十一話
最初に浮かんだのが、その言葉だった。相手にするか、聞こえなかった振りをして流すか。せいぜい二択か、なんて迷っていると、なぜか赤く染められたボサボサ髪で、口にピアスまでつけている一見猛烈なチャラ男は親しげに、
「で、どう? おいの、友達になってくれん?」
ぴくん、と眉が動く。
――おい? それって、もしや?
「え、と……友達、ですか?」
「おう。それがさ、おいさ、九州から出てきたっちゃけど、なかなか友達出来んでさ、寂しかなーって思っとったとけど、なんかみんな最初っからグループば出来とっけんさ、話しかけづらかなーとか思って困っとったとけど、自分、なんかひとりでおるけんさ、チャンスじゃなか? って思ってさ、勇気ば出したっさね」
「へぇ」
申し訳ないがそれは話の相槌以上に、言葉遣いに対する感心が含まれたものだった。興味深い。もしかしてとは思ったが、本当にそうか。
九州から、で方言か。
なるほど、ここまで丸出しでは、気にする人はいるかも――いやそれは古い考えか? 実際自分はむしろ惹きつけられているし、ただどうしても興味深いというか、関心は抱かずにはいられないが。
にしても友達、か。
「それで呼び方もアレやっけん、名前とか教えてくれん?」
「ああ、うん、そう……だね。オレの名前は、上月之乃――」
「之乃!?」
あ、そういえばと自己紹介してる途中に気づいたが、それも終わってしまえばあとの祭りだった。
さて恒例の、憂鬱な時間の始まりだった。
「之乃……って男なのに珍しかな。まぁおいはそんなの気にせんけど」
「え、そうなの?」
意外な切り口、間違いなく笑いものか珍しがられるか質問責めかの三択だと思っていたのだが。
「関係なかろ? だいたい他人が親のくれた名前に文句つけるとって、おいはおかしかと思うばい」
――新鮮な、意見だった。
ていうか熱いな、と正直思った。さすがは九州男児というか、自分にはない要素だった。
少しだが、興味が湧いた。
「そ、っか。そうだな、確かに。それであの、そっちの名前は?」
「あぁ、おいの名前は赤羽冬馬。よろしくな、上月」
ニカッと笑う。そこで肩を叩いたり握手したりしてこないのが、テンプレの九州男児な感じじゃなくて、より興味を引いた。初対面からこれだけそう思える相手は、久しぶりだった。まとめて知り合いが増えて、かつ競うようにグループ分けがなされる高校との違いかもしれなかった。相手がハブられているというのも一因かもしれなかった、わからないが。
しかし、友達か。
「そいでさ、上月っ」
「あ、うん。な、なんですか?」
「なんで敬語ば使いよっと? タメでよかけん!」
「あ、う……じゃない、あぁ」
でもやっぱ、熱いは熱いかも。
「そいでさ、おいに東京案内してくれん?」
そう、キタか。
「いや……オレもあんまし、東京って知らないんだけど?」
「なんで!?」
「いやなんでって言われても……オレも東京に出てきて、まだ2ヶ月だし」
「ぅえ!? 上月、東京出身じゃなかったと?」
「あぁ……違うね」
「そいでなんでそんな標準語うまかと!?」
「まぁ、そんなナマってるとこじゃなかったし……」
「すごかな!」
「あ、あぁ……」
ああ、やっぱスッゲー熱いかも。
カルチャーギャップってものを、初めて感じていた。それに友達なんてまともに出来たことがなかったから、戸惑いの連続だった。
というわけでお近づきのしるしとして――ちょうど昼休み挟んでの3限まで時間があったから、近場のゲーセンに行ってみることにした。というわけで駅前までわざわざ戻り、あれよあれよカーレースにガンシューティング、格ゲーと付き合わされ、気づけば3時間も経過していた。ちなみにほぼ全敗で、カーレースで2回勝つのが精いっぱいだった。時間が一瞬に感じたし、2千円をこんなに短時間で使ったのも初めてだった。
「っはっはっは、わいゲーム弱かなー、ぜんぜんやったことなかっちゃなか?」
「ハハハ……ま、そ、そだね」
実際ゲーセン経験は、ほとんど無いに等しかった。というか無趣味であるという自覚はあった。親が死んで従妹の家に預けられてからは、ずっと家に籠もって勉強ばかりしていた。居候させてもらって申し訳なくて、だから遊ぼうだなんて余裕のある気持ちは吹っ飛んでいた。あれだけ夏休みとかに従妹の家に行った時は、毎日毎日何時間でも遊んでいたっていうのに。