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十八話

 退散すべきか否か体感で3,4分くらいは悩んで、でも結局その日は退散することにした。それはぼくがどうこうというより、彼女の問題だった。カタカタ震えていて、とてもこれ以上のコンタクトは難しいようだった。これで様々な疑問の大部分が解消されたような気がした。まぁ一番肝心な穴掘ってる理由だとか誰に会いたいかだとか、その辺は未解決のままだが。

 これでますます、どうしようか悩みどころになった。彼女はもう、放っておけない。自分を透明人間だなんて思ってるだなんて、普通のイジメ――おそらくは虐待のされ方ではない。それでも大学に来て、そして地球の裏側に行こうと穴を掘っている。人とのコミュニケーション問題に関しては、ぼくの遥か上をいっており、もはや壊滅的と言ってもいい。いやダメなのに上だという言い方は確かにおかしいが。

 それと合コンの問題もあった。正直ぼくは、誘いたいと思っている。合コン――女の子と知り合いたい、と思っているわけでもない。それよりもそういう諸々の――九州男児の赤羽に、まだ一言も口を聞いていない嘉島くん、それに彼女――輿水さんのこともそうだが、ぼくの常識という壁――そうか。

 ATフィールドなんかじゃ、ない。

 ただ、ぼくが、自分で、勝手に、理解出来ないと。不利益と押し付けしかもたらさないと。そう決めつけていた既成概念をすべて、破ってくれるかもしれない可能性。

 それに、賭けてみたいと思った。

 他人ひとを理解して、そして愛を理解出来たら、そしたら――両親のことも、思い出せるかもしれない。まぁ実際の所思い出せてどうというわけもないけれど、でも自発的な欲求は初めてのことだから、大事にしてもみたいと思ったりもしたし。

 そういう理屈を越えて彼女は、やっぱり放っておけないと思ったし。

「っていうか理屈っぽいな、ぼくは」

 講義を終えて、ひとりごちた。四限目終了、これでひと仕事終えたってところだった。今のところ大学の科目は履修制で選択の余地があるとはいえ、一年のうちはみんな手探りだからほぼ4限全部入れてるひとが多い。不安だし。そのうち慣れれば加減もわかってくるのだろうけど、これだと高校までと感覚的にあまり変わらないようだが、強制力がないところはとても大きいと思う。参加型の授業も少ないし。半分くらい傍観者のような。

 気楽だった。

 だから気を抜くと、ついぼーっとしてしまっていた。

「うぇーい、上月ー」

 机に、突っ伏した。

 一瞬なにが起こったのか、わからなかった。名を呼ばれ、同時に背中に衝撃、間髪いれず鼻っ柱に痛み――ああ、そういうこと。

 中学までは殻に籠もっていて、というよりみんなから距離を置かれていたから、こういう経験は初めてのことだった。

 鼻を抑えながら、顔をあげる。

「っ、てて……な、なんだよ赤羽? ず、ずいぶんな挨拶だな?」

 皮肉たっぷりに言ったつもりだったが、赤羽はニカッと爽快な笑顔だった。

「日取り、決まったばーい」

 なにが? なんて野暮なことは聞くまでも無い。昨日の今日どころか今朝の夕方で、凄まじい行動力だと思う。こういうタイプは本当にぼくの周りにはいなかったから、刺激にはなって本当にイイとは思う。物理攻撃は止めて欲しい所ではあるが。

「そっか、いつ?」

「今夜」

「は?」

 冗談だとしか、思えなかった。それ以上一切、言葉が浮かばないほどに。

「そいで上月は女子の方のアテ、ついた?」

 会話がこれ以上ないほど自然に、進んでいた。ていうか今夜って本気かよ、なんの準備もしてねーよ、服もムチャクチャ普段着で、髪も相当ボサボサなんだが、こんなんで行かせる気かよ? せめて連絡の一本も――そういえばケー番もメアドも知らなかった。ある種自業自得ともいえるか、まぁ今さらぼくが合コンのひとつやふたつでなにかあるとも思えないが。

 そして質問が、もはやぼくにとっては詰問だった。

「……あー」

 変な声しかあげられてないっていうのに、

「こっちは可愛か子二人も見繕っとるけん、上月もひとりくらい頼むばい。やっぱ合コンやっけん男子3に女子3は基本やろ、44とかやと賑やかやげど、55以上やと多過ぎて親密さが薄かし、22は寂しかっていうかダブルデートぽかしな。かといってどっちか少なかと微妙な空気で女子が帰るとかいいかねんし、な! 上月!!」

「お、お~……?」

 口挟む暇、ないっての。

「お? じゃあ大丈夫っぽいな? じゃあ期待しとるけん、夜7時半に新宿アルタ前集合な。アルタ前ってわかる? ちょっと前までタモリの『笑っていいとも』やっとったとこやっけん、大丈夫ばいな? まーいまスマホでなんでも調べられるし、おいスマホじゃなかけどな、ハハ! じゃあ準備とか色々あるけん、おいもう行くばい。あとでな、上月ー!」

「え、えぇ~……?」


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