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魔王の身代わりで勇者に殺されました。今世では普通に生きると決めましたが、世界が俺を放っておいてくれません。  作者: 瀬綺ララ


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9/9

復讐は成功しましたが、ヒロイン三人が俺を離してくれません

 しばらくしてスピカが戻ってきた。


「スピカ!」


 俺を見るなり、強く抱きついてきたスピカ。視界ががくんと揺れる。


 スピカは俺の頭に腕を回し、額を肩に擦りつけてきた。肩がじんわりと熱く、そして濡れるのを感じる。


「心配かけてごめんな」


 俺もまた、スピカの背中に腕を回した。そうしてしばらくの間、お互いを抱きしめ合っていた。





『じゃあ、この人が本当の魔王?』


 スピカはすぐ傍で眠っているヴァレンティナを一瞥した。ヴァレンティナの胸元には、スピカが先程まで羽織っていたブランケットがかけられている。


「うん。俺は元々魔王様の眷属だった。といっても、虫も殺せないほどの役立たずだったけどな」


 スピカはクスクスと笑う。


『クオーレは本当は魔王なんかじゃないって、私もずっと思ってたの。だって、全然そんな感じじゃないもん』


「はは……俺、弱っちいだろ」


『弱いんじゃなくて、優しいの』


 スピカが俺の肩に頭を預けてくる。俺の心臓は、ドクドクと早鐘を打っていた。


『私は、そんなクオーレのことが好きだよ』


 スピカは、頬を赤く染めている。俺に向ける視線には、いつものような「子供扱い」は感じられなかった。


 これ、もしかして……チャンスなんじゃないのか。俺、今度こそ女の子にモテてるんじゃないのか。


 え? 良いの? やっちゃって良いの? 俺、ハッピーになっちゃっても良いの?


 でも。ここでやらなくちゃ、逆に男が廃るよな。


 よ、よーし。


 俺は何度も呼吸を繰り返す。少しだけ脈が落ち着いたのを確認してから、スピカの両肩を掴んだ。


「スピカ!」


 スピカがきょとんと目を丸くさせる。


「あ、あの、俺、……俺は、スピカのことが」


 そう言いかけた時だった。


 すぐ傍でヴァレンティナが身動ぐ気配がした。


「!」


 俺はスピカをすかさず背後に回し、ヴァレンティナの動向を警戒する。


「スピカ。俺が合図をしたら、すぐに逃げろよ」


 スピカはこくりと頷いた。


 ヴァレンティナは眉間に皺を寄せながら、少しずつ目を開いていった。虚な瞳が俺を見つめ、次第に焦点を合わせていく。


【……ろせ】


 ヴァレンティナはやがて、小さな声で呟いた。


【私を殺せ、クオーレ。貴様は私に勝ったのだ。私を殺す義務がある】


 酷く乾いた、感情のない声だった。全てを受け入れ、諦めてしまったかのようだ。


 しかし、彼女の表情は安らかだった。そんな表情のヴァレンティナを見るのは初めてだ。


 こうして落ち着いた彼女を見ていると、これまで気が付かなかったのが信じられないくらいに、魔王様は女の子らしい顔立ちをしている。


「……なあ、ヴァレンティナ様。何であんたは男のフリなんかしてたんだ」


【生まれた時から、男として育てられてきた。私はこれ以外の生き方を知らない】


……そうだよな。あんたはそういう人だよな。


 あんたは魔王になるに相応しい強い奴だったから、立ち止まらずにここまで来れてしまった。


 だからだろうか。俺は、俺のことを裏切ったあんたを憎み切れないんだ。


「……ヴァレンティナ様は以前、俺に言ったよな。『何故反撃しないんだ』って。俺はずっと、誰かを殺すのが怖いからだと思ってた。でも、もしかしたらそれだけじゃないかもしれない」


 目元にかかりそうな彼女の髪を、指先で払う。


 風の噂で聞いたことがある。魔王になる方法。それは、先代の魔王を殺すことだ。そして、先代の魔王はヴァレンティナの父親だった。


 生まれながらにして男として、そして次期魔王として育てられたヴァレンティナ。魔力もあり、権力もあり、女性に囲まれ、男ならば誰もが憧れる立場にいながら、俺の目に映るヴァレンティナは、いつも寂しそうだった。


