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五十四話


 大学に着いたぼくは一時限目をサボタージュして、図書室に向かった。授業をサボったのなんて、赤羽と初めて会った日の三時限以来だった。バスに乗って向かっている間、どうしようかずっと考えていたが、結局そう選択した。少しビクビクしたが、高校の時までのように一律で全員が同じ授業を取っているというわけでもないから、普通にブラブラしている人間は散見出来たから、自分の世界の狭さを思い知るハメになった。

 チン、という音を立て、エレベーターが停止する。ゆっくり開く扉を越えて、図書室に。生徒手帳代わりのIDカードを使い、中に。司書さんであるおそらくは上級学生のメガネ男性に会釈して、先に進む。

 大学の図書館には、初めて来た。入学以来、これといって必要性を感じていなかったからだ。基本的には支給されているノートパソコンでネットサーフィンすることで大概のことは解決できた。ネット社会万歳、IT革命万歳だった。

 しかしネットで調べられることは、あくまで表層的なものだった。それに加えて、今は静かなところでゆっくりと過ごしていたという意思もあった。だから来た。

 言いつつ、ぼくは早速検索する機械を、タッチパネルに触れることで蔵書を確認した。なんでもかんでも機械化、自動化されて、人間の世界の行く末が不安になったりした。感傷的になっているようだった。

 蔵書はあっさり、見つかった。検索時間は僅かに0,3秒、簡単な話だった。なんだか切なささえ、感じてしまうほど。

 夢判断。

「――複雑だねぇ」

 ぼくは123ページを開いた状態で顔の上に乗せ、呻いた。夢判断、という項目ひとつだけで、なんと無数の解釈があるのか。さらには夢、と文字数を二つ減らせば、その解釈たるや天文学的数値になってきて、やめた。広過ぎる。とても把握しきれない。とりあえずそんな中でも、わかったことは三つぐらいだった。

 ひとつ、夢は未だ完全に解明されていない。フロイトが出現してから、150年。すべては未だ憶測の域を出ないというのだから、天気さえ予測できる昨今それは不思議な領域な気がした。

 ひとつ、夢は直接的には表現されない。極論で言うなら夢で一番良いとされているものは、自分を殺す夢だという。それゆえ昔から夢は象徴だとされ、そこから蛇は性の顕れだとか、様々な解釈がなされてきた。つまり一般人には、窺い知れないということ。

 ひとつ、人には共通無意識という分野が存在する。それは表層に顕れている個々の意識というものが、氷山の一角でしかなく、その根底はすべて繋がっているというものだ。荒唐無稽にすら感じられる仮説だが、結構一般的なものらしい。シンクロニシティやパンデミックなどに代表される世界的偶発的一致などの根拠が、それに当たるらしい。

 夢。

 そう、あれはただの夢だ。そんなことはわかっていた。だけど無視出来ない。虫の知らせというやつがある。それに近いものな気がした。

 夢。未だに解明されず。すべては象徴として表現される。それは全人類が繋がっていると言われる、共通無意識から流れ込んでくる――

 だと、するなら。

 あの夢は、彼女のなんらかのソレを、象徴という形で、こちらに流れ込んできたということなのだろうか?

 チャイムの音が、聞こえた。それにぼくはハッとして、顔の上の本を、どけた。どうやら眠っていたようだった。時計を見て、既に昼休みに入っていることを確認する。二コマ分サボってしまったようだ。少し不安になったが、それも慣れだと考え直し、あくびを噛み殺しながら本を元の棚に直した。

 収穫は、あったのか?

 自身に問いかけながら、書棚を抜け、階段を下りる。

「ヨウ、サボり魔」

 下からの声に、ぼくは目をパチクリさせ、そして多分赤羽かと言葉づかいで判断――しかけたが、

「女の、子……」

 の声だったがというか?

「――堀さん?」

「昨日ぶりデス」

 その通りだった。その皮肉な言い回しに、敵意丸出しな視線に、目を引く裏原ファッション今日は全身真っ赤な中世風ゴスロリワンピースに、目も眩みそうな鍔広帽だった。今日も今日とて、とっても素敵な存在感だった。

 辺りを、見回す。

 見当たらない。

「?」

「どうしたんデスか?」

 問いかけに、

「いや……嘉島は、どうしたのかなー、って」

「なんだか先輩、いつも深雪が喜一郎と一緒にいるというかいないと何も出来ないとでも思っていませんか?」

 危うく『違うの?』とほざくところだった。

「いやそんな、まさか……ハハ」

「なんだか気にかかる言い回しなんデスが?」

「そんなそんな気のせいですよ、ハハハ……それで、その、どうしたの?」

 気づかなかったけど、同じ講義を取っていて、それでサボったぼくの糾弾に来たという辺りか? まったく天才さまは、他人にまで完璧を求め――

「心配してるん、デスよ」

 言葉の方が、先に出た。

「な……なに、を……」

「先輩の闇の理由が、深雪にはわかりました」

 次から次へと、なにを言っているんだ?

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