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五十六話

「深雪も、最初うとぅるさ――恐かったん、デス。ひとと、接するのが、繋がるの、が。だって本当に子供の時からイイこと無くて、スーもアンマーも勉強のことしか言わなくて……」

「――――」

 ドクドク、と心臓が脈打っていた。もちろん手を握り合っているのも一因ではあるが、目の前の女の子の本音が叩きつけられるという突然の出来事もそうだし、ついでに言えばスーにアンマにさかのぼればウルトラさんに3Kの実際のところの意味が気にかかるのもそうだった。

 深雪ちゃんは、切実だった。

「……だから大学に入るまで、深雪、友達がいませんでした。でも深雪、天才だから、特に不自由もありませんでした。問題、ありませんでした。でもまぁ本当に時おりですけどでもまぁ満月からちょっぴり月が欠けた夜なんかに、まぁちょっぴり微かに気の迷いデスけどまぁ、誰か話相手でもいたらアレかな~、と思わない時もなかったかもしれないデス、ハイ」

 なんて。

 なんて捻じくれてて、わかり辛くて、異質な世界観を持った子なんだろう。

「そ、そっか」

「ハイ、まぁ気の迷いですけど、でもまぁそんな夜もあるような気もしてました、まぁたぶん気のせいでしょうから気にもしてませんでしたけど。実際、深雪が話すとスゴくみんな嫌そうな顔するんでこっちから願い下げって感じでしたけど。まぁそれで全然問題も無かったんで、だから深雪はこのままずっとこんな感じで生きていくし、生きていけるし、と思ってましたというより、決めてました。

 ……けど、」

 ぼくの手を握る深雪ちゃんの手が、強くなる。

 表面上の感触を越えて、彼女の気持ちが伝わってくる気がした。

「――けど、なんだい?」

 心が滑らかになるのを感じた。

 なんだかぼくの身体にずっとまとわりついていた見えない壁が、溶けていくような――

 本当に、それは壁だったのか?

 まとわりついていたって、それはまるで以前夢で見たような――

「喜一郎に、出逢ったんデス。あの赤い髪の人の、くだらない誘いに乗って」

「…………」

 頭真っ白になって、今までなにを考えていたのか忘れてしまった。赤い髪の人の、くだらない誘い、か。どうも相性はよく無さそうだなとは思ってはいたが、どうもハッキリと嫌われているらしいな。というか、

「その……赤羽は、どうやって堀さんを――」

「その前に、先輩」

 唐突に手を離して、深雪ちゃんは周りを見た。それに訳も分からないまま倣うと――

「あ……あぁ、うん」

「TPOは、守らなくてはいけません」

 だいぶ痛々しい視線が、突き刺さっていた。ぼくはぺこぺこ頭を下げて、深雪ちゃんはキッチリ深く一回頭を下げて、そそくさと勉学の園である図書室から退散していった。

 ちょうど昼休み時間に入っていた。だから続きは食事でもしながら――と一瞬考えたが、それってデートじゃん!? と正直慌てた。一応の友達である嘉島の彼女にちょっかい出すのって無いなー、と考え、悩んで考えて構内をウロウロしていると、

「……先輩、どうしたんですか?」

「い、いや、その……ど、どこで話そうかなと思ってまして」

「は? どこでもいいじゃないデスか? というか深雪お腹空いたんで、別に無理にとはいいまセンが良かったらお昼ご飯奢ってただけたら嬉しかったりするんデスが」

「…………」

 バカバカしくなる心地だった。いやはや本当スゲぇ。もうその一言ですべてが説明できていた。

 もうぼくも、開き直ることにした。

「……じゃあ、学食?」

「ひとが多スギて、ああいう話をするのには向いてないかと思われマス」

「あぁ、うん……じゃあ、カフェテリア行く?」

「というか大学で話したくないデス」

「は? ……じゃあ、その、」

「近くのファミレス行きまセンか?」

 目をパチクリ。

「……歩いて行ける範囲に、あったっけ?」

「深雪、車で来てますんで、出しますよ」

「――マジで? 免許、持ってんの?」

「今年の夏に取りました」

 なるほど、ぼくがバイトとネットサーフィンで無為に夏休みを過ごしている間に、深雪ちゃんも有意義に過ごしているようだった。本当にぼくは二ヶ月もの間、いったいなにをしていたんだろうと時逆に陥りそうになったが、目の前に女の子もいるしと、なんとか踏み止まった。


 そして結局言葉に甘える形で、深雪ちゃんの車で出掛けることになった。女の子、というか人の隣で――

「ていうか堀さん、キミオレの年下じゃなかったっけ?」

 つまりは年齢的には確か――

「深雪6月生まれなんで、年齢的にはもう18歳です」

「そ、そっか」

 どこか釈然としないものを感じながらも、とりあえず納得しておくことにする。そこを追求しても始まらないし。

 キーを差し込み、ガオンとエンジンをかける。赤のスポーツカーとか、深雪ちゃんにぜんっぜん合ってないのは全力で目を瞑ることにした。サイドブレーキを下げ、ギアをガチャガチャして、ハンドルに手を掛け、発進する。

 なんか女の子の、それも自分より年下の子の助手席に座るって情けないって感じがした。偏見もいいところだが。

 そしてサイゼリヤに到着した。

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