八十五話
「ホイコーロー定食、ひとつよろしくー」「あっ、おいも同じので!」「あ、深雪もデス」「…………」
マジか、と衝撃を受けた。え? みんな、そんな迷うことなく一択なの?
そして全員の目が、ぼくに集中した。
『――――』
みんな、微かに殺気立っていた。みんな、腹減ってるんだな。まだ12時前だってのに、食欲旺盛だね。
『…………』
みんなの視線が、熱かった。視線を外すのも、許されないくらいに。つまりはメニュー、見れないくらいに。
「……じゃあオレも、ソレで」
もはやなにを頼んだのかも、わからなかった。
でも結果的に、中華は大変に美味しかった。いや実際頼んだ回鍋肉とかいう定食は、特にソースが美味しかった。人間美味しいものを食べると心豊かになるということで、会話も弾んだ。菅原さんも赤羽にそこそこ寛容になり、赤羽と深雪ちゃんもまぁまぁ仲睦まじかったし、赤羽と嘉島も珍しく絡んでいた。まぁつまりみんなの輪を繋ぐのは、というか鍵というか、ムードメーカーは赤羽だなと。
そしてテンションも上がったところで、ぼくたちは例のバス停に向かった。電車を乗り継ぎ、バスに乗り、1時間が位揺られていた。そうこうしている間に、会話も徐々に減っていった。ネタが減っていったというのもあるが、実際そういう空気に変わっていったというのもあった。
ぽつり、と菅原さんが腕時計を見ながら呟いた。
「そういえば菖蒲ちゃんには、今日行くって言ってあるの?」
ちなみに、カルティエだった、ちょっと引いた、稼いでるなーさすがは出来るビジネスウーマンだった。ぼくも自身のG-SHOCKで確認すると、時刻は3時に差し掛かろうとしていた。もはやここって東京じゃないんじゃないか?
「いや……そういえばそもそも連絡取ったことも、ないですね」
「ハァ!?」
いきなり立ち上がり、いきり立たれた。
「は…………?」
正直結構、ビックリした。基本笑ったりニヤニヤしたり生温かく見守ったりと感情表現豊かというかそんな感じだったのだが、こんな風に激しく叱られたのは、初めてだった。
ぼくはアホの子のように、菅原さんを見上げた。
菅原さんは対照的に激しい勢いで、
「って、そっ、ハァ!? 連絡取ったこと、ない? それ本気で言ってるの? なのに家に、って……それ本気ィ!?」
「や、いや……こ、今回は別に家に行くって言うわけ、じゃ……」
「連絡先知ってるんでしょ!? なのに連絡取ったこと無いって、いったいどういうことなの? どういうつもりなのっ? あんた恋愛舐めてんの!?」
「…………あ、いや」
「いやじゃわからないでしょっ! ハッキリしなさい、ど・う・い・う・つ・も・り・な・の!?」
ジリジリ、とスゴイ距離まで詰められた。目が、ガチだ。目を逸らしたくなったが、その迫力がそうさせなかった。なんだ、なんだこれ? ぼくそんなに、やらかしたのか?
「や、いや……ただオレ、あんまりそのメールとか慣れてなくて、その……すいません」
「――――はぁ」
煮え切らないぼくの言葉に、菅原さんは張り詰めた風船のようにプルプル震えたあとにプシューと息を吐いた、なんかホント風船みたいだ。
「あの……菅原さん?」
「まぁ、謝んなくてもいいと思うわよ? でも、そうね、そっか、だとしたら……じゃあ、お姉さんが色々教えてあげるわ、仕方ないわねー」
「は? いや、あのちょっと……よくわからないんですが?」
さすがに、でも、でそうね、でそっか、でだとしたら、でじゃあという五回にも及ぶ納得を繰り返されると、いくらぼくのサトリ能力が高いといってもついていくのは苦しかった。この数秒で、どれだけのやり取りがあった?
そんなぼくの混乱をよそに菅原さんはうんうん頷き、
「そうねぇ、じゃあ最初は……まず、挨拶メールから初めてみましょうか? 初めてメールしますとかから……あ、でもこれから会いに行くから、返信遅い子だったら間に合わないかしら? だとするなら、突然のメール失礼します、実は今あなたのおうちに、とか……」
「えー、でもそいちょっと当たり障り無さ過ぎじゃなか? メールにはさりげない気配りとユーモアが不可欠やけん、もっとこうわかりやすくかつギャグとか盛り込んで――」
「……冬馬ちゃんさー、そういうとこが女の子に距離開けられる理由だと思うわよ? あなたはもう少し、女の子の気持ちを尊重した方がいいわよ?」
「ぅえ? おい、バリ考えとるやん! おいはいっつだって万知子のことば――」
「はいまずー、年上の女性にはさんをつけましょー。それと今は菖蒲ちゃんの話してるんだから、そういうのいらなーい」
赤羽、フルボッコだった。正直テラワロスってくらい面白かった、赤羽はズタボロになってオーアールゼットと化していた。ちょっと2ちゃん用語がバンバン出てくるのはずっと引きこもってネットばかりやってたけど三次元では自重してたのが色々あってリミッターが外れたのかもっしれなかった、マズイか?




