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『JOKER』  作者: レイン
エルヴァとルーナ
5/12

『JOKER』の正体

ここはルーファスの街を出てすぐ東にあるファクラムの森。


因みに、時刻はすでに夕方である。


そんな夕暮れ時の森の中を、エルヴァとルーナは歩いていた。


「うわ~暗くなってきたね?」


「そうだな」


興味津々といった感じで辺りを見回すルーナ。


「エルヴァって暗いの大丈夫?」


「一気に暗闇になっても1~2秒くらいあれば目は慣れるが?」


「そういうことじゃなくって」


ルーナはふぅ…と溜め息をついた。


「暗闇は怖くないの?」


「全く」


即答で返ってきた。


「お前は?」


「私?全然怖くないよ?」


ルーナはニコニコとしている。


確かに、こんなに笑顔でいられるのだから暗闇が怖いということはないだろう。


「エルフに暗闇が怖い人なんていないんじゃないかなぁ」


「…そうなのか?」


「うん。エルフは自然にあるものなら大体怖くないと思うよ」


「じゃあお前の怖いものは?」


エルヴァが聞いた瞬間、ルーナは顔が引きつった。


「…ん?どうした?」


「えっと…その」


「…ハッキリ言え」


ルーナは苦笑いした。


「か…雷」


「雷?」


「そう。雷が怖いの」


「ふーん」


エルヴァの反応は薄かった。

実際は(雷も自然の一部じゃないのか?)と考えてもいたのだが、それはあえて口に出さなかった。


そして、こうやって話している間も周囲を見回している。


暴れているというオーガを探しているのだろう。


鋭い銀の瞳が夜になりかけている暗がりの森の中で光っている。


ルーナは、ふと疑問に駆られた。


「エルヴァの怖いものは?」


「ない」


これも即答だった。


「…正確には、特にはないというのが正しい」


「そうなんだ…」


エルヴァは首を傾げた。


「怖いもの、ありそうに見えたか?」


「いや、むしろその返答が返ってくるような気がしたからね」


「…あっそ」


エルヴァが黙り込んだのでルーナも口を閉じた。


エルヴァはチラリとルーナを見た。


「じゃあ、もう一つ聞いてもいい?」


「……好奇心旺盛だな、お前」


「そうかもね。でね、エルヴァってどこ出身なの?」


「…お喋りしてる場合か?」


「…まぁ、それはそうなんだけどね」


ルーナは何となく話をはぐらかされたような気がした。


だが、エルヴァの意見は正論なので、エルヴァと同じように周りを見回し、オーガを探す。


しばらく進むと、ふいにエルヴァが呟いた。


「…旅人に故郷はいらない」


「え?」


「…少なくとも、俺はそう思っている」


ルーナは立ち止まった。


エルヴァは不審そうに立ち止まってルーナを見た。


「…どうした?」


ルーナはさみしそうな表情を見せた。


「なんか…そういうの、さみしいよ」


「……!」


エルヴァは目を見開いた。


「…そう、か?」


「だって…自分が生まれて、育ったところを故郷として認められないなんて…そういうの、さみしいじゃない」


エルヴァは驚いた表情をしていた。


そして小さく呟いた。


「…俺には、よくわからん」


「え?なんか言った?」


「別に」


エルヴァが再び歩き出したので、ルーナも慌ててついて行った。


「…自分と違う考えを持つ奴の話を聞くのは、いろいろと勉強になる」


「それって、今のこと?」


「…ああ」


エルヴァは口の端をあげた。


エルヴァ流の笑みだとルーナは解釈している。


「考えてもみろ。今までの自分の考えを覆すような話が聞けるんだ、なかなかに興味深い」


「そっか。それもそうだね」


エルヴァはそうだろう?とでも言いたげにルーナを見た。


エルヴァは左目に眼帯をしているため、片方のみの揺るぎない銀色の瞳がジッとルーナを見ている。


歳は19歳だというが、それならばこの威圧感はなんなのだろう。


19歳の持てる威圧感ではない気がするのだ。


「…なんだ?」


ルーナはハッとした。


エルヴァが不審そうにルーナを見ていた。


「あ、ううん。何でもない」


「…?」


エルヴァは首を傾げつつも歩きだそうとして――止まった。


「エルヴァ、どうしたの…?」


「静かに」


エルヴァは茂みに隠れるように屈んだ。


「…いた」


「あ…!」


オーガと思わしき影が五つばかり前の方でウロウロと徘徊していた。


「あれ、オーガかな?」


「…背格好からして間違いない」


エルヴァは月の照らさない暗がりの中、オーガの背格好まで見えているらしい。


ルーナは感心するばかりだった。


