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五十七話

「……サイゼリヤ?」


 一瞬CMで見た工務店かと思った。

 醒めた目で、深雪ちゃんが振り返る。

「――来たこと無いんですか?」

「あ、うん……え、と有名なお店?」

「ガスト、ロイヤルホストに並ぶ東京三大ファミレスのひとつデス」

「……東京三大」

「なにか文句でも?」

「イイエ」

 黙って首を振った。そういう言い回しが余計田舎者くさいなんて思ってませんし言いませんよハイ。

 そして二人で、並んでファミレスの中に入った。ちょうど夏真っ盛りのこの時期、店内のクーラーがありがたかった。全身が冷却され、魂が再活性される心地だった。

「ふああぁあ……」

「なんですか先輩、若干キモち悪い声あげて?」

「や、いや……涼しいなァ、と思ってさ」

「家ではクーラー効いてないんデスか?」

「いや、オレ一人暮らしだし、金無いから節約しなきゃで……」

「ビンボくさ」

 ぼそっ、と呟かれて、愕然として顔を向けて、普通のリアクションだったからガックシして足を進めるハメになった。経済力ない男なんて、甲斐性ナシ、と断ざれた気分だった。わかっちゃいるさ、わかっちゃいるけど、切ないさー。

「……なに落ち込んでるんデスか? なんかめんどくさい人ですね、好感度ダウンデス」

 滅多打ちだった、もう止めてくれという感じだった、ていうかなんなんだこの子はぼくを慰めに来たのかトドメ刺しに来たのかハッキリしてくれという気分だった。

「そ、それは……申し訳なかったね、ていうか正直帰っていい?」

「ダメデス」

 わけわからん。もうぼくは黙ってうなだれて、あとに続くことにした。すべて任せよう。しょせん甲斐性ナシです、ハイ。

 窓際のソファーに、向かい合わせで座る。ふよん、と座り心地は最高だった。室温は適切だし、もうすべてを忘れてテーブルに突っ伏して眠りこけたい気分になった。最近色々あり過ぎて、ぐっすり眠れてないし。

「先輩、ナニ食べますカ?」

「あ、うん……」

 メニューを突き付けられた。ゆったり浸る暇もない、こりゃ嘉島も尻に敷かれてるなと想像しながらも、メニューに目を通した。

 ビックリした。本格的なそこにはイタリアンが並んでいた。しかも安い――やっすい!

「安っ!!」

「うわ……先輩、でーじテンション上がってマスね」

「いやその実際これすっごい安いって量がわかんないからアレだけどっていうかでーじってなに!?」

「いえ……ていうか、なんでもないデス」

 黙ってしまった。ぼくとしてはこの感動を分かち合いたいのだが、仕方ない。勝手に一人でテンション上げておこう。

「うわーすげーさすが東京ー半端ねー! ――じゃあなににしよう?」

 頼む時はもちろん冷静に、いくら安くても食べきれなかったり必要以上の栄養分は必要ないから、じっくり吟味してからだ。

「……なんか、ついていけまセンネ」

「え? なんか言った?」

「ナンデモアリマセン」

「?」

 よくわからない空気の中、ぼくは一番費用対効果が高そうなぺペロンチーノの半熟卵のせをオーダーした。そして深雪ちゃんはマルゲリータピザをオーダーし、二人ともドリンクバーをつけておいた。

「うっはー楽しみー!」

 ぼくはすっかりテンション上げて、ドリンクバーを注ぎに行った。朝から水分も全く摂っていなかったから、喉もカラカラだった。今日の天気は35℃越えだという、地球温暖化だ異常気象だった。こんな日は炭酸に限るぜ、というわけでこのファミレス限定ぽいすっきりスパークリングオレンジを氷四つ入れて、めいっぱい注いだ。さーてスッキリするぜー!

「先輩って、簡単でいいデスね?」

「え? そうかな?」

 席に戻ると、ジト目頬杖ついてるリトルきゃりぱみゅがいた。失敬、もちろん深雪ちゃんですよツインテとジト目頬杖って相性いいね、ていうかいつの間にかドリンクバー注いできたのね中身は同じくスパークリングオレンジ、なんだか急激に親近感が湧いてきた。

 ソファーにふよん、と座り込む。

「そうデスよ、簡単デス。普通だったら絶対、相手にしないタイプデス」

「うわきっついなー」

 ペタン、と額を平手で打った。なんだか肩の力が、抜ける心地だった。少し胸の内を話し合って、心の扉が開いたのだろうか? だとすれば深雪ちゃんの言うように簡単かもしれない。

「……なんデスか、それ。とりあえずそれより、話の続きなんデスが」

「あ、うん」

 ごくごくごく、とスパークリングオレンジで喉を潤して、スカッとしてから、身を乗り出す。

 なぜかハァ、とため息をつかれた。

 なにか、マズかっただろうか?

「……まー、ぬーやてぃんしむさ。本題に入りマス」

「今のも方言だよね? なんか最近結構方言出してくれること増えたけど、それは結構心開いてくれてるってことかな?」

「本題に入りマスっ」

 スルーされた、ちょっとハシャギ過ぎたようだ、反省することとしよう。まだまだ東京人になりきれないぼくだった。

「――先輩、小学三年生の頃のこと、覚えてますか?」

 真面目な質問に、心臓がとくん、と小さな音を立てた。

「覚えてるよ」

「具体的には?」

「遠足に行ったね。先生が、悟君がいなくなって困ってた。初めてテストで100点取ったよ。嬉しかったな」

「小学四年生のことは?」

「運動会の時アンカーをやらされて、本当参ったよ。尚志ひさしが同じクラスの津田美穂つだ みほに告白して、振られてたよ」

「五年生の時は?」

「初めてのクラス替えで、ぜんぜん友達と出来なくてさびしかったな。まぁでも、それは今も――」

「わかりました」

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