二十一話
うわちゃそうかみんなでという所すっ飛ばして説明してたかだけどそんな時間もう欠片もねー。
「っ、く、ぅ!?」
2秒ちょいくらい体感で悩み、迷って、葛藤して、即断した。
というかある意味英断にそれは、近かった。
「ご、ごめん!」
がしっ、と輿水さんの手首を、掴んだ。
当然彼女は――半狂乱。
「ふぇ!? ひっ、あ、なにして――」
「ごめん輿水さん、ホントごめんなさいっ!」
何度も平謝りして、ぼくは駆け出した。もちろん色々考慮して、服の上から掴んではおいた。それでも喚き声をあげるほど嫌がられるのは、ぼくが生まれてから今まで積み重ねてきた色んなソレが崩れ落ちそうでたまらなかったが、仕方なかった。
せっかく初めて出来た九州の友達がセッティングしてくれたそれに、遅れるわけにはいかなかった人として、絶対!
「あ、あの、その、えぇと……」
「ごめんごめんごめんっごめんッ!」
ひたすらひたすら謝り倒しながら、ぼくは走った。輿水さんの手首を服の上から掴んで、出来るだけ気を遣いながら、引っ張る感じにならないように――まぁ結局は引っ張っているんだが。
「ごめん、ハァ、ごめん、ハァ、ごめん、ハァ、ハァ、ごめんごめんハァハァハァハァ……っ!」
息が切れて、頭真っ白になってきて、なにも考えられなくなってきた。それでも走った。走りながら、ひたすら謝った。暗い夜の歩道を通り、立橋を駆け上がり、駆け降りて、公園を抜けて、ショートカットして、茂みから飛び出して、目の前にいきなり現れる黒い影――
「うンわっ!?」
車ッ!
「なーお」
――と思ったら、猫だった。黒いの。それに胸を、撫で下ろす。その事態にコレ幸いと、両手を膝に着け、肩で息をする。ぜーぜー。汗が滝のように流れていた。赤のウィンドブレーカーがまるで豪雨のあとのレインコートになっていた。ちっくしょー危なかった、ムチャクチャするもんじゃないな、飛び出しちゃダメだし左右の確認は必須だよな、いまは一人じゃ――
ハッとして、後ろを振り返る。
「? ??」
怯えたように辺りを見回す輿水さんが、そこにはいた。戸惑っていた、当然だった。いきなり手首を掴まれ、どこぞに連れていかれようとしているのだ。拉致もいいところだった。我ながら最低だった。しかし息ひとつ乱していないし汗もそれほどかいてないのが気にかかるところだった、運動出来るのか?
説明しようか、同意を求めようか、一瞬迷った――が。
ちらりと目に入った公園の足長時計が、その思考を完全にシャットアウトした。
7時、15分。
「う、うわあああああああああああ!!」
「え? ――ひゃ」
悲鳴も出させない勢いで手首をひったくり、ダッシュ再開だった。完全に時間、押してる。歩いて15分って、完全に大学を出てしばらくして時計を見てもう着くな? って思ったくらいに計り始めた所要時間だったのか? あと走ってるって言っても女の子引っ張ってるっていうのはデカいってことか? 色々考えは巡ったが、実際考えてる暇なんてなかった。
今考えれば女の子の手首掴んで走ってるなんていう青春丸出しなことしてる実感も、なかったように思う。
駅に着いたのは、7時22分だった。慌ててSUICAで改札通ろうとしたが、輿水さんの分の切符がなかったので慌てて買って、渡して、通して、次の電車が急行で7時24分なのを確認して、胸を撫で下ろした。最悪だったけど、その中でも最高のタイミングだった。手遅れではあったのだけれど。
電車が来るのをじれったい気持ちで待って、来て、駆け込むようにしてもちろんそれで早く着けるわけではないのだけれど乗り込み、席につき、そこでようやく二回目のひと心地を、着いた。
ため息が、漏れる。
「ハァ――――、あっ」
「……あの、」
忘れてた。
「あっ! いや、あのっ、その……っ」
慌てて手首を、離す。そして膝の上に、手を置く。肩が張る。なんか、恥ずかしい。というか申し訳ない。ようやくそう本当にようやく一緒にご飯食べてくれてもいいといってももらえたのに、こんな事になって――というか元々合コンだとか不純な動機で誘おうとするからこういうことになったのか? 自業自得もいいところだったが、もうというかまた、嫌われてしまったのだろうか? ここまで連れてきてしまったあとだが、もう一緒にご飯も無理だろうか?
ネガティブがネガティブを呼び、なんだかもはや面倒になってきていた。どうせぼくに合コンなんて無理だし、女の子のアテを頼むなんてもっての外。時間も遅刻なんて、これからの生き方に支障が――
携帯が、震えた。講義兼電車内対策の、バイブ設定だ。慌てて出る。




