闇の龍
更新遅れてすいませんでした…
「わーーーーーーーーー!?」
深い深い穴で響く、少女の悲鳴と落下音。
彼女、ルーナは先ほどの戦いで端にあった穴に落っこちたのだ。
ルーナのエルフ特有の長い耳が、空気抵抗の音からそろそろ地面が近いのを聞き取る。
「あわわ…!!」
落下しながら、パニックに陥りそうになるのを何とか堪えて打開策を考えるルーナ。
杖は落としてしまったのだが、杖なしで魔法を放つのはほとんど試したことがないのだ。普段杖を使い慣れている魔法使いは、杖なしで魔法を放つとき、最初は暴発しやすい。
暴発し、魔法が上手くいかなかったら元も子もないのだ。
しかし、試すほかに道はない。ルーナはぐっと唇をかみしめた。
地面は近く、もう他に手はない。ルーナは手をのばし、息を吸った。
「…“ホーリーアニマ”!!」
刹那、白い風が地に吹き荒れ、ルーナが落下するであろう場所に吹き荒れる。
風をクッションにしようと思ったのだ。白い風がルーナを包み、衝撃を相殺する。
が、風が強すぎたのか少し飛ばされてからの着地。
結果、しりもちをついての着陸となった。
「いたた…」
ぶつけた箇所をさすりながら起きあがるルーナ。
上を見上げたが、エルフの自然を生きる中で進化したとされるよく見える瞳ですらそこは暗闇しか見えない。ルーナは、だいぶ深くまで落ちてしまったことを痛感した。
「どうしよ…エルヴァ、は大丈夫だろうけど…」
どうやって上るか、その策が思いつかないのだ。短い溜め息を一つつくと、ふと思い立ち、周りを見つめる。
ミントブルーの澄んだ瞳が遠くに何かを見つける。
「あれ…?」
ジッと目を凝らし、小首を傾げるルーナ。
「あれって…もしかして」
エルヴァは目を閉じ、神経を尖らせていた。
何故か…それは深い穴を落ちているからだ。エルヴァ的には、降りているといった方が正しいのだが。
「……まだかよ」
ちっと舌打ちをするエルヴァ。
エルヴァが落ちているこの穴は相当深く、底が見えない。穴が深すぎるため、着陸に失敗すればいくらエルヴァとて命の危険すらある。
そんな穴の中で平然と目を瞑っていられるのは、暗闇の中で視覚に頼るより、聴力に一点集中したほうがよいという経験によるものだ。
「くそ…面倒な…」
先ほどからエルヴァが落ちているが故に発せられている風切り音しかしない。
「…ルーナの奴、勝手に動き回ってないだろうな…」
ルーナが怪我をしている可能性は一切捨てている(というかそんな考えがない)エルヴァ。
「…放っておいて当初の目的を果たしたいんだが…」
それだとナタリーさんがなぁ…、とぼやくエルヴァ。
ちなみに、ロイのことをエルヴァが恐れたことは一度もない。
「…怖いんだよな、ナタリーさん」
小さく呟く遠い目をしたエルヴァ。
怒った彼女を見るのは、もう御免であるらしい。少しばかり引きつった顔がありありとそれを表している。
「…ん?」
昔のことでも思い出したか、さらに顔が引きつりかけていたエルヴァの耳に、待ち望んでいた音が聞こえてきた。
つまり空気抵抗の音、そろそろ地面が近いと伝える音だ。
「はぁ…やっとか…」
エルヴァは片手を下に向けると、面倒くさそうに一言呟いた。
「“ダークウィンド”」
次の瞬間、漆黒の風がエルヴァを覆った。
ルーナとは違い、足からしっかりと着陸するエルヴァ。
トッ…と軽やかに地に降り立つと、辺りを見回す。
まず気が付いたのは周りに堕ちている小石がエルヴァの立っているところを中心に吹き飛んだような跡があるということだった。
「…ルーナだろうな、これやったのは」
ルーナが最後まで降りたことはこれで確認できたといわんばかりに納得したような表情を浮かべるエルヴァ。
「…この近くにいるはずなんだが」
周りを見回すが、ルーナらしき人影はない。
「……面倒な」
チッと舌打ちをする。
周りをまた見回すと、溜め息をついた。
「…これだけ暗ければ大丈夫だな」
持っていたルーナの杖を地面に置くと、右手を天にのばす。
暗闇よりも深い闇の波動がエルヴァの細い右手に集まり始める。
「“デスベリドゥームドラグーン”」
刹那、エルヴァの手に集まっていた魔力が放たれたかと思うと、何かの形を成していく。
やがて形成された『何か』は闇に紛れ、エルヴァのようによほどの視力を持っていない限りは見えないだろう。
ただ、金色に光る鋭い瞳のみが闇の中で輝いている。
グルル――と唸る『何か』に、エルヴァはただ一言、
「…行け」
と鋭く言い放った。
今回のまとめ
・エルヴァはナタリーさんが苦手らしい←
・杖を使い慣れた魔法使いの一部は杖がないと魔法が暴発しやすい人がいる
続きは一応できているので、明日にでも更新できる…かもです←