属性双剣使い・エルヴァ
やっと名前が…
「《シリウス》《レグルス》」
男は呟くと、ウルフ達にとびかかっていった。
男は瞬時に一匹のウルフを斬りつけた。
更にほんの少しの差をつけ、もう片方の剣で斬りつける。そして止まったと同時にもう一匹のウルフを同じように斬りつける。
男は信じがたい事に素早い動作で一気に二匹のウルフを吹っ飛ばした。
「“ホーリーカッター”!!」
男に襲いかかろうとしていたウルフを輝く鎌状の魔法が襲い掛かった。
少女は純白のオーラで輝く、不思議な水晶の付いた杖を構えていた。
「…聖属性の、魔法…!」
男は一瞬唖然とした。
少女は魔法で攻撃したウルフが起き上がろうとしたのを見て、更に追加で攻撃した。
「…戦えんのか?」
「そ、それくらいはできますよ!」
「あっそ」
と、男は少女に襲いかかろうとしていたウルフを斬りつけ、倒した。
と、ウルフ達は白い光に包まれ、消えてしまった。
「あ、あれ?」
「ん?」
「き、消えちゃった…」
「は?」
少女はウルフが消えたことに驚いていた。
一方、男は呆れた様な表情になった。
「お前、【始まりの世界】も知らないのか?」
「え?今のがそうなの?」
この世には、もう一つ、【始まりの世界】と呼ばれる世界がある。モンスターはそこで生まれ、《扉》と呼ばれる空間の繋ぎ目を通ってこの世にやってくる。
モンスターは倒されるとその世界に帰るのだ。
ちなみに、【始まりの世界】に行った者は未だにいない。ゲートを通れるのはモンスターだけだからだ。
「…知らないのか?」
「モンスターを倒したこと、なくって…」
男は、はぁ…と溜息を一つ着いた。
そして流れるような動作で双剣を真っ黒な鞘に収めた。
少女はそんな男をジッと見つめた。
175㎝~180㎝くらいの身長。
漆黒の髪に、左目には黒い眼帯を付けている。顔立ちは綺麗に整っており、鋭い銀色の瞳が光っている。そして全くと言っていいほど日焼けしていない白い肌。
暗い色合いの灰色のローブを身にまとい、皮のサンダルをはいている。
腰に真っ黒な鞘の剣をさしており、肩掛けカバンは膨らんでいるため、たくさんの荷物が入っていることが伺える。アクアブルーの菱形に似た形の飾りのついたピアスを付け、左腕には銀色の丸い腕輪を付けている。
見た目からすると、17~19歳ぐらいだろう。
「…なんだよ」
少女がジッと見ていることに対し、不機嫌そうに尋ねる男。
「あ、あの。助けてくれて、有難うございます」
「ふ~ん」
男はつまらなさそうに言うと、サッと手を差し出してきた。
「え?」
「…500J」
男の言葉に、少女はきょとんとして思わず男の顔を見る。冗談でも言っているのかと思ったが、男の顔は真顔そのものだった。
「えっ……と…?」
「…助けた代金」
「そ、そんなの聞いてないよ!?」
「当たり前だ。今言ったから」
飄々と答える男。
「そ、そんなこと言われても…」
「…金、無いのか?」
「い、いえ。500Jならありますけど…」
「…じゃ、よろしく」
少女は渋々と言った感じで500Jを男に渡した。
「まいど」
短く答えると、男はお金をポケットに突っ込んだ。
男は財布を見て溜め息をついている少女をジッと見つめる。
ミントグリーンの、腰までのびた美しい髪。純粋な光を湛えたミントブルーの瞳。緑を基調とした服。
白いリボンのついたカチューシャをつけ、左耳にはエメラルドらしき石を使った菱形の飾りつきのピアスを付けている。
そして、耳は何と、人間より長く尖っていた。このことから、少女が人間でないことが伺える。
「…耳、気になります?」
少女は少し悲しそうに尋ねた。
「私、エルフなんですよ」
「なに?」
男は思わず聞き返した。
エルフとは確か、自然と調和し、自然を愛する種族だったはずだ。
森の奥深くに国を作り、そこから出てくることは滅多にないはずなのだが。
「…エルフがこんなところで何をしている」
男は怪訝そうに尋ねる。
「ある街に行く途中なんです」
「…あっそ」
男は興味ないといったような声で呟く。
「やっぱり…怖いですか?」
「何が?」
「その…私、エルフだから」
「…怖くはないぞ。興味があるだけで」
「えっ?」
少女は思わず聞き返した。
男は顔を近づけ、ジッと見入っている。
確かに、エルフが珍しい事に変わりはないのだろうが。
「あ、ああああの…か、顔が近い…です」
「ん?」
男はスッと顔を離した。普通に立たれると、少女より10㎝程高い。
「しかし…」
「はい?」
「…エルフだからか?聖属性の魔法が使えるのは」
