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魔王の身代わりで勇者に殺されました。今世では普通に生きると決めましたが、世界が俺を放っておいてくれません。  作者: 瀬綺ララ


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3/9

ラッキースケベは突然に。

 目を覚ました俺が最初に見たのは、いつもの暗闇……ではなく、灰色の石壁だった。


 俺、目が見えてる。


 自分の体を見回す。夢の中で見た通りの細っこい体だ。もちろん筋トレも今まで通りできる。


 それから……ああ、やっぱりあった。心臓に貼りついている刻印_____俺が魔王、ヴァレンティナの眷属であることの証。


 刻印を消す条件はふたつある。

 


ひとつは、主人が、自分の意思で主従関係を切りたいと望んだ時。

もうひとつは、主人が死んだ時。

 


 刻印が消えていないということは、ヴァレンティナはまだ生きているし、俺との主従関係をやめるつもりもないということだ。


 ヴァレンティナが何を考えてんのか分からない。

 俺は低級眷属で、死ぬのが怖くて死んだフリで誤魔化そうとする雑魚なんだぞ。


 俺を眷属にしたままにしておくことで、あっちに得があるとは到底思えないがな……。


 何度も瞬きを繰り返し、牢屋を見回し、少しずつ、これが現実であることを受け入れる。

 

 さっきの夢は嘘じゃなかった。俺が人間に生まれ変わったことも、魔王の生まれ変わりと勘違いされていることも、事実ということだ。


 そして、あいつが本物の神様らしいってことも……。


 しかし、「目が見えるようになる」だなんて、思っていたよりも規模が小さいな。神様なら、五感の全部を回復するくらいしてくれたって良いのに。


 確かに目は見えるようになったが、依然として耳は聞こえないし、声も出せないし、これじゃあ以前とあんま変わらないぞ。


 でも、考えてもしょうがないか。久しぶりに視力を取り戻したんだ。一旦は喜ぶべきだな。


 さて、俺はこれからどうしたものか。

 


 案1。隙をついて逃げ出す。魔法も使えないこの状況で、できることは何もない。野生の動物に食われるのがオチだ。


 案2。この牢屋で飼われ続ける。復讐なんて面倒なことはやめて、ここで飼い殺しされるのも、選択としてはある。あるだけで、絶対に選びたくはないが。


 案3。とりあえず筋トレをする。



 うん、筋トレをしよう!



 俺が腕立て伏せをしていると、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが、床の振動で分かった。顔を横に向ける。牢屋の前に、一人の少女が現れた。


 人間だから、恐らく前世の俺よりは年下だろう。だが、外見的には前世の俺と同じくらいか、少し下。そして、今世の俺にとっては年上である。


……ん? なんだあれ。


 と、そこで俺はあるものに気がついた。


 少女は、長くてふわっとした茶色い髪を、紐でひとつにまとめている。綺麗な髪だ。いや、問題はそこじゃない。


 少女の頭上に、妙なものがふよふよと浮かんでいるのだ。


 記号……いや、あれは文字か? 読むことはできないが、何かしら意味がありそうなのは分かる。


 とか何とか思いながら少女の頭上を凝視していたところ、少女は鍵を使って牢屋に入ってきた。俺が身構えていると、少女はゆっくりと俺の方へ歩いてきて、食事の入った皿を置く。


 目が合う。少女はハッと目を見開き、俺から距離を取る。


 俺が視力を取り戻したことがバレてしまったらしい。


 その瞬間、目の前に3つの長方形の板のようなものが現れる。縦に並べられた横長の板には、それぞれ、頭上の文字と似たようなものが記されている。


 な、なんだこれ。マジでなんだこれ。何がなんだかさっぱり分からない。


 もしかして触れるのか、これ。


 俺は手を伸ばして、一番上の板に触った。すると、触った板が光り、3つの板は消失した。


 え、なんだ、どういうこと_____


 疑問を覚える間も与えられず、俺の体が勝手に、操られているみたいに動く。伸びた2本の腕が、少女の方へと伸ばされ_____



 ふにっ



 や、柔らかい。……じゃなくて、何だよこれ!


 止まれよ! おい、止まれってば!


 手は相変わらず、俺の意思に反して動いている。顔を真っ赤にさせた少女の頭上で、暗号みたいな文字が形を変え、頭の中で謎の声が聞こえた。

 



『スピカの好感度が+1、付与されました』






 

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