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九話

 穴の底で、ぼくは彼女の寝顔を見つめていた。理由は彼女が頭を地面に強打し、目を回したからだった。ちなみに漫画みたいに気絶したりとかはなかった、人間そうそう意識のブレーカーは落ちないよねって、ヤバい非常事態発生によりぼくのキャラ大崩壊の危機だった。

 とりあえず、彼女の頭を起こして、膝のうえに乗せて、声をかけた。

「だ、だいじょうぶですか? あの……だ、だいじょうぶですか?」

他に言いようもなかった。というかこういう状況事態が完璧に初めてで、どうにもこうにもならなかった。てかありえるのか、こんなのが現実に?

「う、ぅ~ん……」

 反応アリ。とりあえず、繰り返すしか出来ない。

「あの、だいじょうぶですか?」

「あ、はい、その……」

 体感でだいたい7秒くらい経ってから、彼女はぼくの呼びかけに応え、そしてゆっくり、瞼を開けた。

 バチっ、と音がしたかのような感じで、目が合った。

「え? ひぇ!?」

 とたんに彼女は跳ね起き、飛び退き、そして自分の身体を庇うようなにして後退り、

「あ、あ、あの……?」

「いえその、とりあえず怪しい者ではないので、というより以前一度お目にかかったのですが……覚えてないですか?」

「あ、は、はい……覚えて、ます」

 覚えてるのかよ、というツッコミは自重した。とにもかくにも彼女のことが少しもわからない現状、下手な刺激は逆効果だろう。とにかく穏便に、穏便にことは進めなければと心に留めた。――なんのミッションだ、これは?

「そ、そうですか……それはありがたい? ですね、多分……それで、あの――」

「なん、ですか?」

「あの……」

 ――どう、訊けばいいんだ?

 事ここに至って初めて、ぼくは戸惑うハメになった。なにをしているかは、以前聞いた。電動ドリル以上が無い事は、もうわかった。あと、訊くべきことは――

「あの……地球の裏側に、行きたいんですよね?」

「は、はい」

「なら、あの……飛行機で行くとしたら、いくら位かかるか調べましょうか?」

 まずは現実的な線で、折り合いをつけてみることにした。ぼくは可能性を探り、

「それで、地球の裏側って言うと……ブラジルとかですか?」

 反応は――呆気にとられたような表情だった。

「ブラジル? なんですか、そこ?」

 だったら、第二の案。

「じゃ、じゃあ……イギリスとか? あそこも距離的には日本の真裏に当たると言えなくも……」

「イギリス?」

 ヤバい、マジ意味わからん。

 ぼくは痛くなりそうになってきた頭を手で押さえ、

「…………あの、」

 深呼吸。

「あなたは実際のところ、一体どこに行きたいんですか?」

「地球の裏側です」

 めげない。この娘との対話は我慢が肝心だと理解出来たから。

 こうなれば、とことん。毒喰らわば皿までだ、な心境だった。

「ぐ、具体的には?」

 作り笑顔ってこんなに疲れるものだったっけ? と今までの自分の生き方を根底から覆すような疑問を抱いてしまう。

「え?」

 そんな本気できょとんとした顔作るなよ、おかしいのはこっちな気がしてくるだろ? でも挫けない、彼女との戦いは始まったばかりだ。

「じゃあ、く……国名は?」

「は?」

 いや確かにきょとんとするのはやめてくれと心の中で頼んだけど、なにいってんのこの子頭弱いの? みたいな蔑んだ表情で頭傾げるのはもっとやめてくれお前は読心術者かちくしょーめ。

「…………」

 イカンいかん、始まったばかりだとか自分を鼓舞した直後だってのに、危うくイッてしまうところだった。なんという強敵か、オレのATフィールドも限界か? だったら全開だあー夢と現実の境目が曖昧ですセーラームーンスーパーかっていちいちネタが古いよ読者がついてこれないよ。

「じゃあ、あの…………そこに行きたいのって、なんでなんです?」

 一応真面目に、音信不通の親がいる生き別れた兄弟がいる留学中の恋人がいる辺りを思い浮かべてみた。妥当な線だと自分でも思う、たぶんだけど。地球の裏側に行きたいだなんて地球外な発想自分にはないんで、はい。

 それに彼女は、少し憂いを込めた表情で顔を伏せ――

「――――」

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