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六十五話

 なんでオレが? 輿水さんを? いやそりゃ確かにスゴく気になる存在であることは間違いないが、女性的に意識したことは無く、今までの流れでもそういう気配は無かった気がするのだが――

「な、な、なんでそう、思った?」

「いや、普通に、そう思った、が? お前、見てて」

 理屈じゃなかった。直感、いわゆる言葉で策に溺れない人間だからこそ、わかり得ることなのかもしれなかった。

 だとしても、ぼくが?

「そ、そうか……あのさ、それはなんでかね?」

「それ、俺に、わからん、が?」

「あぁ、そりゃそうか……」

「だが、なにか、ふたり、求めてる気、した」

「なにをだっ!?」

 さすがに聞き捨てならない文章だった。

「なん、というか……愛、とか」

 瞬きした。

 ――オレが、愛を?

 それに――

「輿水さんも……愛を、求めてるの、か?」

「わからん。かも、知れない……俺、そう思った、だけ」

「だよ、な……」

 ガックシして、そして再度コップになにも入ってないことに気づき、ドリンクバーに行こうとして、なんかもう面倒になってボタンを押して、店員を呼んで、

「ワイン一本、ボトルで!!」

「あのお客様……種類はどのようなものを?」

「値段は!?」

「容量の方がボトルとマグナムの二種類がございまして、そしてボトルにはお値段が1080円と2160円が――」

「安いのでっ!」

「あと白と赤がございまして――」

「甘いのでッ!!」

 ミジンコ心臓だった。我ながらこの場面で、情けないことこの上なかった。しかしひとは突然変われない、悲しい現実だった、切なかった。

 飲まないと、やってられなかった。

「はいっ、はいっ、はいはいはいー……ととと、とっ、おしっ注いだな、はい次嘉島、注いで注いでそう、そう、そうよしよしよし……ととと、とっ、おしオッケー! ンじゃ、かんぱーいっ!」

「…………ぱい」

「聞こえねー! もっと気合い入れろ嘉島ー!」

「……かん、ぱ……い」

「チアーズっ!」

「……なぜに、英語?」

 カッキーン、と乾杯というよりホームランでも叩きこんだような音を立て、まるでグラス叩き割るような勢いでぶつけあった。そしてカッ、と一気にマグナムとかいうイカした名前の白ワインを煽った。スカーン、と突き抜けるようなフルーティーさと苦みとアルコールに、昇天しそうになる。

「く、はっ――――――――!」

 ぶわァ、と酒臭い息を噴出し、ぼくの頭には湯気でも出ている気分だった。初めて一気した――気がする、たぶん。なんか最近なんだかんだでお酒飲む機会に恵まれてるから、自身は無い。

「うま――――っ、なァ嘉島?」

「…………」

 無言、ノーリアクションだった、というかこいつなにげに病人だし、無理に酒マズったか? でもまぁ半分くらいイってるし、まーいいか。

 そして手酌でもう一杯注いで、そしてカッ、とさらに一気。

「くっ――――、お酒、うめ――――――――ッ!!」

「…………楽し、そうだ」

「楽し――――ッ!」

 大絶叫、もうなんかアルコール万歳だった。悩みもなにもブっ飛ぶ、そりゃみんな毎晩飲んじまうってなもんだよな。

「あはあはあはアハハハハハハ」

「……元気、なったみたい、だ」

「げん、き……?」

 よくわからん単語に、ぼくは今いち理解が及ばなかった。とりあえず、もう一杯。ぐい、ぐい、と流し込むように飲み干した。今度はくらん、と頭が揺れた。あ、ヤバ、これ以前万知子さんと飲んだ時の感覚と、同じだ。オチる堕ちる。

「……くぁああ」

「すげえ、あくび、だ」

「あ、わり……ンでも、効いたわ、酒……てかオレ、なんで酒、飲んでんだっけ?」

「俺……わかる。世の中、不条理、だよな」

 なんか胸に、響くものがあった。

 ギャグ漫画みたく、どろっ、と涙が溢れた。

「ふ……ぐぅ」

「どうした、之乃?」

 涙がどろどろと、火砕流みたいに止まらなかった。やたらと濃度が高いそれは、自分の心までも溶け出しているように錯覚するぐらいだった。

 喉から絞り出すように、

「世の中……不条理、だよなァ」

 切なかった。さっきまで確かに楽しい気分になってた筈なのに、それもまた不条理だった。なんでぼくがこんなに苦しまなければいけないのかも理由なんて思いつきそうも無かったし、なんで世の中こんなに生き辛いのか、誰か教えて欲しかった。

「う"~……あンだよォ、大学ってアミューズメントパークじゃなかったのかよォ? なんでこんな苦しまなきゃならないんだよォ?」

「……そんな、もんだ、世ん中」

 ぽつり、と合いの手が聞こえた。

 見ると、既に嘉島はグラスを空けていた。それにぼくは、無言でマグナムを注いだ。嘉島は会釈し、それを静かに――だがしれっ、と一気していた。派手に煽るぼくとは大違いな大人の、だがまぁ結局は子供っぽい一気だった。

「なぁ、嘉島ァ」

「……だ、之乃?」

「おまえさ……深雪ちゃんのこと、好きなんだよな?」

「好き、だな」

「っか――――、いいなァ! なに? どっちから? どっちから告ったわけその辺聞かせてくれよ!」


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