「俺は力なんて欲しくないよ。だって、それを持ってるはずのあんたが、全然幸せそうに見えなかったんだ」


【幸せ……】


「だから、俺はあんたを殺さない。あんたを恨む理由はいくらだってあるけど、それでもあんたを殺さないことを選んだんだ」


 あんたが俺に、「怒れ」と言った。「怒ることで強くなれ」と。


 だから俺は、あんたの指示には従わない。


 殺す以外の方法で、あんたに圧倒してみせる。




 それが、俺にとっての復讐だ。




「ヴァレンティナ様……()()を恨みながら生き続けるのは辛いだろ」


 俺はヴァレンティナに回復魔法をかけた。肌についた傷が、乱れた髪が、服が、幼い顔貌が、みるみるうちに俺の良く知るヴァレンティナへと変わっていく。


 たったひとつだけ違うのは、「彼」が仮面の下に被っていた弱さを、知ってしまったことだった。


 呆然と目を瞠っていたヴァレンティナが、くしゃっと顔を歪ませた。


【……認めよう。私の負けだ】


 ヴァレンティナが目を閉じると、目尻から一筋の涙がこぼれ落ちた。








『ぱんぱかぱーん!』







 俺の頭に突如として鳴り響く、ファンファーレ。


 おいおい、嘘だろ。雰囲気ぶち壊しじゃねぇか。


『ヴァレンティナの好感度が+10付与されました。一定の好感度を取得したため、報酬を獲得できます。どの報酬を選びますか?』


 俺の目の前に4つの板が……って、何で今日は4つなんだよ。




『1.聴力を回復する』


『2.スピカにキスをする』


『3.ヴァレンティナにキスをする』


『4.あなたの素晴らしい神、エルルにキスをする♪』





 なんだよ、この選択肢。実質2択……いや、一択だな。




 俺は一番上の選択肢を選んだ。その途端、俺の頭に突風のように情報がなだれ込んでくる。


 風の音。木の葉が揺れる音。鳥の鳴き声。


 そして、ポンと音を立て、俺の目の前に一人の女性が現れた。


「クオーレ様、どうして私にキスをしてくださらないの?」


 エルルだった。


……お前、別に夢を介在しなくても出現できるんだな。


「クオーレ様が私を選んでくれるのをずっと待ってたのに!」


「たとえハーレム願望があったとしても、お前だけは絶対に選ばない」


「何でよ! 私、こんなに可愛いのに!」


 そういうところだよ。


「あのー……クオーレさん」


 背後から、鈴を転がしたような声がする。


「その女の人、誰ですか?」


 スピカだった。


 ああ、スピカ。俺の癒し。想像通りの可愛い声。最高だ!


「えっと、紹介するよ。こいつは_____」


 エルルが俺の腕にギュッと抱きつく。


「私は神のエルル。そしてクオーレ様は、私の婚約者よ」


「「「えっ」」」


「ねー、クオーレ様! 私達、ポトポト山でデートもしたものね」


 どこだよそこ。


「クオーレさん、そうなんですか?」

 

 ああ、スピカが俺に疑いの目を向けている! せっかくさっきまで良い雰囲気だったのに!


「ほう、神か。我がライバルには相応しい相手だ」


 ヴァレンティナが不敵な笑みを浮かべる。


 何であんたも張り合うんだよ。


「しかし残念だな。クオーレはお前にはやらん。私の代わりに魔王になってもらうと決めているんだ」


「いつ!? いつ決めたんだよそんなこと!?」


「つい先程、貴様に負けた瞬間からだ。貴様には魔王になってもらい、そして世継ぎを作ってもらう。私との間にな」


 嫌だよ! 俺が死ぬの確定してるじゃん!


 エルルが右腕に、そして左腕にはスピカがギュッと抱きついてきた。


「二人とも、ちょっと待ってください! クオーレさんは人間なんですよ! 神様のお婿さんになるつもりも、魔王になるつもりもありません! だって、クオーレさんは私の……っ」


 そこまで言って、スピカは顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。


 何故だろう。俺も何だか、恥ずかしくなってきた。




「クオーレさん」

「クオーレ」

「クオーレ様♪」




 3人の綺麗な女性が、少し怒った顔をして俺を見つめてくる。




「私と一緒に生きましょう! あなたは人間です!」

「貴様は永劫に私のものだ。拒否権はない」

「クオーレ様は、こんなに美人で完璧な私を放っておいたりしないわよね?」





 俺はこの時悟った。


 俺には女難の相があるらしい。


 そして、俺の望む「普通の生活」は、当分訪れることがなさそうだ。













魔王の身代わりで勇者に殺されました。今世では普通に生きると決めましたが、世界が俺を放っておいてくれません。


〜完〜

 

 

ここまで読んでくださりありがとうございました。


もしかしたら、続編か番外編(個別ルート)を書くかもしれません。


よろしければ、評価やブックマーク、感想などをくださると嬉しいです。


「ヒロインの中でどのキャラが一番可愛いか」もぜひ教えてください。

作品作りの参考にさせていただきます。



改めて、最後までお読みいただきありがとうございました。

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