Ep3-3
時間は二か月ほど経ち、エリカとキークは実戦を繰り返す程、その技術に磨きがかかっていった。一方、ユーマは教わった武術を軸に我流の戦い方を編み出し、軍本部の人間も一目置くほどに強くなっていった。
ある日、夜の待機時間にキークとユーマは照正に呼び出された。彼は指定された通りに模擬戦用の武装をして、照正の執務室にやってきた。
「よし来たな。2人には今から俺と模擬戦闘をしてもらう。」
それを聞いてユーマは少し不思議そうに尋ねた。
「装備持って来いと言われたときに想像はしていたのですが、何の為ですか?」
「ユーマ・マルバスを軍上層部に推薦するために戦闘データを数値で出すためだ。キークに関してはユーマとのコンビネーションを上に報告するつもりだ。」
そう言われたキークは少し驚いた表情を見せて照正に何故と聞いた。
「ユーマはキークが昇進しないのが不服なんだろ?ならユーマが上層部の目にとまった時に、キーク・深里というアザンとセットで使うと凄いってことさえ証明しておけば階級が上がらなくても出世できるだろ。」
と照正は少し笑みを浮かべながら言うと、ユーマは目を輝かせてキークの方を見て、
「やろう!一緒に本部勤めになって、イレギュラーな黄金コンビってのはどうだ?」
「その呼び名はダサいから嫌だけど、お前がそうしたいなら反対はしない。」
そんな2人を見て扉の外から将一の声がした。
「なんだか昔の僕と照を見ているみたいで恥ずかしいな。」
「やっと来たか。あ、言い忘れていたが1対2じゃなくて、2対2だからな。ついでにA級装備の再現型使うから。」
そんな事を笑顔で照正が言うと、将一も
「そのぐらいの敵にいい成績出さないとね。本気でやるから楽しみにー。ちなみに勝てないのは目に見えているけど、奮闘期待しているよ。」
と言いながら、彼は模擬戦場の方へと歩いて行った。
「開始は20分後、全隊員に見てもらう。ちなみにハンデとしてマナをオペレーターとして使っていいぞ。」
と言いながら照正は2人を部屋から追い出した。
キークは大きく息を吸った。小さい頃に能力の使い方と基本的な戦闘を教えて死んだ父の顔を思い出す。父がエクスに殺され、ショックで暴走した母の顔を思い出す。2人とも死ぬ前に自分に言った言葉を思い出す。
「恨むなら人間じゃなくて、あなたを産んでしまった私たちを恨みなさい。」
そして、アザンである両親が亡くなった後、自分を引き取ってくれたおじさんとおばさんの顔を思い出す。人間である彼らに必死でアザンであること隠したおかげで今の親友とも出会えた。自分がアザンであることを伝えた約1年前にも、
「君が何者であろうとも、私たちの家族であることには変わらない。アザンとしてじゃなくて、私たちの子供として立派な軍人になってね。」
と言われたことを思い出す。そうやって能力の発動を心の奥底にしまい込む。そして決意する。このチャンスを逃さないと。
そうやって集中力を高めているキークを横に、ユーマは模擬戦場の電源が入るのを全身で感じ取った。銃弾の命中を、赤外線を使って当たり判定や衝撃再現をするために会場全体のセンサーが起動した。
「よーし、準備は万全か?」
そういいながら照正は、隊長専用のC級装備を首から頭に持ってくる。そして、その横で暴走状態のアザンよりも鋭い殺気を放ちながら、将一が刀を鞘から抜いた。それに合わせキークも同じように刀を構え、全員が準備を完了したことが確認されると、開始のベルが鳴り響いた。
開始直後、2人の視界から将一は消えた。そして、少し風が吹くのを感じた瞬間、彼は2人の背後で刀を振るう姿勢を取っていた。それに反応できたキークは刀をぶつけ、鍔迫り合いの状態になった。そして、それをユーマが援護しようとしたときに、
「ユーマ、照さんから目を離すな!」
と叫んだが、もう遅かった。照正が放ったワイヤーは天井にあった棒を経由して、キークの足に絡みついた。
「音声入力、01バック。」
その声と共に、キークの体は吊るしあげられた。それを確認した将一は刀型A級装備を使い高く飛び、キークに切りかかろうとしたが、踏み込みをしようとしたときに足を取られた。彼が下を見ると、姿勢をかなり低くしたユーマが足を掛けていたのだ。そして、姿勢をくずした隙を狙い、起き上がる勢いを付けながら左腕で殴りかかった。それは受け流されたが、右手で銃を取り出し、銃口を将一の方へ向けた。
「俺の銃術が照さんのものと同じと思わないで下さいよ!」
そう叫びながら彼は引き金を引こうとする。その刹那、照正の左膝がユーマの銃に当たり、そのまま左足で腕を蹴りあげられた。彼は瞬時に反応し、少し距離を取る。そのタイミングでワイヤーを解いたキークが照正に切りかかる。それを照正は銃で止め、回し蹴りをキークの脇腹に入れ、吹っ飛んだ彼のもとに歩きながら照正は向かった。それに反応し、ユーマが駆け寄ろうとするが、
「お前らは誰と戦っているのか忘れていないか?」
照正がその一言を言った瞬間には勝負は終了していた。彼は倒れているキークのもとに着き、ユーマの背後には数秒前まで感じなかった殺気が走った。
「勝負ありだね。僕が気配消したら、すぐに僕の存在忘れたでしょ?」
とユーマの首元に刀を突きつけながら、将一は低い声で言った。
「惨敗です。だよな、キーク?やっぱり現状の黄金コンビは照さんと鬼門少将ですよ。」
へらへら笑いながらユーマは目に涙を溜めていた。よほど悔しかったのだろう。キークはそんな彼をただ見ることしか出来なかった。
模擬戦場の電源が落ちるのと同時に結芽とエリカは落ち込む2人の元に駆けつけてきた。
「2人ともよかったよ。結果はともかく、今回の経験を次に活かそう。」
と結芽が慰めると、エリカも、
「確か、集めるのは戦闘データの数値でしょ?なら勝ち負けは関係ないって!きっとユーマとキーク君なら、いい数字が出せたに決まっている。」
と言った。それを聞いたユーマはとうとう泣き始めてしまい、エリカが黙って頭をなで続けた。
「親子かよ。」
とキークが呟くと、
「ユーマ君、キー君の名誉は俺が挽回させるんだーって張り切ってたんだ。だから、とっても悔しかったんじゃないかな?」
と結芽が微笑みながら言った。
キークはそれを聞いて少しだけ涙がでた。親が死んだときにも出なかった涙が頬を滑っていった。他人のために、しかも人類の敵であるアザンのために泣いてくれる人が目の前にいるから?それとも、ユーマと同様に悔しいから?涙を流したことのない彼にはその理由が分からなかった。
「キー君、大丈夫?」
結芽は心配そうに彼に尋ねた。すると彼はハッとなり、手で涙をふき取った。
「ごめん。」とだけ言い残し、彼は逃げるようにしてその場から立ち去った。