二十三話
準特急に乗り換え、席に座れず立つハメになり、吊り皮を握って特に会話も視線を交じわせることもせず20分弱をやり過ごしてようやく、新宿に到着した。
ダッシュで、手首を握って駅構内に飛び出した。
というか忘れてた、携帯!
「っ……く……あ、赤羽っ? 着いた、いま新宿着いたけど、いまどこ――あ、東口から? って……ちょっとどっち東口って? え、デパートの? 花屋が? ……うわわかんね……え? いやオレガラケーで……あぁ、悪い、待ってるわ」
といった累計30秒ほどのやり取りを経て、事の収束を図り、一呼吸おく。とそこでハッと気づき、掴んでいた手首を離す。輿水さんはそんなぼくの対応に先ほどよりは落ち着きながら、掴まれていた手首を反対の掌で――払っていた。やっぱり落ち込む、オレ、臭くないよな? なんとかそんな動揺は表に出さないように気をつけ、
「あの……友達が、改札まで迎えに来てくれるみたいだから、その……待っておきましょう」
輿水さんはただ頷き、そしてぼくたちは改札内で赤羽が来るのを待った。どの改札から出るのかも難しい問題だし、所詮地方から出てきて2ヶ月で、ろくに都心に出てきていなかったのもデカかった。致し方ない。
そして15分、ただふたり並んでボーっと突っ立って、時間が流れるのを待った。苦痛はなぜか幾分、和らいでいた。慣れたせいだろうか。
携帯を弄っていると、ぼくの名を呼ぶ声が聞こえた。
それにふと顔を上げるが――いまのは女のひとの、声だったような?
「おいでやす~」
すっげー綺麗な京美人が、そこにはいた。
どゆこと?
「え……エーぇエエえっ、と?」
訳がわからずぼくは、プチぱにっくに陥っていた。携帯弄って妹と連絡取ってる場合じゃなかった、っても返ってきたのはいつものように東京超スゴイよねーハンパないよねーもう最ッ高ーという東京讃美歌のオンパレードという同意も否定もしかねる内容で、でもまぁいつも一方的にまくし立ててくるから、それを読んでる間は暇も退屈もまぎれていいよねっ、てそれこそ今はそれどこではなかったが。
女性は、すらりとしたスタイルと漆黒の長髪という、まるでどこぞのモデルともいえる雰囲気を醸し出していた。装いは、洗練された黒のジャケットと白のタイトパンツにハイヒール。だけどそこから感じられるのは和の様相だった、もしかしたら着物を着てもしっくりくるかもしれない。
――なんの用スか?
身体がガチっ、と固まるのを感じた。例えるなら新たなる使徒の登場に、ATフィールド全開って感じオレどんだけエヴァ好きなんだって話。勧誘か、営業か、スカウトなわけないからカットモデルもオレそんなイケメンでもないしあーわかんねーなんなんだなんなんだハイエナじゃあるまいしなにもこんな地方から出てきてひとり暮らしで自分で生活費稼いでる苦学生の財布の中まで狙わなくても――
「うち、冬馬ちゃんのお友達の万知子っていいうんだけど、きみ、之乃くん?」
一瞬冬馬って誰かわからなかったがすぐに赤羽の名前の方だと理解し、そしてぼくも名前の方を呼ばれたことに動揺してしまう、さすが都会だ進んでんな。
ってことは、
「あ、はい……ってことは、その」
「とりあえず、改札でてきなよ。これじゃ話しにくいし」
もっともな話だった。事実としてぼくは女性と、改札のこちらと向こうを、低いバリケード越しに話していたのだ。いくらテンパっていたといっても、これは酷い。慌ててぼくは改札を抜け――ようとしてはた、と立ち止まり、振り返った。
「その……だいじょうぶ?」
なにがかは自分でも具体的には浮かばなかったが、気づけばそう声をかけていた。それにモデル系和風美人とは真逆といっていい例えるならファンタジー系お姫様美少女の彼女――輿水さんは俯き、ただ黙ってついてきた。そこにぼくはなんの意思も読み取ることは、出来なかった。
「それで、あの、赤羽の?」
「そうそう、村さ来でもう飲み放題始めてるから、急いできなよ」
サバサバした、そのひとは女性だった。ぼくが今まで知り合ってきたどのタイプとも被らない。だからぼくはとりあえず、お得意の笑みを浮かべることにした。
堂々と胸を張って先導するその女性に、ぼくは小走りで続くことにした。チラリと振り返り確認すると、輿水さんもおずおずとついてきていた……本当にこんな調子で、合コンなんてだいじょうぶなのだろうか?
「きみ、東京組?」
いきなり話を振られ、正直最初頭が回らなかった。
「いえ、地方です」
「へー、うちもよ。うちは京都ね、京美人でしょ? 綺麗、どすえ~?」
「はい、綺麗どすえですね~」
「なにそれ? 面白っ、あはは」
「いやいや、ハハハ」
なんか。




