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婚活魔王は報われない  作者: i-mixs
第一部 婚活を始めよう
14/34

それぞれの時間

クローディアと魔王の部屋


 昼食を取った後、ベッドの周辺でごそごそと捜し物をするクローディアの姿があった。


「変だな、この辺りに置いたはずだったのだが」

 むーと、クローディアが腕を組み考えていると、ドアが開き軽装の魔王が両手で籠を抱えて戻ってきた。


「どうしたクローディア、捜し物か?」

「い、いや、そんな、たいしたものじゃないのだが、、、ん?」

 クローディアは、魔王が抱えている籠の中から僅かに覗く物をみて、口をパクパクさせながら指を指した。


「まっ、魔王。そっ、それは何だ?!」

「ん、朝の内に洗濯していた物が乾いたのでな、取り込んできたのだ。安心しろ、しっかり乾いているぞ」

 クローディアはすごい勢いで、魔王から籠を取り上げる。


「洗濯は魔王の自由だが、私の下着まで洗わなくて良いだろ!」

「どうせ洗うなら一緒に洗った方がよいだろ。ちゃんと洗う際は白物と色物、黒物は分けてしているから安心しろ」

 だからそういうことではない!とクローディアは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「だ、だいたい魔王が自分で洗濯をするなんて聞いたこともない!」

「ふむ、魔王城では自分のことは自分で出来るようにしろとメラルダが煩かったのでな、割と当たり前だったのだが」

 一人洗濯をする魔王の姿が浮かび、クローディアは頭を抱えた。


「一人で洗濯していたのか?」

「ん?いや先に来ていた侍女がいたのでな、世間話しながら一緒に洗濯していたぞ。コミュニケーションは大事だからな」

 クローディアは何か色々と疲れがどっと出た。それを見た魔王は、クローディアに言った。


「なぁ、クローディア。今日は別々に行動をしないか?」

 それを聞いたクローディアは、えっ?という表情で魔王を見つめる。


「まっ、魔王、私が何か悪いことをしただろうか?すまん、先の洗濯の件で怒ったのなら謝る、私もちょっと動揺しただけなのだ、だ、だから、機嫌を直して貰えないだろうか?!」

 クローディアは涙目で魔王に詰め寄る。

「ま、待て、クローディア、そんなに慌てるな。まるでマリアンヌみたいだぞ」

 クローディアは、その言葉に顔を真っ赤にする。


「ここに俺が来てからは、ずっと二人一緒での行動だけだっただろう。それだけではいけないと俺は思う。一緒に住んでいても、それぞれの時間というのは必要だとな」

 最近、剣の練習もしていないだろ?と魔王が付け加えると、クローディアは魔王が言いたいことが理解できた。


「そうだな、確かに二人で一緒にいないといけないと、勝手に義務にしていたかもしれないな。ありがとう魔王、今日の午後は別行動にしよう」

「ああ、良い汗をかいてくるがいい。俺もこの格好なら問題ないのでな、ちょっとぶらぶらしてみることにする」

 クローディアは魔王の配慮に感謝し、包容で気持ちを表した。



騎士団の駐屯場


 そこには騎士団の隊長と、練習用の木刀を交わすクローディアの姿があった。


 互いに練習とは思えない速度で剣を打ち付ける。クローディアは盾で剣を流し、相手の首筋に剣を払うが、相手はそれを読んでいた。

 隊長はその剣を首を少し傾けるだけでかわすと、身をかがめて力を溜め、身体を盾ごとクローディアにぶつけた。その一撃をクローディアは勢いを殺すことが出来ずにもろにもらった。


「くぅっ!」

「どうした、クローディア!その程度か!?」

 隊長の声に再び戦意を取り戻したクローディアは、剣を構え直す。

 クローディアはスピードで一気に詰め寄り、隊長へ剣の束を叩き込む。それを隊長が盾で受け止めるが、勢いに負け少し後ずさりした。その瞬間、クローディアは上空に跳ね、その位置からイメージした素早い突きを繰り出す。頭、肩、腹、足へと。

