復讐は成功しましたが、ヒロイン三人が俺を離してくれません
しばらくしてスピカが戻ってきた。
「スピカ!」
俺を見るなり、強く抱きついてきたスピカ。視界ががくんと揺れる。
スピカは俺の頭に腕を回し、額を肩に擦りつけてきた。肩がじんわりと熱く、そして濡れるのを感じる。
「心配かけてごめんな」
俺もまた、スピカの背中に腕を回した。そうしてしばらくの間、お互いを抱きしめ合っていた。
『じゃあ、この人が本当の魔王?』
スピカはすぐ傍で眠っているヴァレンティナを一瞥した。ヴァレンティナの胸元には、スピカが先程まで羽織っていたブランケットがかけられている。
「うん。俺は元々魔王様の眷属だった。といっても、虫も殺せないほどの役立たずだったけどな」
スピカはクスクスと笑う。
『クオーレは本当は魔王なんかじゃないって、私もずっと思ってたの。だって、全然そんな感じじゃないもん』
「はは……俺、弱っちいだろ」
『弱いんじゃなくて、優しいの』
スピカが俺の肩に頭を預けてくる。俺の心臓は、ドクドクと早鐘を打っていた。
『私は、そんなクオーレのことが好きだよ』
スピカは、頬を赤く染めている。俺に向ける視線には、いつものような「子供扱い」は感じられなかった。
これ、もしかして……チャンスなんじゃないのか。俺、今度こそ女の子にモテてるんじゃないのか。
え? 良いの? やっちゃって良いの? 俺、ハッピーになっちゃっても良いの?
でも。ここでやらなくちゃ、逆に男が廃るよな。
よ、よーし。
俺は何度も呼吸を繰り返す。少しだけ脈が落ち着いたのを確認してから、スピカの両肩を掴んだ。
「スピカ!」
スピカがきょとんと目を丸くさせる。
「あ、あの、俺、……俺は、スピカのことが」
そう言いかけた時だった。
すぐ傍でヴァレンティナが身動ぐ気配がした。
「!」
俺はスピカをすかさず背後に回し、ヴァレンティナの動向を警戒する。
「スピカ。俺が合図をしたら、すぐに逃げろよ」
スピカはこくりと頷いた。
ヴァレンティナは眉間に皺を寄せながら、少しずつ目を開いていった。虚な瞳が俺を見つめ、次第に焦点を合わせていく。
【……ろせ】
ヴァレンティナはやがて、小さな声で呟いた。
【私を殺せ、クオーレ。貴様は私に勝ったのだ。私を殺す義務がある】
酷く乾いた、感情のない声だった。全てを受け入れ、諦めてしまったかのようだ。
しかし、彼女の表情は安らかだった。そんな表情のヴァレンティナを見るのは初めてだ。
こうして落ち着いた彼女を見ていると、これまで気が付かなかったのが信じられないくらいに、魔王様は女の子らしい顔立ちをしている。
「……なあ、ヴァレンティナ様。何であんたは男のフリなんかしてたんだ」
【生まれた時から、男として育てられてきた。私はこれ以外の生き方を知らない】
……そうだよな。あんたはそういう人だよな。
あんたは魔王になるに相応しい強い奴だったから、立ち止まらずにここまで来れてしまった。
だからだろうか。俺は、俺のことを裏切ったあんたを憎み切れないんだ。
「……ヴァレンティナ様は以前、俺に言ったよな。『何故反撃しないんだ』って。俺はずっと、誰かを殺すのが怖いからだと思ってた。でも、もしかしたらそれだけじゃないかもしれない」
目元にかかりそうな彼女の髪を、指先で払う。
風の噂で聞いたことがある。魔王になる方法。それは、先代の魔王を殺すことだ。そして、先代の魔王はヴァレンティナの父親だった。
生まれながらにして男として、そして次期魔王として育てられたヴァレンティナ。魔力もあり、権力もあり、女性に囲まれ、男ならば誰もが憧れる立場にいながら、俺の目に映るヴァレンティナは、いつも寂しそうだった。
「俺は力なんて欲しくないよ。だって、それを持ってるはずのあんたが、全然幸せそうに見えなかったんだ」
【幸せ……】
「だから、俺はあんたを殺さない。あんたを恨む理由はいくらだってあるけど、それでもあんたを殺さないことを選んだんだ」
あんたが俺に、「怒れ」と言った。「怒ることで強くなれ」と。
だから俺は、あんたの指示には従わない。
殺す以外の方法で、あんたに圧倒してみせる。
それが、俺にとっての復讐だ。
「ヴァレンティナ様……自分を恨みながら生き続けるのは辛いだろ」
