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八十二話

 慣れた、それは行為の筈だった。ずっと、ある意味ぼくは独りだった。親の仇と、自分を守る為に、自分を殺して生きてきて、その罪悪感から誰にも心開けず、自分に価値を見いだせず、ただ独りで生きる為だけに生きてきた。ある意味ぼくは、生ける屍――リビングデッドだった、ゾンビかよ。

 それが、今は、寂しくて、寒くて、辛くて、堪らなかった。

「…………」

 戸惑いは、間違いなく大きかった。こんな自分が、そんな恩恵を受けていいのか? そんな視覚があるのか? 罪悪感は、影のように自分の傍にピタリと寄り添っていた。

 だけどそれ以上に――

 ブブブ、と携帯が震えた。

「!」

 ビクッ、として、そして携帯を見つめた。なぜこんなにビクビクしているのも、理解出来た。他者との接触に、恐怖を感じる。他人は基本的には、自分に――でも。

 ぼくはメール画面を、開いた。

『大丈夫や?』

 あんなに大雑把で、適当と思える男が、別れた途端に気遣うメール。

 さらに立て続けに、メール着信を告げるバイブが三回、訪れた。

 申し訳なくて、切なくなって、悲しくなって――よくわからなくなって、ぼくは少しだけ、泣いた。本当に感じていた感情は、別だということにも気づいていた。気づいていて、だけど未だ認めるのが、怖かった。一度認めて、覚えてしまったものを失うのは、知らない時より何百倍も、恐ろしかった。

 それが温かさだと。

 人と人との繋がりだと。

「……信じて、いいのかな?」

 ピタリこのタイミングで、またも携帯が鳴った。見ると、深雪ちゃんからだった。開く。

『怯えなくても、大丈夫ですよ。孤高の先輩で頭脳の天才である深雪が、先輩を守ってあげますから』


 すげぇ読唇術まであんのかよ軽くエスパーだなさすが言葉が通じない嘉島と付き合ってるだけあるなと一瞬で脳内ツッコミして、そしてぐぅ、と前屈みになった。

 敵わないな、と思ったりした。

 親の仇なんて、天才厨二病少女に比べたら大したことないなって。


 そんなこんなでみんなの力を借りつつ――というか半分くらいは堕落しないように監視されたりしながらぼくはなんとか残りの三日間を乗り切り、そしてぼくらは週末を、迎えた。

 決着をつける、それは土曜日だった。

「それで、今日は何時にどこ集合になっとるとや?」

 調布で落ち合った赤羽に、尋ねられる。それにぼくは携帯でメールを送りながら、

「あぁ、ちょっと待って……と、新宿に11時ってことにしてある。一旦集まって、飯でも喰ってから行こうかって」

 ゴト、ゴトンっ、と電車が揺れた。それにガクン、とバランスを崩す。危なっ! 咄嗟に近くの手すりにしがみつく、やっぱり余裕こいて吊り輪持っとかないとか危ないね、と!

「おぉ、なんしよっとや? 大丈夫や?」

「あ、あぁ……だ、だいじょうぶだいじょうぶ。それで、うん、そういうこと」

「他のメンバーは現地集合や?」

「そうゆうこと……ちなみに、菅原さんは?」

 付き合ってる、と知ってからはさすがにこちらから連絡を取るのは控えることにした。でも、そういう意味では深雪ちゃんも嘉島に任せればいいのか? いやでもそこまでするというか気を遣うのも面倒な気がした、もうなにをするにも難しい、人付き合いの大変さを知る気がした。

「あー、万知子は午前中にちょい仕事入ったっていっとったから、昼過ぎくらいに合流するらしか」

「あー、そうなの? なんだか、残念だな……」

「なん? 上月はひとの女に興味しんしんなん?」

 目をキラキラさせて、ずずい、と迫ってきた。

 正直、ウゼーと思った。リア充爆発乙。

「……べっつに」

 しれっ、と目を逸らし、ちょっと距離を取った。気づかれない程度に、さりげなく。

 それを一瞬で詰められさらに二歩分くらい近寄られ、顔の正面に回り込まれた、ちかっ! お前近いよホントッ!!

「ちょ、おまっ、なん……!?」

「まーまーまーわいの気持ちもわからんこともなかって、なにしろ万知子はホントよか女やっけんな、世界中の男の半分がメロメロになっても無理なかって、ヒャッハー!」

 ヒャッハーじゃねぇよ、お前少し黙れよアホ九州人め!

 と本気で叫びたくなった。が、そこはまー狙ってた彼女を落とせて浮ついてる友人に対して忍びないかなと、まー半分以上は相手にするのメンドくせーというのが実際だったのだが。

「は、ハハは……まーうん、そだね」

「でも残念やったなー、万知子はおいのもんばい、あのやーらかそうな唇もー、パイパイもー、お尻もー、ざーんねんやったー、ヒャッハハーっ!!」

「あーうっせお前少し黙れ落ち着けなんだもうキスやらヤったりまでいったんかい!?」

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