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05・二人の出会い〈後編〉

 

小学六年生(4月から)の上郷少年(しょうま)の不安が的中したのは、諸々の説明が終わり、213号室を引き上げて暫く経った同日。


この日は入居者が夏葉一人だったために午後がまるまる空いた将馬は、昼食はのんびりと過ごした。

14時頃、引越し業者のトラックがアパート前に停まったのが見え、ああ、荷物が届いたんだなぁと思ったりした。

夕方に買い物に出、共稼ぎの両親に代わって家事をこなし、三人揃って食事をとり、一人まったりと風呂を堪能した後、自室に入ってカーテンを閉めようと窓辺に立った時・・・・・・異変に気がついた。


「?」


213の玄関の明かりが点いていない。

時計を確認すれば21時を少し過ぎた頃。食事かコンビニにでも出掛けたのかと考えたが、それにしては部屋が暗すぎる。


「若い女が夜、あんなに真っ暗にして出掛けねーよな?」


胸騒ぎがした。昼間に見た、あの如何にも天然っぽい夏葉が、早速なにかやらかした(・・・・・)のではと心配になった。

将馬は学習机の抽斗の一つを開けると、取り出したプラスチック製のキーボックスの中からひよこのキーホルダーをつけた鍵を取り出し、部屋を飛び出した。


「あら、どこ行くの?」


「213」


風呂上りらしい母親と廊下で顔を合わせ、簡潔に答えて玄関に向かう。サンダルを履いていると後ろから、「長居しないように」との注意がかけられ、手を挙げるだけの返事を残し、将馬は些か急ぎ足で隣に向かった。


「おー! 将馬ー。こんばんはー。どこ行くんやー?」


外階段に差し掛かった時、112号室に住む大学3年生(留年していなければ)の横山(よこやま)が、丁度ドアから顔を出して将馬を見つけた。

頬が赤くやたらと陽気。・・どうやらちょっと酒が入っているようだ。


「こんばんは。横山さんは今、お帰りですか?」


「そー。バイト先の社員さんに、夕飯奢ってもーたんやー」


かなりゴキゲンな彼は何かを思い出したらしく、ゴソゴソとポケットを漁り、掴みだしたソレをハイ! と言って将馬へと差し出した。


「? なんですか?」


「いや~、隣の席におった見ず知らずのオバちゃん団体がな、俺が同郷やとわかると「懐かしいわ~」とか(はしゃ)ぎ出して、「アメちゃんやでー、懐かしいやろー?」て、くれたんや」


アメなんかどこだって売ってるっちゅーねん! と、ケラケラと笑い出した横山に将馬は苦笑いをしつつも、キチンと礼を言いソレをポケットに仕舞った。

横山と手を振って別れた将馬は、1棟2階の213号室の前に着いた。時間が時間だから少々気は引けるが、相変わらず明かりひとつ付いていないことがどうしても気になる。


コンコンコンッ


「小川さん。いますか? 大家の上郷です。ちょっといいですか?」


留守なら留守でいい。不在ならば、明かりがないのは当然だから。・・・だが、


ガタン・・・ごとッ、ドスンッ・・ガラララ――――――カチャ・・


中から派手な物音がし、解錠の音が響く。キィィィィィ・・と蝶番をきしませて開いたドアの向こうには・・・


「ふぇぇぇん・・大家さぁぁぁん!」


子どもみたいに大泣きする夏葉が――――――――――――突然ガバッと抱きついてきた。


「お、小川さん! どうしたんですか?!  何かあった・・」


「うぇぇぇぇぇぇん! 一人、怖かったよ~~~。寒いよぉ。お腹すいたよぉ。トイレ行きたいよぉ・・」


べそべそ泣きじゃくる夏葉には、将馬の声が聞こえないらしい。背中をポンポンと叩いてみても、グスグスと鼻を鳴らしている。


「とにかく落ち着いて。何があったのか、言ってくれなきゃわからないだろう?」


「ふぇぇ・・引越しの荷物が届いたら、・・ック、書類が見つかんなくなっちゃって、・・ッ、探したんだけど、・・ヒック、だんだん部屋の中が暗くなって・・・」


「ああ・・」


なるほど。荷物の運び入れのドタバタに紛れて、関係書類一式が行方不明になったのか。見つからないから電力会社にも水道局にも連絡できず、ずっと一人で寒さに耐えながら部屋の中で泣いていたと・・・。


「困っていたなら、連絡すればよかっただろう?」


「だって~、スマフォの充電も切れちゃったんだもん!」


「はぁ~・・」


呆れと安堵の入り混じった溜息が出た。健康面や金銭面でのトラブルじゃなくホッとした。病気や金関係で泣きつかれても、将馬には何も手助けしてやれないから。


「仕方ない。光熱水道は明日連絡すればいいから。とりあえず今夜はウチに来なさい。腹が減っただろうし、さっきトイレって言ってたよな?」


ぎゅうっと首にしがみつく夏葉を引き剥がし、裸足のままの足元を指し示して、靴を履くように言った。


「窓は閉まってるか? 念のため貴重品は持ってくるかちゃんと片付け・・・は無理なのか。とにかく必要だと思うものを持って、靴を履いて出て来い」


てきぱきと指示すると、夏葉はモタつきつつも準備を整え、靴を履いて出てきた。

将馬が持ってきた合鍵で施錠すると、それを見ていた夏葉がポツリと「ひよこ・・」と呟いたが、特に答えることでもなかったため、そのまま彼女を連れて自宅に向かった。


クゥ~~~・・


階段を下り切った頃、背後から切なそうな鳴き声(・・・)が聞こえた。ふと、横山に貰ったものを思い出した将馬はポケットに手を突っ込むと、鳩尾付近をさすっていた夏葉にソレを渡した。


「とりあえずソレでも食っとけ。ウチに着いたら、真っ先にメシの用意をしてやるから」


「ありがと・・・・・・あ」


最後の「あ」が少し気にかかったが、将馬は何も聞かずに先を進んだ。






後から聞いたところ、受け取ったピーチ味のキャンディーのパッケージには、巷で女子児童に大人気の、ヒロイン戦隊アニメのきゃるるん♪なイラストが描かれていたのだそうだ。


「てっきり将馬クンの趣味なのかと疑っちゃったわよ~」


楽しげに笑う夏葉の頭を、将馬は丸めたテレビ雑誌で遠慮なく叩いてやった。




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