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八十一話

 その後、駅前のマックで各々で好みのマックシェイクを買って、窓際の席に待機した。その間も延々無駄話は続いていた。今となってはなにを話していたのは、よく覚えていなかった。ただ、ひたすら滅茶苦茶だったというか、脈絡がなかったのだという事実だけはよく覚えていた。

 そして突撃するような勢いで、菅原さんは現われたのだ。

「…………」

 正直そのテンションに、ぼくはついていけなかった。まだみんな昨晩のことを引き摺っているというのに、さすがは大人の女性だった、切り替えが早い。その、ぼくらとの気持ちのギャップに、若干心折れそうに――

「そうさね、行くっさねもうおい楽しみでさーっ!」「深雪も楽しみデス、早く行きたいデスお話したいデスそして輿水先輩のお力になりたいデス!!」「!!!」

 ヤバい、テンションも差があるのはぼくだけだった。とてつもない疎外感、またも景色が灰色になっていく感じだった。軽く帰りたくなった。

 頭を抱えていると、シャツの裾を引っ張られた。

「?」

 顔を向けると、深雪ちゃんだった。

「……大丈夫デスか?」

 そんな真剣に、心配してくれるなよ?

「だ、だーいじょうぶだいじょうぶ、冗談だってば、アハハ」

 ――泣きたく、なっちゃうじゃないか。

 軽く潤んだ瞳を隠すため、背中を向けた。

 ニヤついた男にポン、と肩を叩かれた。

「どうしたん? 上月?」

「な……なんでもねーよっ」

「おーこわっこわっ、万知子ちゃーん、このひとバリこわかとですけどー?」

「えーホントー? うわキミってホントに青春してるっていうか涙脆いよねー」

 なんだか、違和感を覚えた。

「……あの、二人って?」

「ん? なん?」

「え? なに?」

「……なんか、意気投合してません?」

 ちょうど三点リーダ分くらいの沈黙が流れた。なんだか微妙な間、某有名賭博漫画で言うならザワザワという感じだった。ぼくと、深雪ちゃんと嘉島は黙って成り行きを見守った、まぁ元々この三人だとそれほどワイワイやる関係でもなかったが。

 そして二人は示し合わせたように同時に二人でこちらを見て、

「まァ……ちょっと、」

「付き合い……始めたやんなぁ?」

 一拍の間、

「うぇえぇえぇえええええええええええええええ!?」

「アラ、ソレは」

「おめで、と……」

 驚天動地の展開だったのに、ふたりはなぜか普通の反応だった。その二人と自分との違いは――

 気づいて、ぼくは叫んだ。

「うわあああああああああああああああああああああ」

「ど、どうしたんデスか先輩普段からおかしいおかしいとは思ってましたが遂にショートしましたか?」

「し、失礼だな本当にキミは赤羽だけかと思ったら見境なしかよちくしょうこのリア充めっ!」

「リア、じゅ……?」

「ってなんデスか先輩? ていうか失礼だな本当にだとか見境なしだとか先輩の方がよっぽど失礼デスよね、ねー喜一郎?」

「ね、ね……ぇ?」

 イラっ、とした。

「…………」

 まぁ確かに嘉島はノリ気ではなかったし、深雪ちゃんは普段とのギャップでちょっと萌えたし、そんなに悪意が見えた訳ではなかったが――だからといってボッチが許されるわけではない。

「どうしたんデスか、先輩?」

「いえ……すいません、失礼なこと言って、ハイ……」

「なんかテンション下がってまセンか?」

「いえ、別に……」

「ん? わい、ひょっとして万知子ちゃん狙っとった?」

「そんな訳はない」

 赤羽からのブッ込みに、ぼくは冷静さを取り戻した。というか昨日の今日で、随分回復したもんだよなと思う。なんだか、友達ありがたいとか世に蔓延る欠片も胸に響かなかった言葉が、心にしみる感じだった。つくづく、ぼくって現金だったんだなァ。

「それで……えーと、どっちから?」

「もちろん万知――」

「このひとがしつこかったのよねー」

 早くもバッチリ尻に敷かれている様子の赤羽だった。まぁどちらが本当のことを言っているかは今までの赤羽の話を聞くに、火を見るより明らかだった。

 そんなやり取りにみんな爆笑し、そしてそのまままたも混沌の渦の中で、ただただ愉しく時間が過ぎていった。そのあとはなぜか駅中のベンチに座り、ダラダラとだべった。内容は今となってはよく覚えていなかった。最初の方こそそこそこ建設的な話し合いが行われていた気もするが、途中からは本っ当にどうでもいい雑談というか日常会話というか、そういうものに終始していた気がする。

 そこに合理的な理由や理屈は、存在しなかった。

 ただ人の輪の中で、身体と心が溶け込むように、動いていた。

 結局解散したのは、終電間近だった。誰がどうと、言い出すことはなかった。きっと多分だが、出来なかったのだと思う。ただ時間が実際差し迫り、物理的にどうしようもなくなって、ひとり、ひとりと、それぞれの路線に向かっていった。最後に残されたのが、ぼくだった。

 何度も何度も繰り返し、行き慣れた。帰り道。いつものようにぼくはひとり駅のホームで、終電を待っていた。いくつもの行列の最後尾で、ぼくはポケットに手を突っ込み、携帯を弄っていた。

 ふと、思った。

 寂しいと。

「――――」


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