魔王の生まれ変わりと勘違いされた俺、なぜか地下牢送りになる
俺の名はクオーレ。魔族遣いが荒い冷徹上司……ゲフンゲフン。ではなくて、この世で最も素晴らしき存在であらせられる魔王様に仕える、低級眷属の1匹だ。
低級眷属の仕事は、上級眷属様のストレス解消相手になること。殴られ蹴られ、地面に這いつくばりながら「もっと私にお仕置きしてくださいご主人様♡」と言うこと。
……クソ喰らえ。
俺は絶対に嫌だが、極一部の物好きな奴にとってはご褒美かもしれない。何故なら、魔王様の好みなのか、上級眷属は綺麗な女性ばかりが揃えられていたから。
そんな上級眷属様も、勇者パーティによって1匹残らず討伐されてしまったのだが。
いや、上級眷属だけじゃない。魔王様の眷属は、俺を除いて、みんな殺されてしまった!
ここでナイスなタフガイなら、「俺は構わずに先に行け!」とか言ってかっこよく命を散らすのだろうが、俺は違った。
死体に紛れて死んだふりをして、ガクブル震えていたところをあっさりと魔王様に見つかり、掃き溜めを見るような目と共に、
「身代わりになれ」
と言い渡されたのである。
変身魔法により魔王様そっくりの姿に変えられた俺は、勇者にあっさりと殺された。奴の持っていた剣が首に当たり、首と胴体が切り離された、その感触をはっきりと覚えている。回復魔法を使う隙もなかった。
そう、殺されたはずなんだ。
しかし目が覚めると、俺は暗闇の中にいた。
真っ暗で、何の音も_____ 耳鳴りのひとつすらも聞こえない。
この感覚には覚えがある。敵の魔法をくらって、五感を全て奪われたことが昔あったのだ。
その時と似た状況に、俺は置かれている。
何故かは知らないが、俺は生きているらしい。
不幸中の幸いなのは、今回は嗅覚と触覚は奪われていないということ。最悪なのは、喋れないということ。
声を出そうとしても、喉が震えている気配が全くないのだ。
魔法を使うには、詠唱をする必要がある。声が出ないということは、一切魔法を使うことができないということである。
まがりなりにも魔王の低級眷属だった俺にとって、これはかなりの痛手だった。
そして、周囲に助けを呼ぶこともできやしない。
誰か助けてくれないかな。上級眷属様……はもういないんだった。
じゃあ魔王様。魔王様が助けにきてくれよ。身代わりになってあげたんだから、今度は俺のことを助けてくれたって良いだろ。
……いや、そんなことがあるはずないか。
自分でも分かっちゃいる。
低級眷属なんて、ただの都合の良い駒。
俺は魔王様の身代わりになり、見捨てられたんだ。
ま、見捨てられたなら仕方ないさ。切り替えていこう。
生きているだけハッピー×3。むしろ、魔王様の支配下から逃れられたってことは、俺、自由の身じゃんね。
これからどうしようかなぁ。……彼女、欲しいなぁ。
優しくて、穏やかで、俺のことを殴ってこない娘が良いなぁ。
……って、そんな簡単に全てを受け入れられるわけないだろ!
魔王め。散々俺をこき使うだけこき使って、用済みとなりゃすぐにポイか。どこまで冷徹でいれば気が済むんだ!
あんたのせいで俺の故郷がなくなっちまったから、俺はあんたに従うしかなかったってのに!
ああ、クソ。声さえ出せれば、枯れるまで恨みつらみを叫んでやるのに。
悔しい悔しい悔しい!
許せねぇ。
一度死んだ。そう思ったせいか、俺はやけに冷静でいられた。
殺されるのを恐れて、ガタガタ震えていた俺はもうここにはいない。
俺は生きてやる。これからも生き延びてやる。
この屈辱を、晴らしてやるよ。
*
俺は残っている嗅覚と触覚を使って、自分がどこにいるのかを確認した。カビ臭くて、ジメジメとした場所。地面はごつごつとした石のようなものでできていて、お世辞にも良い環境とは言えない。かろうじて、俺が寝かせられているところには藁が敷き詰めてあるくらいだ。
食事は何者かによって俺の口に運ばれた。最初は液体だったのが、次第に水に浸したパンのような柔らかい固形物に変わっていった。
生えた歯が少しずつ抜ける頃には、俺の食事は地面に置かれるだけになった。
暇すぎたせいで何もすることがなくて、俺は一日のほとんどを筋トレに費やすようになった。その結果、一度に与えられる食事の量は却って減らされてしまった。
俺を捕らえている奴等は、どうやら俺のことをかなり恐れているらしい。
でも、どうしてこんなに怖がられているんだろうな。俺はただの低級魔族、いわば雑魚なのに。
そこからまたしばらく経ったある日、俺は夢を見た。
青々とした空と、緑色の草原。果てしなく広がる自然の中程に俺は立っていた。俺の目の前にはもう一人、白いドレスをまとった綺麗な女性が立っていた。
俺よりも年上だろうか。
はっきり言って、俺は年上の女が嫌いだ。散々年上の女から虐げられてきたから。でも、不思議とその女性に対しては、恐怖や嫌悪感を抱かなかった。
俺は女性にしばらく見惚れていた。ドレスの開いた胸元から見える谷間が、男なら誰しもが憧れる豊満なモノが、俺の視線を釘付けにする。
俺に見られているのを知ってか知らずか、女性はうっすらと頬を赤く染めて、胸元を手で隠した。
「お会いできて嬉しいわ、クオーレ様」
人の形をしたそいつは、自分のことを神だと名乗る。
……は? 神様?
そう名乗られた途端、俺の中でこの女性の評価は、
「綺麗な女性」
から
「ちょっと頭のネジが緩んでいる人」
に変わってしまった。
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