「行くぞ」


「あっ…うん」


エルヴァが双剣を構えたのを見て、ルーナも慌てて杖を構えた。


エルヴァの属性剣、《シリウス》と《レグルス》はこの暗がりの中でも不思議な青と赤の光を放っている。


ルーナの杖も水晶はミントブルーに、杖全体は白く輝いている。


その光に驚いたのだろう、オーガ達は一斉に武器である斧を構えた。


エルヴァは一気にオーガに詰め寄った。


《シリウス》と《レグルス》を器用に交互に使い、オーガを吹っ飛ばす。


止まった瞬間、向きを変えてもう一匹のオーガを斬りつける。


澄んだ青い軌跡と緋色の軌跡がまるで舞っているかのようにオーガを襲う。


エルヴァに反応し、襲い掛かろうとしたオーガを聖なる白き光線が捉えた。


「“ホーリーレーザー”」


ルーナは杖に魔力を集中させ、“ホーリーレーザー”でオーガを攻撃する。


その後ろから攻撃しようとしたオーガはエルヴァの攻撃によって叩き伏せられている。


あっという間に、即座に戦闘可能なのは一匹のみとなった。


残りは、立ち上がろうとしているがダメージが大きいようですぐには立てないようだ。


構えたエルヴァに、ルーナは「待って」と声をかけた。


「…どうした?」


「私にやらせて」


いつの間にかルーナの全身は純白のオーラで輝いていた。


エルヴァは少しの間黙ったが、スッとルーナの後ろに下がった。


了承した、ということだろう。


ルーナは杖を構え、集中する為に目を閉じた。


オーガはチャンスと思ったのだろう。


威圧感を持つ男は、目を閉じて防御をおろそかにしている少女の後ろに立っているだけである。


一匹だけでも勝てると思ったのか、ルーナに襲い掛かった。








いや、正確には襲い掛かろうとした、が正しいだろう。


何故なら、攻撃を喰らう直前、ルーナはミントブルーの瞳を開きこう呟いたからだ。



「“ホーリーストーム”」



刹那、水晶の杖から光が溢れ出しオーガ達に襲いかかった。


それはまるで光の嵐のようだった。


輝く光の風がオーガ達を巻き込んで渦巻いている。


ルーナの後ろにいたエルヴァは小さく呟いた。


「こんな高度な魔法を…!」


やがて、光の渦が消えると共に、オーガ達は【始まりの世界(オリジンワールド)】へと帰っていった。


「はぁ…疲れたよ」


地面に座り込んだルーナのそばにエルヴァは歩いて行った。


「…お前、あんな高度な魔法まで使えたのか」


「あ、うん。一応魔法使いだからね。特技なんてそれくらいしかないし」


ルーナは首を傾げながら尋ねた。


「エルヴァって魔法にも精通してるの?」


「…ん?」


「今の魔法が高度の魔法だってわかったから」


エルヴァは双剣を鞘に収めながら呟いた。


「…あぁ、まあな。魔剣士って呼ばれるぐらいだし」


「魔剣士?」


次の瞬間、エルヴァはルーナにとって衝撃的な発言をした。



「…魔法にも剣技にも長けてる奴のことだ」



しばらくの沈黙が二人の間に流れた。


ルーナは目を見開き、唖然としていた。


「えええーーーーーーー!!!?」


「…うるさいな」


エルヴァは耳をふさぎながら言う。


「ご、ごめん…」


ルーナが驚くのも無理はないのだ。


普通、魔法使いは魔法に精通する為、どうしても体力などの基礎を鍛えることが疎かになる。


つまり、剣技を鍛えようとすれば魔法の勉強を疎かにする事となり、魔法使いにとって致命的となる。


また、その逆もしかりだ。


その為、剣技と魔法を両立することはかなり不可能に近い。


特に魔法は覚えるのには才能がいる為、余計にだ。


だが、極稀に両方に長けることに成功する者もいるらしい。


しかし、その実例は全くと言っていいほどないのだ。



「…まぁそんな奴、滅多にいないからな。驚くのも無理ないだろうが」


エルヴァは全く表情を変えず、淡々と話す。


まるで、面倒事を簡潔に話したがっているかのように。


「じゃ、じゃエルヴァは何の魔法を使うの?」



この世界では、魔法は一人につき一つの属性しか覚えられない。


ルーナの質問に、エルヴァは黙って片手をあげた。


刹那、エルヴァの手から黒き光線が打ちあがった。


ルーナはもう驚くことしかできなかった。


ただでさえ極稀な魔剣士なのに、まさか稀有な闇属性の魔法を使うとは。


「エ、エルヴァってすごい人だったんだね…!」


「…そうか?」


全く嬉しくなさそうな表情でエルヴァは答える。


「…立てよ」


エルヴァはルーナに手を貸し、立ち上がらせる。


「…さっさと帰るぞ。町長から報酬を貰ってかないといけないしな」


「う、うん」


ルーナは答えつつも疑問を感じていた。


エルヴァは何かを隠している。