「いや、そうじゃないみたいですけど…」
エルフは魔法に長けている。
魔法の中でも聖属性と闇属性は珍しく、特に聖属性の魔法は使える者はほとんどいない、稀有なものなのだ。
「エルフの中でも、私が知ってる中では、使えるのは私一人です」
「…ふーん」
男はつまらなさそうに呟いた。
「…お前、これからどの街に行く?」
「え?そ、その…ルーファスの街へ」
「…お?俺と同じ方向か」
「そうなんですか?」
男は後ろを向いて呟いた。
「一緒に行くか?」
「え?」
「お前、弱そうだから」
「う…」
少女は否定できなかった。あまり戦闘は得意ではない。
「で、でも…」
「あ"?」
「そんなにお金…ないから」
「…ああ。別にいい、今回はただでいいぞ」
「え?」
少女は尋ね返した。
「金目当てで誘ったんじゃないからな、今回は」
「そ、そうなんですか…」
「…ま、すぐそこだしな」
「あ、有難うございます」
「…その敬語やめろ、面倒だ」
「え?」
男はうんざりした様な顔つきになる。
「…二度も言わせるな」
「は、はい…」
「……」
「あ…うん」
男は小さく溜め息をついた。
「…お前、名前は?」
「あ。ルーナです。ルーナ・イザーヴェル」
「ルーナか。いい名だ」
「あ、ありがとう」
男は小さく微笑んだように見えた。実際は口の端を微かに上げただけだが。
「俺はエルヴァだ」
「え?エルア?」
男は首を横に振った。
そして律儀に名前の発音を訂正する。
「違う。「ウ」に濁点を付けて、小さい「ァ」でエルヴァ」
「エルヴァ…で、合ってる?」
「ああ。エルヴァ・シャルヴィーンだ」
ルーナは笑顔になった。
「よろしくね、エルヴァ」
「ああ、ルーファスへ行くまでの道のりだけだがな」
エルヴァは律儀に短くツッコミを入れるとフードを被りなおした。
「それ、被るの?」
「ああ」
「顔を出してた方がカッコいいと思うけど?」
「…好奇心の対象にされるのは誰だって嫌だろ」
「ああ、そっか」
「…まぁ、旅人なんてもの珍しいからな」
「好奇心の対象になってるのはそういうことじゃないと思うんだけど…」
エルヴァはどういう意味だ?とでも言うような視線を向けた。
その表情は疑問に満ち溢れ、彼が本気で意味を分かっていないことを示している。
彼自身はもしかしたら顔立ちが綺麗に整っていることに気付いてないのかもしれない。
というより、そういう感情に疎そうである。
ルーナは小さく溜め息をついた。
「…どうした?」
「ううん、なんでもない。早く行こう?」
「…ああ、そうだな」
エルヴァとルーナはルーファスの街へ向かって歩きだした。
エルヴァとルーナが歩き始めてから数十分――
大きな門が見えてきた。
「あ、あれ!!」
「…ルーファスの入り口だな」
「ほ、ほんと!?やったぁ!」
エルフの国から出てきたのだとすれば、なかなかの距離を歩いてきたものだと思われる。その苦労が報われたことがよほど嬉しいのだろう、ルーナは子供のようにはしゃいでいる。
「…お前、ガキっぽいな」
「ええ!?」
「あ、ガキか」
ルーナは頬を膨らませた。
「そ、そんなことないよ!!もう17歳だもん!!」
「…俺は19歳。俺から見ればまだガキだ」
「2歳しか違わないじゃない!!」
エルヴァは口の端をほんの少し上げた。
笑顔とは言い難いが、笑っているつもりなのだろうとルーナは解釈した。
「…いいからさっさと行くぞ」
「もう!!」
ルーナは顔をしかめながらもエルヴァについていく。
二人は門をくぐり中に入る。
入ってすぐの場所は広場だった。広場というだけあって、なかなかの人通りだ。
と、エルヴァが立ち止まった。
ルーナは不審そうにエルヴァを見つめた。
「どうしたの、エルヴァ?」
「お前、どこに行く?」
「えっ?」
ルーナは首を傾げた。
「町長さんの所に行くけど…」
「…じゃあ、ルーファスの北通りに行って、一番西に行け。そこが町長の家」
「え?あ、ありがとう」
「…俺は西通りに用があるからな。じゃあな」
エルヴァは驚くほどあっさりと別れを告げ、去っていく。
ルーナは暫くぼーっとしていたが、やがてハッとすると、
「あ、エルヴァ!ありがとう!!」
と大きな声で叫んだ。
エルヴァは振り向きこそしなかったが、片手をあげて応答した。
ルーナは西通りに去っていくエルヴァの姿をジッと見送っていた――
今回のまとめ
・魔法の中でも聖属性の魔法を覚えられるものは稀有。
・闇属性もあまり出回ってはいない。
ちなみに、エルヴァの方が主人公です。
まさかの助けた代金を取るような奴ですが、悪い人間ではない…はずです。