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八十三話

 ちーん、とお通夜のような雰囲気で出入口の隅っこで小さくなってしまった周りの迷惑爆発乙、じゃなくてなにどうしたいきなりひょっとして?

「……赤羽?」

「なぁ、上月……おいって、男としての魅力、なかとかな?」

 切実だった。切実過ぎて普段のぼくだったらフォローして慰めて大騒ぎのところだが、むしろ少し落ち着く心地調子乗ってるリア充九州人アールワイだった2ちゃん用語は自重しようと思う今日この頃。

 しばらく放置して、カチカチと携帯を弄った。結構みんなの状況や都合と合わせるのも大変な作業だった。11時集合と言っておきながら、みんなどうやら11時に着きそうにもなかった。まず嘉島は早い段階で15分遅れると連絡が来ていた。偉い、それは都合を合わせやすい。逆に深雪ちゃんはなんの連絡も無い、怖くなって一応確認したら『当り前じゃないですか、なに言ってるんですか?』と逆ギレされた。そして問題は、ぼくたちもしれっ、と20分くらい遅れそうだということだった。電車を乗り継ぐ都心で時間を守るって難しいなァ、もちろんネットの乗換案内は使っているのだが。というわけでスマン深雪ちゃん、こっちまで遅れることは伝えてないので会ったら正式に謝るよ。

「ヲイっ」

「うわびっくりしたなァもうなんなんだよ!?」

 いきなりべったりと、まるで子泣きジジイかなにかのように張り付かれていた。なんかすげーメンドクサイキャラになっていた、これが恋愛かました男の末路という奴なのか、女性との大違いだった。

 そして構ってくれと縋る赤羽をなんとか振り切りつつ、新宿に到着した。ちなみに集合場所を新宿にした理由は、自分たちの大学と菅原さんの職場と例のバス停との妥協点を探った結果だった。大体が東京で集まるとなると新宿か調布か八王子の三択というのがありがちだと思うちょっとした東京かぶれな気分だった。

 新宿東口を出たアルタ前で、みんなの到着を待った。時刻は現在11時27分、うん思ったより遅くなっちゃったね、ていうか深雪ちゃんいないしね。

 休日お昼前の新宿アルタ前は、ひと、マックスだった。どれだけ駅から吐き出しても吐き出してもひとは止め処なく溢れてくる。なんだか信じられない気分だった。東京という異界は、いったいどれだけの人間を飲み込んでいるのか?

 どれだけの人間の中の、ぼくはちっぽけなひとりなのか?

 これだけの人がいても、彼女の心に届く人間はひとりもいないだなんて――

 それはとても寂しいことだな、なんて思ったりした。

「おつかれおつかれー」

 そんなことを考えていると、雑踏の中から菅原さんが現われた。少し派手目なショッキングピンクのスーツ姿で、目に眩しいタイトミニ。手をヒラヒラしつつ、小田急線の駅の方から小走りでこっちへ向かってくる。彼女が現われただけで、モノクロの景色に色がついたように錯覚した。かなり、ナーバスになっているのだろうか?

 これから輿水さんに、会うという事実に。

 ぼくは会釈しつつ手を振り返して、

「あ、はい、どうも菅原さんお忙しいなか――」

「アハハハ、ごめんねー遅れちゃってー。それで、残りの子は?」

 辺りを見回す。まぁ確かに一番遅れると言ってたひとがなにげに二番手に来てれば、それは――

「ん? "残りの子"、ですか? 他の子たち、じゃなく?」

「え? だってもうみんな揃ってるみたいじゃない?」

 うぇ? とぼくは辺りを見回した。

 そこには未だにイジイジとウザく落ち込んでいる九州人しかいなかった。

「や、いや……まだぼくたち二人だけで、他に二人がまだ――」

「だって、そこにちっちゃいちゃんいるじゃない?」

 ――ちっちゃいちゃん?

 ぼくはその意味ありげな言い回しに疑問符を浮かべながら、促された方を向いた。

 ビクッ、とした。

 近くの街路樹の根っことの土の部分に立ち、気配を消して幹に身体を完全に隠して、深雪ちゃんが無機質な瞳でこちらを見つめていた。

「うぉ!? ……っと、な、なにしてるの、堀さん?」

「――――遅刻デス」

 ビビクッ、てするくらいに低周波な声だった。というか、怨念が籠もっていた。

 ふと、そのこめかみに流れる汗に気がついた。

 小刻みに震える膝に、気がついた。

 ついでに本日の漫画も真っ青な大きな麦わら帽子に真っ白なワンピース姿にも気がついたが、それを着こなしているのはスゴイなとも思うが。

 唾を呑みこみ、ぼくは尋ねた。

「……あの、堀さん?」

「ナンデスカ?」

「あの……いつからそこで、待っているのでしょうか?」

「イマキタトコデス」

「……えーと、」

「先輩、今日の集合時間は何時デスか?」

「……じゅういちじ、デス」

「いま、何時デスか?」

「……じゅういちじ、さんじゅういっぷん、デス」

「先輩は、5分前集合という言葉を知ってマスか?」

「あぁ、うん……その、小学生徒の時にならいました、ハイ……」

「そしてお友達と会う時は最低30分前には着いておかなくてはいけないというのを知っていマスか?」

「えっ? いやあの、それは……ハイ」

「そして大事な話の時はどんなに遅くとも1時間前には絶対厳守ということを知っているのでショウカ?」

「やっ!? いやーそのーあのー…………ハァ?」

「なぜに疑問符なんデスか?」

「いえ、その……それで堀さんは、1時間前から来てたんですか?」

「二時、かん……」

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