直感でルーナはそれを感じ取った。


とりあえずエルヴァがスタスタと歩いて行ってしまうため、ルーナはそれに慌ててついていった――


































町長宅で、ルーブは眠そうにしながらも嬉しそうに報酬を払った。


「まいど」


エルヴァは金額を数えると、ポケットに入れた。


エルヴァはそのまま踵を返し、出ていこうとする。


ルーナもその後をついていく。


その時、ルーブが呟いた。


「さすがだね。さすがは『JOKER』といったところか」


刹那、エルヴァが動いた。


《シリウス》を抜き、ルーブの目の前で止めた。


その動きは全く無駄がなく、速すぎたため、誰もついていけなかった。


「…黙れ」


いつも感情が籠ることの少ないエルヴァの声は今、明らかに鋭く尖り殺気が籠っている。


ルーナは二度目の驚愕に襲われた。


「エルヴァが…『JOKER』!?」


エルヴァはハッとルーナを見た。


「本当なの、エルヴァ…!?」


エルヴァの顔に陰りがさした。


一拍の間をおいて、エルヴァは溜め息をついた。




「…本当だ」




ルーブは初めて自分の失態に気が付いた。


「…すまない、隠していたのか」


「今更だ」


エルヴァはキッと睨みつけると《シリウス》を鞘に収めた。


エルヴァはルーナの手を掴むと強引に引っ張る。


「ちょ、エルヴァ!?」


「さっさと行くぞ」


エルヴァの声に思わずルーナは身震いした。凛と響く声はいつもとは違い、氷の如く冷たく、鋭かった。


ルーナはエルヴァに引っ張られながら町長宅を後にした。


ルーブは悲しそうな顔をしながら、じっとエルヴァ達が去っていった方を見つめていた。










ルーナがエルヴァに連れて行かれたのはロイの食堂。


不機嫌な顔のエルヴァと困惑した表情のルーナが入ってきたのを見たロイは、


「お、二人でデートか?」


と、おかしな発言をしてエルヴァに叩きのめされた。


エルヴァはカウンター席に座ると、エルヴァに殴られたところを痛そうに押さえているロイに向かって短く、


「酒」


と言った。


これに驚いたのはルーナだ。


「え?お酒は20歳からじゃないの?」


「フィルア王国では18歳から飲んでもOK」


エルヴァの説明で、ルーナは納得した。


「…酒が20歳からなのはコルシュ王国だろ」


「う、うん。…そっか、国によって違うんだね」


ロイはお酒をコップに注ぎながらニヤリと笑った。


「お前が酒を要求するなんてな。なんか嫌な事でもあったか」


エルヴァはついっと顔を逸らした。



ルーナはもう何が何だか分からなくなっていた。


だが、エルヴァがお酒を飲んでいる間、頭の中を整理していく。


と、やはり驚愕に満ちた表情となってしまうのは避けられない。


「えっと…つまり、魔剣士の能力があって強いから『JOKER』って呼ばれるようになった?」


「そうなんじゃないのか」


エルヴァは不機嫌そうな表情だ。


「…ねえ、なんでそんなに不機嫌なの?」


「……」


エルヴァは黙った。


ロイは少し悲しそうな笑顔になった。


「そうか…ルーナちゃんにばれたのが嫌だったんだな」


「うるさい」


「え…」


ルーナは首を傾げた。


「嬉しかったんだよ、エルヴァは。自分が『JOKER』だと知らずに接してくれる子がいて」


ルーナは黙り込んだ。エルヴァの方に視線を向ける。


エルヴァはロイをキッと睨みつけた。


「少しは慎むという言葉を覚えろクソ親父」


「無理だな!」


ハッハッハ!と豪快に笑うロイ。


エルヴァは呆れた様な表情になった。


ルーナはエルヴァがロイと話す時、少しばかり楽しそうに見えていた。


何故なのかわかった気がした。


ロイはエルヴァが『JOKER』だとわかっていても楽しそうに接している。


おそらく、妙に接し方を変えられるのがエルヴァは嫌なのだろう。


「エルヴァ!!」


「!?な、なんだよ?」


思わず出たルーナの大きな声に、エルヴァは驚きつつも尋ねた。


「私、エルヴァが『JOKER』でも変わらない!」


「…は?」


「だって…」


ルーナは満面の笑みで言い切った――



「エルヴァはエルヴァだもん!!」



「…!!」


エルヴァは驚愕の表情へと変わった。


だが、やがて少し嬉しそうにエルヴァ流の小さな笑みを返したのだった――




今回のまとめ


・魔法と剣技の両方を扱う稀有な能力者を魔剣士と呼ぶ


・『JOKER』の正体はエルヴァ




ルーナ大活躍ですね。

エルヴァも十分目立ってますね…

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