 しかし、その途中でクローディアはバランスを崩し、相手が防ぐ盾にぶつかり地面に転がった。


 それを見た隊長が、片手を上げ終了の合図を出すと、観客の兵士からは、おおぅと声があがる。


「クローディア、勇者の力を使わなかったのは誉めてやるが、動きにまだまだ無駄が多い。そこの兵士に通用しても俺には当たらん」

「ご指導、ありがとうございます!」

 息を切らしたクローディアが頭を下げる。それを見た隊長は思いだしたかのように言う。


「最後の攻撃は惜しかったな、まだ物に出来ていないようだが、どこで習った?」

「あの技は、私の恩人の見様見真似です。まだ私には使いこなせませんが」

 クローディアは、夢で見たルーシアの剣技を思い出し、あれを物にしたいと思っていたのだ。


「よし、では今日はここまでだ。クローディア、また汗を流しに来い、待っているぞ」

「はい、ありがとうございます!」

 クローディアは久々に身体に流れる汗に心地良さを感じながら、身体を地面に預けた。

 空は青く、太陽がまぶしい。

「魔王も楽しんでいると良いな」

 クローディアはそれだけを願っていた。



魔法師団 駐屯場


 その頃、魔王は偶然会った魔法使いに捕まっていた。


「で俺は、何をすればよいのだ?」

「今日は魔法の基礎を学ぶレベルの生徒が城への社会見学に来ているのです。彼らにアドバイスをお願いできませんか?」

 話を聞くと、魔法使いは副職で魔法学校の講師をしているらしい。


「つまり、忙しい本職の魔法師団の代わりに講師まがいのことをすればいいと言うのだな」

「簡単に言えばそういうことです」

 魔法使いはそういうと、生徒を呼んだ。十名程のまだ十二、三歳の制服を着た子供が集まる。


「はーい、みんな。こちらのちょっと怖い顔したお兄さんが、みんなに魔法の上手な使い方を教えてくれますよー」

 なんだその説明は、と魔王は思いながら仕方なくそれに合わせることにした。


「ふむ、俺の名はマルクだ。今日はお前たちの魔法の使い方を見させてもらう。俺は厳しいが、泣くなよ」

 それを聞いた子供数人が、声を上げた。

「兄ちゃん、格好の割に態度でけーな」

「あははは、魔王と同じ名前だよ、この人」

「うわー、本当に目つき悪い」


 言いたい放題だなと、魔王が魔法使いに言うと、魔法使いは、子供の言うことですから、と笑って返す。


 子供たちは魔力を体に中に集中させる練習をしているようだった。それを見ていた魔王は、一人一人に声をかける。


「姿勢が悪い、力の流れが崩れているぞ。まずは少し腰を落として身体の中心を意識するところから始めろ」

「手先に意識を集中しすぎだ。目や手はあくまで周りの情報を集めるだけの道具と思え」

「頭で考えすぎだ、まず意識を手先、足先まで広げろ。そこで感じた物を胸元に抱えるようにイメージしろ」

 それを見ていた魔法使いは、真面目に教える魔王に感心していた。


「子供が嫌いな訳ではないのですね。どちらかというと世話好きな方ですか」

 これが彼らにとって、良い経験になれば幸いだと魔法使いは思う。魔王に教えを請うなど中々あることではないのだから。


 一時間ほどすると、生徒の全員が魔力の集中が出来るようになっていた。それを見て魔王は全員に向かい言う。

「これはあくまで基本だ、力を高めるためには、自分がどうありたいかを心に刻むようにしろ。それがお前たちの力となる。だが忘れるな、魔力とはただの力だ。力を間違ったことに使わないために、その心も磨け!」

 それを聞いた子供たちは、身体を振るわし、感動しているようだった。


 それを見ていた魔法使いは、魔王なんですからカリスマありますよね、と納得の表情をする。


 抗議が終わり、魔法使いに連れられ帰って行く子供たちを、魔王は手を振って見送る。


「こういうのもたまには悪くないか」

 魔王は一時の酔狂で始めた講義に、満足をする自分を感じていた。



クローディアと魔王の部屋


 夕方になって魔王が部屋に戻ると、汗をかいた身体を濡らした手拭いで拭くクローディアに出くわした。


 お互い一瞬動きが止まり、裸を見られることに抵抗のあるクローディアを察した魔王が、すまん、と背を向けると、クローディアは顔を下に向けた。


「いや、、私こそ、貧相な身体を見せてしまい申し訳ない、、」

「何故そうなる?」


 魔王は後ろを向いたまま、その言葉に不服を言った。

「クローディア、お前は美しい。俺が言うのだ、間違いはないぞ」

「魔王がそう言ってくれると、私は嬉しい。でも、私はそんなに自分には自信がないのだ」


 クローディアはざっと身体を拭き終わると、部屋着に着替えた。

「もちろん、これでも私は女だからな、裸を見られること自体は恥ずかしい」

「それは、俺も承知している。しかし、自分のことを貧相などといった表現はするな。そんなことを言われると、俺が悲しくなる」


 魔王は、クローディアが着替え終わったのを確認し、振り返った。

「すまない魔王、気をつける」

「構わんよ。ところで今日はどうだった?」


 クローディアと魔王は、それぞれの過ごした時間を話した。互いに知らない出来事を聞くことはとても新鮮で、二人の会話は弾む。


 そんな当たり前のような日常を、二人は今、とても幸せに感じていた。

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