出会い
グダグダですよ、初っ端から…はぁ…
フィルア王国の小さな森の中――
「はぁ…はぁ…!!」
少女は走っていた。とにかく全速力で走っている。
後ろから唸り声が聞こえてきた。
ヴヴウゥゥゥゥ…!――――
少女は走りながら後ろを見てみる。
四匹の狼らしき生き物が追ってきている。『ウルフ』と呼ばれる魔物――モンスターの一種だ。
「っ…!!」
少女はただひたすらに逃げる。
理由は簡単だ、ウルフ達が追っているのはこの少女だからだ。
しばらく走っていると、急に目の前が開けた。
森が途切れたらしい。そして目の前に広がる光景は――
「うそっ…!?」
崖っぷちだった。
前に壊れた吊り橋が見える。
さすがに吊り橋なしではこの距離は渡れないだろう。
「ど、どうしよう…!?」
再び、ウウゥ――と唸り声がした。
振り返ると、すぐそばまでウルフ達が迫っていた。
「…!」
やむなく、といった感じで持っていた杖を構える少女。
だが、攻撃を仕掛ける訳ではなく、じりじりと後退している。
オロオロしているところから、戦闘経験は何度かあっても慣れていないようだ。
少女とは逆に、ウルフ達は少しずつ迫ってくる。
「あっ…」
遂に少女は崖の端に追い詰められた。
ウルフ達は襲い掛かるタイミングを計っているようだ。
「…戦わなくちゃ」
小さく呟く少女。その頬を一粒の汗が流れる。
緊迫した空気が続く中、その空気を破るかのように声を発した者がいた。
「…おい、あんた!」
叫ぶ声が聞こえた。まだ若い男の声だった。
チラッとそちらを見やると、ローブを羽織った人影が見えた。
叫んでいるのは、そうでもしないと声が届かないからだろう。男がいるのは隣の崖なのだ。
「…ウルフに追われてるみたいだな!」
「見ればわかると思いますけど!!」
思わず、といった感じで言葉を返す少女。
「…助けてやろうか?」
少女は思わず、どうやって?と尋ねたくなった。
男と少女は離れた場所におり、唯一の道である吊り橋は壊れている。
そんな場所からどうやって助けるというのか。
疑問には思ったが、今はこの状況を何とかしたい少女は、ウルフ達と対峙しながら叫んだ。
「できるのであれば、お願いします!」
少女の返答を聞いた男はふっと小さく笑った。
「…できるか、だと?できなかったら最初から言ってねーよ、バーカ」
と、少年は少し後ろに下がった。
「な、なにを…!?」
「いいから、そこ動くな!一ミリでも動いたら邪魔だ!」
「い、一ミリって…!?」
次の瞬間、男はダッシュし、崖から――ジャンプした。
「わっ…!!」
少女は大慌てだ。当然だろう、崖から落ちればまず命はない。そんなところで崖から崖へと飛び移ろうとしているのだから。
そんな少女の心配をよそに、男は驚くほど軽やかに少女の隣に着地した。
動いた風圧でローブのフードがめくれ、フードの中から漆黒の髪が露わになる。
「な、何してるんですか!!失敗したらただじゃ済まなかったんですよ!?」
「…失敗しないと思ったから実行したんだ」
「ええっ!?」
少年は腰に下げていた二本の剣を抜いた。青く鍛え上げられた刀身と赤く鍛え上げられた刀身が不思議な光を放っている。刀身の色から、青い剣は水属性、赤い剣は火属性だということが分かる。
この世界では、属性と魔法は火・水・風・地・聖・闇の六つだからだ。
「属性剣…!!しかも双剣…!?」
少女は驚いた。
なぜなら、属性剣は滅多に見る事がない。剣に属性――つまりは魔法に近いパワーを込めることは一流の鍛冶職人とて難しい。
故に、世界中を探しても属性剣を持つ者は滅多にないのだ。
「《シリウス》《レグルス》」
男は小さく呟いた。
少女は男から感じる不思議な威圧に驚いた。
銀色に輝く右目がウルフ達を静かに睨みつけた――
今回のまとめ
・属性or魔法…
火・水・風・地・聖・闇
です。