三題噺ワンライ2015、2、16
行き詰まること…きっとあると思います。
人生において命の危機に立たされるほどの行き詰まり。
暗い部屋の中私は頭を抱えていた。
詰んだ…
もう言葉すら出ない。
元から話す人間などいないのだが、今や独り言すらでない程の絶望、
暗い部屋の中で一人頭を抱える。
思い立って扉に手をかける・・・が扉は開かない、
いや開けられないのだ。
手にかけたそれは内鍵で自分のような細い、かよわい手でも開けることは安い、
しかしそれを不可能にしたのはおそらく外にいる人間のせいだろう。
踵を返す。
暗い部屋へのとんぼ返り、いやその速さはとんぼを食べるカメレオンの舌、
そうカメレオンの舌帰りなんてどうだろうか!
…うけるはずがないよな、もれなくそれをネタに使おうものならそれだけで小型の兵器になりそうな、そのくらいにうけない寒いネタ。
今の私にはそのくらいしか思い浮かばない。
部屋にある冷蔵庫からお気に入りのジュースを取り出す。
兎角この部屋は私を殺そうとはしない、その部屋に引きこもっているのに私が死にかけている理由、それは環境であった。
時間・・・主に時間が足りない!
光陰矢の如しというが光の速さで首を絞めてくれるのなら痛まずに死ぬのだろう。
しかし私の中の時間は真綿で首を締めるようにゆっくりとすすむ、
あぁ…こんな仕事受けるんじゃなかった、いつも道理の仕事をしていれば。
あの時見栄を張らなければ。
もはや過去になってしまったあの選択肢に戻りたい。
もしくはこの選択を選んでしまった自分の首を今の私が絞めてやりたい、真綿でぐいっと一発。
後悔の時間は終わった、自分はポジティブシンキングが得意なのだ。
洋服掛けから帽子をとる、私は物事を形から入る人間だ。
そしてふと
(室内で帽子を着けてると禿げるよ!こう…ツルーンって感じに)
というちょっとお嬢様育ちのくせに頭の悪い友達の言葉を思い出して、そっとそれを元の場所に戻した。
戻して…ハッとした
今まで自分が何もしてないことに気付いてしまったのだ。
状況は悪化する一方。
このことに気付いてしまった時点で発狂寸前である。
しかしこんな時こそ落ち着いて状況整理の時間だ。
机の上、あるのは電源のついたPC。
画面の中には文字を入力するためのソフト、テキストナンチャラとか言ってたっけ。
そしてそこに打ち込まれている小説半分くらいの文字。
少し認識する範囲を広げてみる。
暗い部屋、ワンルームに大体のものはそろっているが風呂とトイレは別だ。
冷蔵庫の中には大量のジュースと軽食。
そう、詰まる所...完全に缶詰である。
いやぁ“詰まる”所と中身の“詰まった”缶詰をかけるとは、私もなかなかできる!
まぁ肝心の小説にはまだ半分も“詰まって”ないけど。
閑話休題、状況確認再開であります。
あぁ…きっと私は軍服を着ても似合うのだろう。
戻りかけた途端話がずれた。
ここまでくればもう大半の人間は私が何をしているのか解るだろう。
今目の前にある忌々しい小説…じゃなくて愛しの我が子は恋愛小説しか書かない私が、編集の人に馬鹿にされ、見栄を張って受けてしまった仕事。
(君は論理的に書くことは無理だろうな~HAHAHA)
と笑う外国人のような腹をした、外国風の笑い方をする編集者にちょっと、いや少々苛立ってしまったのである。
結果は悲惨、主人公は今もまだなぞを解けず、ましてやそれを書いた自分ですら謎が解けない。
…いやちゃんと謎が解けるようにはなっていたはず。
よくよくありがちな密室殺人…は無理だったので普通の殺人
明りの消えた部屋で主人公は茫然としてる。
時間は深夜2時、
いや電気つけろよ、そう思い電気をつけることを書き足す。
死因は後頭部を鈍器で殴られ、脳にダメージを負い死亡。
凶器は見当たらないことから犯人が持ち去ったと思われる。
…いやそしたらダメだ、犯人見つからないじゃん。
配置を設定しなおす、とりあえず主人公から見て右の部屋につながるドア付近
主人公凶器に気付く。
『凶器は…このハンマーですね!』
当たりまえだ、血がついているのに凶器じゃなかったらそれはそれで怖い。
次犯人捜しのシーン。
主人公がこの鈍器は…と言いかけたその時、出てきてしまった。
そう、登場人物に入れていた、役立たずの鑑識さん。
あ~あ~出しゃばってきて、あ、この人指紋採取セットとか持ってる。
あ、駄目だ犯人ばれた。
主人公の出番ない…
と心のなかで“あーあー”言ってるうちに事件が解決してしまった。
時計を見る。そのあとカレンダーを見る。
〆日は今日、今日の正午…
もういっそのこと振り切ってしまおう。
これを提出して、謝ればきっとなんとかなる。
元より、恋愛小説の方は売れに売れっ子だ、多少の無理は通るだろう。
玄関前にいるいつもの取り立て屋に訳を話す。
“まぁそうだよなぁ~”という顔をされたのがすごい悔しかったがしょうがない。
暗かった部屋に明かりがつく。
…数日後
最近肌の色まで外国人風になりやがった編集者の呼び出しをくらい、仕事場に行く。
にこやかなのが異様にむかつく。
異様にむかつく姿から放たれたのは、異様な結果だった、聞いて胃が溶解するかと思ったくらいである。
「あれをそのまま世に出すですって!?」
推理小説としてはマイナス振り切った、いわば放射物並の危険物をこの世に出す。
ありえないものを聞いた気がする。
編集者のにこやかな笑顔しかそこから記憶にない。
あぁ…私の人生終わったなとさえ思った。
そしてそこから数か月、生きているのかどうかわからない日々が続く。
そして時がたち同じ場所へ。
もはや外国人風から、謎の風貌に変化した編集者、もう誰も突っ込まないが全身真っ黒で影のようになっているのはいろいろとどうかと思う。
その編集者から首の宣言でもされるのかと思ったのだが、事実はその真逆だった。
「君のあの小説大うけだよ!」
何ともあの作品、ギャグ小説として出したらしい。
キャッチフレーズは…
(見栄を張った恋愛小説家が書いた、喉を搔きたくなるほどの面白さ!)
…暫くは何も張らず書かずとも生きて暮らせそうだが、人生において何か
“欠いて”しまったことは他でもない。