八十四話
ここで聞いてはおかしい声を、聞いた気がした。
「って嘉島お前、来てたの?」
嘉島が、唐突にビルの奥から現われていた。両手には、ジュース。ということは――
「あぁ……来て、た。で、みゆき、喉、かわい……」
「みたいだな」
早く話を進めたい時は、嘉島の喋りは若干もどかしい時もある。というか嘉島、今日は最初から普通に喋ってんな、アレか、テンション上がってんのかな?
「喉が可愛いなんて喜一郎は通デスねー!!」
「いや、きみ、それはどう考えても勘違い……というか二時間って、堀さん本当に二時間前から来てんの?」
「正確には、二時間と17分23秒前からデスね。逆算すれば、8時42分37秒には到着しまシタネ、ちなみに深雪のべいびーGで、デスけど」
「…………なんでそんなに、早く来たの?」
「大事な話を大事なお友達一人とまぁまぁなお知り合い一人とおまけ一と待ち合わせてたんで、1時間+30分+20分+10分に、五分前集合×3で、それよりもちょっと前ということで……」
「あ、あー、あー、あ、あー、うん」
「……ナンデスカ? その、妙な返事? のようなものは?」
「いや、その、あー……堀さんらしいな、と」
「それと、気になってたんデスけど」
「な、なんですか?」
「堀"さん"って呼んでマスけど、先輩微妙に深雪のこと、バカにしてマスよね?」
ビクッ、としてしまった。だからその後どんなフォローをしようとも、無駄だというのはよくわかった。
男は無駄だとわかっていようとも、立ち向かわなければならない時があるものだ。
「や、いや、あの、あ、う、うぁ……」
人間、図星突かれるとどうしようもない醜態を晒すのだと知った。当然そんなぼくに怪訝な目を向ける16歳に――
「……誰がおまけ一や?」
「もちろん紛うことなくあなたデスが赤羽先輩カッコおまけ一さん?」
「なんいーよっとやわいぶっ飛ばすぞゴラァ!」
「女の子相手にうのあびぃよやみれぇ!」
モノスゴイバトルが勃発していた。誰も入れない雰囲気だった、というか赤羽もさっきまで死んでるんだかなんだのテンションだったのに、ある意味このふたり相性いいのか?
すると菅原さんがズンズンと前に出て、
「ど――――――――ないしはったん? なんぞあったん、自分?」
方言出して、関西女が九州男を諫めていた。それに空気が抜けた風船のようにシュン、と小さくなる赤羽、なんか最近の様子は最初の頃の印象と随分変わったものだなと、いや案外こんなものだったか?
「や、いや……なんもなか」
「落ち着きよし、お姉さんに話しとうみぃ?」
手懐けられていた。知り合いのこういう姿は正直見たくなかった。情けないというか、少し気持ちもわかるというか、嫌な連想がすごく浮かんできて厭な感じだった。
赤羽は叱られた犬のような目を向けて、
「だって……万知子、歩くとき手も握ってくれんし」
「さーて之乃くん、時間も時間だしまずはお昼ご飯でも食べてから行くの? 菖蒲ちゃんの家はここから遠いのかな?」
「や、いや……まぁ結構距離あるので、まずはお昼を……?」
赤羽を見ると、アルタにもたれて手足を投げ出して死んだように燃え尽きていた、あしたのジョーか? それを菅原さんにアイコンタクトしたが、素知らぬ顔だった。赤羽頑張れ、お前はあくまでスタートラインに立っただけだぞ!
「ぐるるる……」
そして深雪ちゃんだけ空気読まずに唸っていて、嘉島は片手でジュースを突き出していてもう片手で夏限定のゼロサイダーを飲んでいた。
てか気づけば、カップル×2+おまけな構図になっていた。とてつもなく切なかった、リア充爆発すればいいと思った。なんだか初っ端から、テンション下がる展開だった。
昼食は、駅前の東秀にした。結構駅前によくある中華料理のチェーン店――らしい、ソースは赤羽だった。というか基本東京の情報は赤羽だった、東京かぶれのこいつは基本暇があればあちこち巡っていて、暇がなければ暇を作ってでも東京を散策しているようなわかりやすいミーハーだった。ていうかこいつ、実はチャラ男なんじゃないか疑惑が?
東秀は、ある意味ファミレスのような内装だった。シンプルな白い壁で、清潔感のある店内。中華とは思えないそれに、結構女性客や家族連れも多かった。既にかなり混み合っている店内の一番奥に通された。ザワザワ結構うるさいので、特に会話も無くメニューに目を通す各々五人だった、結構殺伐、というか腹減ってるのか?