俺はヴァレンティナに回復魔法をかけた。肌についた傷が、乱れた髪が、服が、幼い顔貌が、みるみるうちに俺の良く知るヴァレンティナへと変わっていく。
たったひとつだけ違うのは、「彼」が仮面の下に被っていた弱さを、知ってしまったことだった。
呆然と目を瞠っていたヴァレンティナが、くしゃっと顔を歪ませた。
【……認めよう。私の負けだ】
ヴァレンティナが目を閉じると、目尻から一筋の涙がこぼれ落ちた。
『ぱんぱかぱーん!』
俺の頭に突如として鳴り響く、ファンファーレ。
おいおい、嘘だろ。雰囲気ぶち壊しじゃねぇか。
『ヴァレンティナの好感度が+10付与されました。一定の好感度を取得したため、報酬を獲得できます。どの報酬を選びますか?』
俺の目の前に4つの板が……って、何で今日は4つなんだよ。
『1.聴力を回復する』
『2.スピカにキスをする』
『3.ヴァレンティナにキスをする』
『4.あなたの素晴らしい神、エルルにキスをする♪』
なんだよ、この選択肢。実質2択……いや、一択だな。
俺は一番上の選択肢を選んだ。その途端、俺の頭に突風のように情報がなだれ込んでくる。
風の音。木の葉が揺れる音。鳥の鳴き声。
そして、ポンと音を立て、俺の目の前に一人の女性が現れた。
「クオーレ様、どうして私にキスをしてくださらないの?」
エルルだった。
……お前、別に夢を介在しなくても出現できるんだな。
「クオーレ様が私を選んでくれるのをずっと待ってたのに!」
「たとえハーレム願望があったとしても、お前だけは絶対に選ばない」
「何でよ! 私、こんなに可愛いのに!」
そういうところだよ。
「あのー……クオーレさん」
背後から、鈴を転がしたような声がする。
「その女の人、誰ですか?」
スピカだった。
ああ、スピカ。俺の癒し。想像通りの可愛い声。最高だ!
「えっと、紹介するよ。こいつは_____」
エルルが俺の腕にギュッと抱きつく。
「私は神のエルル。そしてクオーレ様は、私の婚約者よ」
「「「えっ」」」
「ねー、クオーレ様! 私達、ポトポト山でデートもしたものね」
どこだよそこ。
「クオーレさん、そうなんですか?」
ああ、スピカが俺に疑いの目を向けている! せっかくさっきまで良い雰囲気だったのに!
「ほう、神か。我がライバルには相応しい相手だ」
ヴァレンティナが不敵な笑みを浮かべる。
何であんたも張り合うんだよ。
「しかし残念だな。クオーレはお前にはやらん。私の代わりに魔王になってもらうと決めているんだ」
「いつ!? いつ決めたんだよそんなこと!?」
「つい先程、貴様に負けた瞬間からだ。貴様には魔王になってもらい、そして世継ぎを作ってもらう。私との間にな」
嫌だよ! 俺が死ぬの確定してるじゃん!
エルルが右腕に、そして左腕にはスピカがギュッと抱きついてきた。
「二人とも、ちょっと待ってください! クオーレさんは人間なんですよ! 神様のお婿さんになるつもりも、魔王になるつもりもありません! だって、クオーレさんは私の……っ」
そこまで言って、スピカは顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。
何故だろう。俺も何だか、恥ずかしくなってきた。
「クオーレさん」
「クオーレ」
「クオーレ様♪」
3人の綺麗な女性が、少し怒った顔をして俺を見つめてくる。
「私と一緒に生きましょう! あなたは人間です!」
「貴様は永劫に私のものだ。拒否権はない」
「クオーレ様は、こんなに美人で完璧な私を放っておいたりしないわよね?」
俺はこの時悟った。
俺には女難の相があるらしい。
そして、俺の望む「普通の生活」は、当分訪れることがなさそうだ。
魔王の身代わりで勇者に殺されました。今世では普通に生きると決めましたが、世界が俺を放っておいてくれません。
〜完〜
ここまで読んでくださりありがとうございました。
もしかしたら、続編か番外編(個別ルート)を書くかもしれません。
よろしければ、評価やブックマーク、感想などをくださると嬉しいです。
「ヒロインの中でどのキャラが一番可愛いか」もぜひ教えてください。
作品作りの参考にさせていただきます。
改めて、最後までお読みいただきありがとうございました。




