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助けて賢者様!  作者:
1/1

賢者の導き

男は静かに嘆いていた。

平和を望む男には、戦争の絶えない世界は息苦しいものだった。

だが、自分には力がない。

世界を変える程の力が。

だが、男には分かっていた。

その力を行使するという事は独裁と等しいと。

故に男にはなす術はなかった。

「…考えるのは、やめにしよう。」

男はかつて戦場に立ち、銃をとって戦っていた兵士だった。

昨日、酒を酌み交わした仲間が肉塊として帰ってきた事もあった。

目の前の兵士を撃ち殺した事も何度もあった。

その兵士にも、家族はいただろう。

だが、自分も生きたかった。

そんな人間の生への執念を利用した戦争を男は心底嫌っていた。

男は出来るだけ世俗から離れて暮らしたかったが、近代化の波に飲まれて、大勢の無機質な人々と共に街で暮らしている。


男は仕事に出かける。

いつものように家から外に出て、街を歩いた。

その瞬間、男に雷が落ちた。

男は突然、その生涯を終えることになった。


男は消えゆく意識の中で誰かの声を聞いた。

「お前に力を授けよう。」

その声ははっきりと聞こえる。

男は言った。

「そんなものはいらない。俺はただ平穏な日々が欲しいんだ…」

「…お前が望めば、改めて力を授けよう」

その声は遠のいていく。


「はっ!」

目が覚める。

周りを見回すと、そこには人々が作り出した文明の結晶達はなく、ただ神が作り出したままの自然が広がっている。

「ここは…」

男は立ち上がる。

ついさっき見ていたものとは、まるで違う光景に男の思考は止まってしまった。

しばらくして、自分が丘の上にいる事、そして下った先に集落らしき影が見える事が分かった。

「行ってみるか…」

行く宛のない男は、突き動かされるようにその方へと向かった。

丘を駆け下り、辿り着いた先には村があった。

男の住む都会の街並みに比べれば、随分と素朴だが確かに建物と人々がいた。

自分以外の人間の存在を確認して、男の緊張の糸は少しほぐれる。

「あの…」

男は勇気を出して、未だ得体の知れない存在である村人に話しかけた。

しかし、村人達は男のよく知る人間だった。

そればかりか男の身の上に同情し、この村での定住を提案した。

男は村人達の寛大さに感動する。


男はずっと平穏を、平和を望んでいた。

その世界が今、目の前の小さな村で実現されていた。

男はこの村で一生を過ごそうと決めた。


いくらか時間が経った。

男はまるで生まれた時からここにいたかのように、この村に馴染んでいた。

「村長さん、頼まれていた物、届けに行ってきましたよ。」

男は村長にそう報告する。

「あぁ、ありがとう。この歳になると村の中を歩くのですら一苦労でな。」

「いえ、礼を言うのはこっちですよ。本当にこの村の人には感謝してます。突然、見知らぬ世界に飛ばされて、訳も分からない中、私を助けてくれて。あなた達に会えてよかった。」

「…」

村長は喜んでいるのと同時に何か考え事もしている様子だった。

「…やはり、君の話を聞くに、君は転生者なのだろうな。」

「転生者?」

村長の言葉に男は疑問を浮かべる。

「この世界とは違う世界、『異世界』からやってくる者のことだ。人に召喚されるものもあれば、運命に招かれてくる者もおる。君はどちらだろうかな。」

「私は…転生者」

「転生者は特別な力を与えられると聞く。君にも多かれ少なかれあるだろう。…このような辺境の村のより、君の輝く地は他にあると思える。ここを出てそれを探してもいいのだぞ?」

「村長…、私はこの村で改めて一生を終えたいと思っています。私に特別な力があろうと関係ない。私はこの村の住人になりたい。」

男は自身の固い決意を村長に示した。

「…そうか。ならば何も言うまいよ。これからもよろしくな、………」

村長は村の住民として認める証を示すように、最後に男の名前を呼んだ。

「ありがとうございます。」

男は村長に頭を下げた。


…男は知らなかった。

男が感じていた平和というのは、ただこの村の中だけのものだという事を。

この世界でも、平穏などというものは崩れ得るものなのだという事を。


男の住んでいる村は、炎に包まれた。

そして、外から何者かが続々と入ってきて村人達を虐殺していく。

「なんだこれは…?」

男はなにが起こったのか分からなかった。

しかし、この光景を男は見たことがある。

かつて戦争に駆り出された時と同じ惨劇が今、目の前で起きている。

「………」

うめき声のような微かな音が聞こえた。

「…村長!」

もう、虫の息の村長が男に呼びかけていた。

「逃げろ…生きて……」

村長は侵略者の1人にとどめを刺された。

「村長!」

男は吠えた。

自身の夢見た楽園が目の前で壊れていった。

「けっ、死に損ないのジジイがよ。…お前も殺してやるよ。」

その侵略者は村長を葬った後、男に近づいてくる。

男は自身の無力を呪った。

そして、男は侵略者達を呪った。

憎むべき者どもを滅ぼすための力を望んだ。

その時、男の頭に聞き覚えのある声が聞こえた。

「力を望むか…?」

世界を渡る時に聞いた声だ。

「あぁ、寄越せ!」

男は力を欲していた。

故にその言葉を断る理由はない。

「良かろう。お主に力を与える。お主の力は…」


血飛沫が上がる。

男に聞きかかろうとした侵略者の体はバラバラに吹き飛んでいた。


侵略者達を率いている長は異変に気づく。

自分の部下の死体が所々にあったのだ。

ここの村民に殺される程の軟弱者は連れていなかった。

だが、原因はすぐに現れた。

男が、侵略者の長の目の前に立っていた。

「貴様が我が部下を…」

「答えろ」

長の言葉を男は聞かなかった。

「お前は誰かの手下か?」

「…そうだ、と言ったら。」

「名前を言え。」

「ふん、いいだろう。我は魔王様の配下が1人…」

侵略者の長の体は、吹き飛ばされていた。


「お主の力は『破壊』と『創造』だ。そして、お主はこれから元の名前を捨て、こう名乗れ。『セクメト』と。」


「魔王…」

長の言っていた言葉で、セクメトの倒すべき敵を理解する。

「いつか、そいつを滅殺する…!」

その日、『破壊者』であり『創造者』であり、そして『復讐者』であるセクメトはこの世界に誕生した。

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