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七十五話

 ぼくは最初。

 その音がなにを指し示すものなのか、理解出来なかった。

「…………あ、」

 インターホン。

 つまりは来訪者が、呼び出している――

 それに気づき、ぼくはさらに憂鬱な気持ちになり、改めて布団を被り直していた。

 独り暮らしの元にやってくる来訪者だなんて、正直ろくな想像がつかなかった。まず最初に浮かんだのが、新聞勧誘。都市伝説のひとつともなっているそれは、実際に2度ほど遭遇した。御多聞にも漏れず、洗剤やらビール券やらお鍋セットやら様々な物量作戦が展開され、ぼくはそれに対抗するのに多大な労力を要するハメになった。

 うんざりだった。所詮その他大勢の、ノルマのひとつとして数に与されるにすぎない存在と思い知らされた。一応なにかあるかもと、もう一度は出てみたが、それ以来インターホンはトラウマになった。なにしろぼくには来訪してくる友達などいない。みんなぼくに、お金遣わせようとするだけ――という強迫観念さえ覚えてしまった。しかも二度と外出できないかも、という破壊的なトラウマを抱えてしまった現状。ぼくにはそれはまるで葬送曲の一種にすら――

 ぴんぽーん、という再度のインターホン。やはりこの手の類は、一度では諦めない。当然と言えばそうだが、逆にいえば3度以上はなかなか起こらない。一度は出ない輩も二度で出る可能性はあるが、それも無理ならば三度目は基本的に無い。だからもう――

 ぴんぽんぴんぽんぴんぽん、と畳み掛けるような呼び出し音。

「!?」

 それにぼくは、顔を上げる。こんなインターホン、聞いたことが無い。心臓が脈打ち出す。なんだ、なにが起こっている? こんなこと、今まで一度も――

 ガンガンガン、と扉が叩き鳴らされた。

「ひっ!」

 ぼくは喉の奥を鳴らした。こ、これはまさかいわゆる押し売り、ってやつじゃないのか? だ、だとしたらぼくは対処法なんて知らな――

「上月っ!」

 ぼくの名を、それは呼んだ。

 今度はすぐに、理解出来た。

「……赤羽?」

「上月おるんやろ? ドア開けろって! てか電話出ろ! むしろ両方やれや!!」

 なんかいかにも赤羽なその要求にピンときて、ぼくは枕元に手をやり、携帯が無いことに今更気づき掛け布団をひっくり返し敷布団もひっくり返しバタバタやってまるで発掘するように携帯電話を発見した。

 それは物と物の間で、まるで宝石のようにピコピコ光っていた。

 拾い上げて、ビックリした。

 着信21件。

 メール57件。

「…………」

 ぼくは無言で、それを開いた。上から順番に、赤羽赤羽赤羽赤羽菅原赤羽嘉島赤羽赤羽嘉島堀赤羽赤羽嘉島菅原赤羽――

 題名は、言葉にするのも恥ずかしいような内容ばかりだった。

「…………」

 ぼくは黙って立ち上がり、玄関までいった。理由は単純に、ずっとインターホンと扉叩きが続いているからだった。このままじゃ近所迷惑になってご近所付き合いが面倒になるから、ただそれだけの理由だった。

 チェーンロックを外し、鍵を回した。

 なぜか途端に両方止み、そして外側から開けられることも無かった。ぼくは仕方なく、内側から扉を開けた。

 開けて、呆気にとられた。

 そこにいたのは、赤羽ではなかった。

「よう」

 いや正確には赤羽"だけ"では、なかった。

「ドウモ」

 なぜこんな状況になっているのか、ぼくは呆けるばかりだった。

「はろー」

 慰安旅行の帰りなのかとかわけのわからんことを考えたりもした。

「…………上月、」

 お前は声まで、出してくれるのか?

「元気しとっか?」「大丈夫デスか?」「生きてるー?」「……電話、出ろ」

 初の個人的訪問者数が、一気に4になった。


『…………』

 少しだけ、サークル室の集会を思い出していた。あの時も重っ苦しい空気になって、なんだかジンクスになりそうだなとか考えていたが、その現場がまさか自室になるとは思ってもみなかった。ていうか自室がジンクスとか、ぼくの安らぎの場はどこに? という気分だった。

 ひとまず、定番を行っておくことにした。

「あの、その……ほ、本日はなにかそのご迷惑をおかけしたみたいで、すみません」

 ぺこり、と頭を下げる。

「先輩、ナニか悪いことしたんデスか?」

「――――さぁ?」

「それで謝る先輩って、意味不明もいいところデスね」

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