしょ?そしたら・・・、」
そして彼女はまた顔を赤くして言った。
「そしたら、私の事を好きになってくれませんか?」
結芽の唐突な告白に彼は戸惑ったが、すぐに返事をした。
「まずは俺が生き残る必要があるな。そして、今までそんな感情は押し殺してきたから・・・、」
彼の最後の一言は結芽の強くなる原動力になった。