七十七話
「あ、いや……」
「おいにも輿水っちゃんから、メールが来たとさ」
ぼくは目を、再度パチクリさせた。
「それ、は……」
「そいもどうやら一斉送信じゃなく、それぞれ違う文面でらしか」
「な……」
絶句――し、ぼくは半分震えながら差し出された携帯を、覗き込んだ。
赤羽さん、よろしければ、上月之乃さんの事を助けてあげてくださいませんか?
赤羽さんは、とても上月之乃さんの支えになっていると思います。上月之乃さんは赤羽さんに対してだけは、とても自然体で話していらっしゃいます。わたしはそんなお二人を見て、わたしはとても眩しく感じました。
そんな赤羽さんに、わたしからお願いがあります。上月之乃さんは現在、赤羽さんの助けを必要としています。自分の一番脆い部分を真摯に見つめ、その負った痛みに苦しんでいます。上月之乃さんに必要なのは、赤羽さんのようなお友達だと思います。言葉を越えた赤羽さんの思いやりを、どうか上月之乃さんに届けていただけませんでしょうか?
どうかどうか、よろしくお願い致します。
ぼくは、想った。彼女がメールを打っている、その姿を。その文面を考えている、その姿を。嘉島と、赤羽と――おそらくは深雪ちゃんと、菅原さんにも向けて、ぼくのことを託しているだろう、その姿を。
その時もツルハシを、振るっていたのだろうか?
もしくは、クワの方だろうか?
「マズイわね」
一瞬誰の声なのか、わからなかった。
「え……す、菅原さん?」
菅原さんはなぜか口元に手を当て、
「うち……こゆのに、弱いねん」
「な、ナマっ……て?」
る所を初めて見たうえに、彼女は口元抑えて――泣いていた。
「深雪……泣けてきまシタ」
「ってお前はなまらんのかい」
関西弁がうつってしまった。というか冗談じゃなく深雪ちゃんもガチで目を潤ませていた。
なんで泣いてんだよ、ふたりとも? そう疑問と同意を求めようとして、周りを見回した。
みんな、泣いてた。いつも無表情な嘉島が幾筋も涙を垂らし、いつもテンション高い赤羽が眼を真っ赤にして――
いつも他人と共感出来なかった、ぼくさえも。
いつものようにお父さんとお母さんのことを、想ったわけじゃないのに。
「……ひょっとして電動ドリルかな?」
「なんの話、デスか? ……ぐす」
「ていうか堀さん泣くの見るの、二回目だね。案外涙もろ――」
「くないデス」
睨まれた、結構切実に。だけどその双眸から溢れる涙で、迫力などなくむしろ可愛らしいのが微笑ましかった。
ぼくは振り返り、
「それでお前、なんで泣いてんだよ?」
「そりゃ泣くやろ、ていうかわいも泣いとるやっか」
「……嘉島は?」
「…………」
ただ静かに、頭を振るだけだった。ぼくはさらに周りを見回した。深雪ちゃんも菅原さんも、ただ黙って泣くばかりだった。ぼくは目元を拭った。拭った先から、涙がボロボロと零れてきた。
「あのさ、嘉島?」
「なんや?」
「なんでオレは……泣いてるんだろう?」
「そらね、マトリョーシカくん」
後ろから、答えがやってきた。
「愛やろ、愛」
キン、と耳鳴りがするようだった。
「まーうちもわかりやすいお涙頂戴やったら泣かへんのやけど……だから逆に余計純粋なもの見るとね、眩しいっていうか、情けない話だけどね」
そう目元を拭って、菅原さんは既に泣き止み言葉も元に戻っていた。再三周りを見ると、嘉島も赤羽も目元を拭い、そしてカラっと笑っていた。赤羽はなぜかへへ、と得意げに笑っていたが。
ぼくも目元を拭い、気持ちを切り替えることにした。深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。再度頬に手を当てると、涙はなんとか止まってくれたようだった。
ふう。一息つき、顔を上げた。
深雪ちゃんはまだ、ボロボロ泣いていた。
「……ホント、涙脆いね」
「脆こーねーん!」
「ああ、うん、はい」
なんだか気持ちも凪に戻ったところで――
そこでふと、ぼくは気づいた。
あんなに混乱、大時化していた心がいつの間にか穏やかなものに、戻っていた。
なにか根本的に解決したわけじゃない。だけどぼくの怯えて切っていた心は元のソレの状態に近いづいていた。
ぼくは思わず、呟いていた。
「あのさ……なんで、わざわざ、ここまで、オレ……なんかの、為に?」
「愛やろ、愛」
楽しげに、"赤羽"がポーズを決めていた。両手の親指と人差し指でつくる、はーと。
愛?
ぼくは力なく、笑っていた。
「あ、愛って……ハハ、なに言ってんだよ?」
いち早く気づいたのは、嘉島だった。
「……上月」




