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二十話

 彼女はぼくのその行動に面喰らい、顔をあげていた。必然真っ直ぐそちらを見ていたぼくの視線と、ぶつかる形になる。

「ぼくはここにいる」

 不思議ちゃんだというのなら、ぼくは痛いキャラで攻めてやろうじゃないか。どうせモノローグぼくの、自意識過剰人間だ。ひとの気持ちがわからないだなんて言ってるのは地上の十四才以外ではぼくぐらいのものだろう。

 ぼくは手を、差し出した。

「向き合って、くれないか?」

 相当な覚悟と恥ずかしさの中、ぼくは言った。たぶん人生で上位トップ3に入るくらいの想いを込めた、それは言葉だった。もう心臓はバックンバックンで、えらいことになっていた。

 それに対する、彼女の反応は――

「? は、はぁ?」

 疑問符だった。肩透かし、ぼく完璧なピエロ。穴があったら入りたいあぁもうここ穴だ。

 ここまできて、引き下がれなかった。

 ぼくは差し出した手が震えだすのを必死に抑えて、

「……握手、してくれないか?」

「いや、ですけど?」

 頬が引き攣る。完全拒否、それも当然のように。オレ、臭くないよな? とか本気で心配になった。まぁ普通そうか、うん、ぼくちょっと勘違いしちゃったな。慌てて汗までかきだした手を引っ込め、

「じゃ、じゃあ……その、ぼくは輿水さんのことを、その……知りたいので、一緒にお酒を飲んでくれませんか?」

 もう本当自分に酔わないでカッコつけないで絞り出したストレートな申し出に、

「彼が、いるので……」

 さくっと、フラれました。

「――マジ?」

 本当にびっくりした時、ひとはこんなことくらいしか言えないのを知った。男の影は、無いと思っていた。なのに、まさかの――いや、でも、え?

 そんなぼくの動揺などどこ吹く風で、彼女はあくまで淡々とした様子だった。

「はい」

「ど、どんな奴なんです?」

 動揺モロだな、奴とか。

「すごく素敵で、尊敬できる人ですよー」

「ど、どこにいるんです?」

「地球の、裏側に」

「…………」

 結局、そっちに繋がるわけか。ぼくは、打ちのめされたボクサーの気分を味わっていた。なにをどうやっても、彼女の領域――世界には、踏み込めない。どれくらい本音を語っているかも、わかったものじゃない。彼だって言うのも、体よく断られる為のでっち上げだという可能性が高い。

 なんだか、なにもかもがバカバカしくなっていた。所詮他人、所詮宇宙人。理解できない相手に、なにを期待していたのか。勘違いここに極まれり、自分で言ってたまさにピエロだな、オレ。

 ぼくは、背を向けた。穴、か。既成概念で何かを探してかどこにか行く為だとか考えていたが、実際なにかを埋める為のようにも思えるな。それこそどうしようもない、自分自身を。空虚な空想だった。さて、外に――

 つんつん、とナニカが背中に触れていた。

「?」

 振り返る。

 なぜか彼女が――シャベルの先で、こちらを突ついていた。

 ――どういうつもりだ?

 興味というより正直そういうフザけた行為に、怒りが、キタ。

「……なんですか?」

 もうすっかり元の木阿弥だった。こちらから歩み寄りは、もうしない。勝手に穴でも掘りまくって、マントルを越え、マグマを越え、核をブチ破ってブラジルにでもイギリスにでも出ればいいだろう。

 ぼくは、態度を硬化――ATフィールドを、再度張り直していた。今のぼくは、一種の無敵状態にある。なにが来ようと、揺るがない。

「…………」

「――――」

 まさかなにも来ないとは思ってもみなかった。ATフィールドの無駄遣いもいいところだった。ぼくはガックリと再度肩を落として、

「……オレのこと、嫌い? ですか?」

「どちらでも、ないです」

「だったらこのシャベルは、なんなんです?」

「その……わたしが、みえるんですよね?」

「あぁ、見えますが? それがなにか?」

「その……」

 一拍の間をおき、

「お酒、飲めないんで……御飯だけなら、なんとか」

 そういう問題だったのかよと本日3回目の脱力感に襲われつつ、ハッと気づいてG-SHOCKを確認して、青ざめるハメになった。


 ウダウダ言っておきながら、オッケーだった時のシミュレーションはなにもしてなかった。だけどとにかく、急いでもらわないと話にならなかった。集合時間まで、あと40分。大学から最寄り駅までバスで7分歩いて15分、走ったことは無いからわからない。それから小田急線に乗り換えて、調布で特急に乗り換え最速連結で、20分。

 ど――――――――考えても、遅刻コースだった。こんなことならもっと早くに話しかければよかったんだけど、そうも言ってられないのがぼくという人間の器の小ささだった。

 とにかく、走らないと。

「あ、あのっ!」

 ぼくは正直自分でも鬼気迫る様子で、彼女――輿水さんに迫った。それに彼女は「ひっ!」と怯えるが、こっちゃ構ってる余裕なんてなかっちゃあやべ赤羽のが移った。

 ぼくは必死にはやる気持ちを抑えつつ、

「そ、その……ま、待ち合わせ場所が新宿で、その、時間が7時半なんで……時間が、ないんで、その……走って、くれませんかっ?」

「? ま、待ち合わせって、なんのことですか?」

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