四十七話
「うん愉しい」
美人のそういう屈託ない笑顔は反則だよなと実際思う。許してしまうし、器が小さいのはぼくのような気がしてきて、そして悪くない気までしてしまうという男という性の悲しさ。ぼくはさらにため息を吐き、もう一杯煽った。
それに菅原さんは笑いを堪えながら、
「あーごめんごめん、うん、えーと、キミの場合はまず、そうね。みんなはなんで、聞きたくないと思ったのかしら?」
ぼくのことを訊かれると思っていたから、最初その質問の意味が、わからなかった。
「――みんなが、ですか?」
「そうよー、みんなが、なんでキミを、拒絶したのか、を?」
拒絶。
その言葉に、ぼくの身体の、心の奥に、ナイフを突き立てられたような心地になった。
そうか、ぼくは、拒絶されたのか?
「……きっと、気持ち悪かったんだと思います。オレの、醜い、ドロドロしたぼくの内面を見せられて、きっと――」
「キミが自分を、傷つけるようなことを言っていたのを、止めたかったんじゃないかな?」
まさか、と思った。
「まさか」
と言っていた。
それに菅原さんは、なんで? と首を傾げた。
「なにが疑問なのかな? お姉さんに相談してみなさい?」
「ぼくが? ぼくを? 傷つける、こと――って、どういうことですか? どういう意味なんですか?」
「? まんまの意味よ? 本音を話すのと、自分を責め、蔑むのとは、まったく違うって意味よ?」
身体がガクガクと、揺さぶられているような心地だった。でも実際は揺れているわけではなく、それは心が動揺しているという証左に他ならなかった。
ぼくがぼく自身を、責めているって?
「な、なんでぼくが、そんなことを?」
「そんなこと知らないわよ? だってうちは、之乃くんの過去とかそれをどう捉えているかとか、ぜんぜん知らないんだもの」
もっとも話だった。ひとの価値観を他人に評価してもらうだなんて、そんなバカげた話も無かった。
「でも之乃くんの人となりは、それなりにわかったつもりよ」
「え?」
それはまるで天啓のようだった。
一瞬だが確かに、ぼくにはそう感じられた。
「な、なんで……」
問わずには、いられなかった。
「だって、まだ……三回しか、会ってな――」
「うちは見る目が、あるからねー」
カラカラ笑って、バンバン背中を叩かれた。ぼくは再び、混沌の底に叩き落とされた。身動きが取れないような、逆に自由すぎて戸惑うような、表現方法に、戸惑う。それくらいぼくは、なにがなんだかわからなくなっていた。
「……あなたの目から見て、ぼくはどう映っていますか?」
「カワイイわよ」
なんか前回も同じような評価を受けた気がする。
「必死になって、自分を守りつつも、その殻を破ろうとして、もがいて、でも怖がって、でも頑張って、ぐるぐる回ってる、そう、ハムスターみたい、かーわいー、アハハっ」
ヤヴァい、せっかくいい感じに相談が盛り上がってきたところだっていうのに、頭使わせ過ぎたせいでイー感じでアルコールが脳を巡ったらしい。もう少し聞きたいというのが本音なのだが――
「あの……それで、じゃあその殻を破るのと、自分を傷つけるのって、その違いは……?」
「殻っていえば、なんだかゆで卵が食べたくなってきたわね。うーん、エッグサラダ食べたいわー、ちょっとお兄さーん、おかーいけーい!」
「ソレ違う」
ぼくは平手でツッコミ、そして頭を抱えて、赤羽からデンモクを奪い取り「あ、なんすっとやわい!?」ピピピピ、と曲を"割り込み予約"した。一気に出てきたソレに、深雪ちゃんからマイクを奪い取り「あ、ぬーするんやっさー」、
『炎と森のカーニバル
ミイラ男も踊ってる
今宵僕が招かれたカーニバル』
徹夜した。生まれて初めてのカラオケオールだった。最後はドリンクバーの飲みすぎも相まって、具合悪くなってソファーで寝た。このうえなく、グダグダだった。
どうしようもなかった。
カラオケルームで次に目を覚ました時、午前5時を回っていた。起き上がろうとして、猛烈な頭痛を感じた。ドリンクバーの飲み過ぎ、途中から頼みだしたフードメニューの食べ過ぎ、二日酔い、徹夜の疲れ、歌い過ぎ、心当たり多過ぎで、それに静か過ぎてみんなも眠っていたので、結局ぼくも二度寝することにした。再度目を覚ましたのは赤羽のシャウトによってだった。午前7時過ぎ。学校はどうするかと考えたが、夜はバイトもあるし、とても持ちそうもないのでその場で解散して、家でまったり過ごしてから途中昼寝したりしてから、バイトに向かった。バイトをこなしながらも、今日も輿水さんは来ていなかったのだろうか、と不安になったりした。
そして次の日、大学に向かう途中で、赤羽からメールが入った。今日も昼休みに、学食に集合という話だった。
学校に着いて、中庭を見た。彼女の姿は、やはり無かった。
理事長が来るまで、あと一日。
「さて、みんな集まったや?」




