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五十九話

 なんだかお見通しみたいで、先輩として少し恥ずかしかった。

「あぁ、うん……まぁおかげさまで、だいぶ」

「それはよかったデス」

 感情が一ミリも入ってないような声で安堵され、そして再度沈黙の食事タイムに戻る。ぼくもそれに倣い、改めて半熟卵入りぺペロンチーノに取りかかった。やっぱりすっかり、主導権を握られていた。

 和気藹藹という食事が無いとは、デート臭さは皆無だなと安心しつつもガックリするという複雑な心境を味わいながら、東京三大ファミレスの本格派なお味を堪能した。

 夢中になって食べていると、不意に声を掛けられた。

「それで、先輩」

「ん? あぁ、うん、なに?」

「再度本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「あ、う……ん?」

 見ると、なぜか彼女は――いわゆる、ジト目だった。なんだ? なんていうか、呆れられてる? なぜ? なんか、やらかしては、いないよな?

「あのさ、深雪ちゃん?」

「では、続きをお願いします」

 さくっ、と続きを促される。それにぼくの質問は、打ち切られる。ホントに主導権握られっぱなしだと、情けなくなる。

 そしてじわじわと、胸が苦しくなる。

「……どこまで、話したっけ?」

「先輩のご両親に対する愛が、ひしひしと伝わってきました」

 その言葉に、ぼくの胸は激しく動揺した。

 ――愛?

「あ……あはは、ハ。面白いこと言うね、深雪ちゃん」

「ユーモアのセンスに関してはそのような身分違いの高評価もやぶさかではありませんが」

 さすがの自信だった、天晴れだった、こういうところを見ていると、いちいちビビって苦しんでる自分が、情けないと思えてくる。

 ぼくは、

「……その時のオレの気持ちは、正直自分でもよく覚えてないんだ。だってもう10年くらい前の話だし……そんな子供の頃に親に愛だなんだなんて、具体的に思ってな――」

「そんなことは無いと思いマス」

 キッパリ、と。

 目が醒めるくらいの勢いで、否定された。

「……そう、なの?」

 ふと、なんかデジャヴだなと思ったりした。

 深雪ちゃんの目は、真っ直ぐだった。

「はい、そんなことは無いと思いマス。両親のことは、好きなひとは好きデスし、やはり合わないひとは好きにはなれないと思いマス」

「……肉親、なのに?」

「肉親でも、デス」

「それは……とても、悲しいね」

「悲しいデスね。でも、それも仕方ありません。親は子を選べまセンし、子もまた親を選ぶことは出来まセン。すべて、自然の摂理の中なのデス」

 自然の、摂理。

 親は子を選べず、子も親を――選べない。

 ぼくは――

「それは、ぼくは……けど、あの――」

「先輩は、ご両親がお亡くなりになられたと、誰からお聞きになったのデスか?」

 なぜ、そんなことを訊くのか?

「そ……れ、は……確か、オバサンから……」

「具体的には、どうお聞きになったんデスか?」

 なぜ?

 そんなことを、訊くのか?

「具体的に、って……それは、オレの、両親が……乗った飛行機が、事故に、って……」

「生存者は、いらっしゃらなかったんデスか?」

「いや……その話は、聞かなかったような……」

「ご両親の御遺骨は、拝見されたんデスか?」

 なに、言ってるんだこの子は?

「いや……たぶん、してない……」

 深雪ちゃんは、唐突に、身を乗り出してきた。

「先輩はその時の飛行機事故を、ニュースか新聞かで確認しましたか?」

 なにを。

 言っているんだ、この子は?

「確認、だなんて……そんなこと、してないよ? というかそのことに関してはあまり思い出すことも――」

「思い出したくないんデスか?」

 ドクっ、ドクっ、と心臓が脈打った。

 手先が再び、痺れ出した。

 ――なんなのか、この感覚は?

「いや……思い出したくないわけじゃ、ないよ」

「では失礼を承知で、あえてツッコませてもらいマス。今から10年前の7月と8月の、二ヶ月間――


 日本での飛行機事故は、一件もありまセン」


 一瞬深雪ちゃんが。

 なにを話しているのか、理解出来なかった。

「…………え? は? いや、えっと……」

「ありまセン。ですから結論として残念ながら、先輩のご両親は飛行機事故では、亡くなられてはおりまセン」

 頭が、まともに働かない。

 深雪ちゃんの言葉が、宇宙語のように感じられる。

 この子はナニを、シャベッテイルンダ?

「そこで問題となるのが、なぜオバさん、おそらくは先輩の従兄のお母様は、飛行機事故で亡くなられたと仰ったかデス。確認デスが、その経緯は確かなんデスよね?」

 目眩が、する。

 頭の芯が、ジンジンと痛む気がする。

「た……ぶん、そうだと、思うけど」

「ではすいません、もう少し先輩の繊細な部分に踏み入らせてもらいマス。先輩はその時、どう感じましたか?」

 そんなこと――

「確か、もう話したと思うけど……なにも、感じられなかったよ?」

 ぐい、と深雪ちゃんは身を乗り出してきた。

「先輩、」

「な、なんだい?」

「イイんデスよ、誤魔化さなくても」

 ――なにがだ?

「深雪も恐かったんデスけど、喜一郎のおかげで、変われたんデス」

 ――だからなんの話をしてるんだ?

「イイんデス、先輩。ここには先輩になにを強要するような人間は、どこにもいないんデス。想いのままに生きたって、イイんデス。さらけ出したって、イイんデス。

 自分の外壁に見えない鎧を纏わなくったって、イイんデス」

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