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十四話

 大学に着いた。そして正面玄関から入って左に曲がり、真っ直ぐ階段を目指す。左目は、瞑るようにした。もう、関係ない。不思議ちゃんならもう充分、というか無理、付き合い切れない。そもそも今まで関わり合いがあったのがそれこそ不思議だったんだ。自分に言い聞かせ、ぼくはやや早足で階段へと足を掛――

「うっす、上月ーっ!」

「――――」

 びっくりした。なににびっくりしたかって、声を掛けられたという珍事に対してもそうだが、その声の大きさにだった。周りこっち見てるって。

 ギコチなく、振り返る。

 昨日知り合ったばかりの、赤髪口ピアスのチャラ男――じゃなかった九州男児の赤羽がブンブン手を振りながら、なぜか隣にやたらと細っこくて肩まで垂れる黒髪メガネくんを連れて、こちらに向かっていた。

 ぼくは苦笑いを浮かべ、

「や、やあ赤羽……」

周囲の注目も、どこ吹く風のようだった。

「どしたん? なんか元気、なくなか?」

「むしろ朝から元気だな、赤羽……それが九州流?」

「――九州バカにしとっと?」

「滅相も無い」

 ぶんぶんぶん、と高速で首を振った。赤羽もコレでなにげに怖いところもあるやつだと理解し始めたところ、特に九州人は怒ると激しいという先入観もあるし、そんなつもりは毛頭ない。

 すると赤羽は真面目な顔から――ニカッ、と満面の笑みを見せ、

「いや、冗談冗談。でもさ、おい、このナマりで結構田舎もんってバカにされること多かけんさ。そういうのって関係なかやっかって思うけん……あ、わりぃわりぃ、愚痴っぽくなった。かんべんな」

「いや……」

 やっぱり結構捉え所がない。ぼくは少し、気を引き締めることにした。油断禁物、親しき仲にも礼儀あり。

 そして――

「ああ、こいつ?」

 ぼくの視線に気づいたのか、赤羽は隣にいる根暗っぽい男の背中を軽く叩き――男はそれでよろめいていたが、

「さっき、知り合いになったっさね。見た目もコレやし、どうせ友達おらんやろうからちょうどいいと思って、連れてきた。名前は嘉島喜一郎かしま きいちろうっていうらしかとけど」

それで男――嘉島は、なにかしら自己紹介的なものをすると思っていた。

しかし嘉島はただ、促されるままに薄ら笑いを浮かべた、だけだった。

 少し、ヒいた。

「へ、へぇ……あ、オレは上月之乃って、いいます……」

 それに会釈だけ返ってくる。どうやら見た目通り、相当なコミュ障らしい。今まで見たことも無いような人種、さすがは東京、さすがは大学パート2って感じだった。

 ぼくは愛想笑いというか苦笑いもほどほどに赤羽へ、

「そ、それで? 今日はどうした?」

「ん? 単なる挨拶――」

 そ、そうか。

「兼、顔見せやけど?」

 なんの?

「……って、合コン?」

「そうそう。とりあえず男はこれでよかっちゃけど、あとは肝心の女子やけどなー」

 ハハハハ、と笑う赤羽が、ぼくには宇宙人に見えた。なるほど、宇宙人だから宇宙人を引き付けたのか。なんだかぼくは、納得する心地だった。

「……けど、女子のアテって、あんのか?」

「んー、まー、なんとかなるっちゃなかかな? その為にいま、出会い系バイトでバイトしとるし」

「で、出会い系?」

 い、いかがわしいアポインターとか――

「おう、マックはまかないが出らんけん痛かけど、背に腹は変えられんけんな」

 なるほど、そっちか。安心した。でも合コンかぁ、ぼくそういうのの経験ないから、そっちの方が不安――

「だけんもう一人はおいがなんとかすっけんさ、上月もひとり、頼むばい」

「――――は?」

 寝耳に水、ってやつだった。

 ぼくは慌てて首を振って、

「い、いやいや無理だって! オレ、女の子のアテとかぜんっぜんないし、そういうのまったく経験ないし……」

「よかって。おいも合コンの経験とかなかし、お互い田舎もん同士助け合っていこうぜ!」

 嘉島の時と同じようにポンポンと肩を叩かれる。それにぼくは複雑な想いを隠しきれなかった。さっき地方差別は嫌だみたいなこと言ってなかったか?

 にしたって――

「でも、オレ、ホント女の子のアテとか……」

 と話しているタイミングで、チャイムが鳴った。腕にはめたG-SHOCKを見ると――うわ。

「ヤバッ、9時になったばい! んじゃおい授業行くけん、この話はまたあとでな!」

「あ、ちょっ……!」

 と止める間もなく、赤羽はダッシュでその場を去っていった。そのあとをもう一度会釈だけして、そそくさと嘉島もあとに続いていった。あっという間にぼくだけその場に残されてしまう。

 大学なんだから、15分くらいは余裕持っていってもいいよ……。

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