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「ねぇ。おじいちゃんはどうするの?ご家族と住むの?領地のお爺様やお婆様のところへ行くの?行くところが決まっていなかったら、わたしと一緒にこの家に住まない?」
「お嬢様とですか?ああ、お嬢様はこの大きな家で、またお一人で暮らすことになるんですね。もう離れのお暮しではないのであれば、仕事を辞した今、わたくしも自由にして良いのかもしれないですね。お嬢様と暮らすのは楽しそうですね。ええ、お嬢様さえ良ければ、わたくしご一緒いたしましょう。」
「やった!おじいちゃんと一緒に暮らせる!嬉しい!あ、おじいちゃんに家族はいるの?」
「いえ、わたくしは独り身でずっと公爵家に仕えてきましたので、家族はいません。お嬢様と一緒に暮らせるのはわたくしも嬉しいです。ところでお嬢様はこの先、どのように暮らしていこうとお考えですか?」
「ギルドに登録したよ。10歳から登録できるの。そこで薬草採取して、ポーション作りを師匠に教えてもらって、ああ、おじいちゃん、わたしのスキル変っているの。一つは鑑定スキルで、もう一つがインベントリ。
このインベントリに、物を入れると故障しているものも、欠けたものも、全部新品になるの。復元するの。
この家も一度インベントリに入れて出したら新築みたいになったよ。魔石も一度インベントリに収納すると魔力がMAXに!
当分は鑑定スキルを使って薬草採取して、いずれポーション作れるようになったらそれを売って生活していくつもりで、大きくなって、自分の身を守れるようになったら、インベントリを使った、物を修復させて売りに行くのもありかなって思っていたよ。」
「お嬢様は本当、逞しいですね。あんな環境でこんなにしっかりお育ちになるとは。
そうですね。故障したものや壊れたものが直せるのであれば、わたくしの伝手で売り買いできましょう。ポーションを作るのは楽しそうですね。わたくしはお嬢様に教えていただきましょう。」
「ポーションが1人で作れるようになったら、おじいちゃんに教えるね!楽しみ。
あー。おじいちゃん、わたし今、男の子の恰好をして生活しているから、”お嬢様“という呼び名は変えた方がいいかも。見た目お嬢様じゃないし。」
「そうですね。わたくしにとって、どのような恰好をしていても、お嬢様はお嬢様ですが、確かに街中でお嬢様とお呼びすると危険が増しますね。お嬢様は今どのようなお名前で活動されているのでしょうか?」
「ギルドの登録は、女でも男でも、どっちでもいけるサンディっていう名前にしたよ。」
前世は小心者の貧乏性で劣等感を持ち、自分に自信がなく人の顔色見ていろんなものを諦めて生きてきた。でも、その前世のわたしは死んでしまったのだ。
なんていうのか、転生してから、呪われた子だと蔑まれ放置され軟禁されていたけれど、恨もうとか拗ねたりとかしなかった。なんていうのか、うじうじした部分、暗い部分、性格のマイナス部分が消えてしまったような気がするんだよね。もちろん、悲しい、寂しい、切ない、という感情はあったけど、ものすごく刹那的な感じで、長く続かなかったのだ。
黒目黒髪ってこの世界では自然と生まれないって聞いた、だから異質だ。異質だから馴染まないから嫌悪もされてきたけど、黒目黒髪が呪いだなんてわたしは信じていない。
それでも神様に目印をつけられた子である可能性は捨てられない。自然と黒目黒髪になったのではなくて、何か意味があったんだろうと思う。マイナス性格が消えてしまったのは不思議だもの。
だから、今世は毎日が日曜日みたいに能天気に生きよう。その日曜日のサンデーと、前世で母親が好きで聴いていた曲で、空耳でサンディと聴こえた曲。
その曲の歌詞の一部の信じる心を持っていつまでもっていうイメージを名前に込めてみた。そうだ。今世では自分を信じよう。楽しく生きるぞ!
「ほう、サンディ様ですか。お嬢様にぴったりで良いですね。」
「うん、気に入っているの。そうだ。おじいちゃんの部屋を作ろう。わたしの部屋の前で良い?二階6部屋あるんだよ。本当この家広くていいね。」
家の中を、家令を案内することにした。一階は、大きな台所に10人は座れるダイニングテーブル、家具は全部離れから持ってきたもの。大きなものしかなかったんだよね。
あと、今おじいちゃんと話をしていた応接室にした部屋が1室、トイレが何故か2個とお風呂場と少し大き目の倉庫が2個ある、2階が1部屋10畳ぐらいの部屋が6室も。
自分の部屋にだけ、絨毯を敷いてベッドとタンスと本棚を置いている。本棚は離れの図書室からそのまま持ってきた。へへへ。
「お嬢様のお部屋は、離れの時より空間が明るく感じられますね。良かったです。」
「へへへ。本棚置いて本ばかりなんだけど、それでも前よりずっと自分の部屋っていう感じになったよ。」
家令がにこにこ笑ってくれる。わたしも嬉しくなる。
家令が自分の部屋にしますと選んだ部屋には、シックな絨毯を敷いて、インベントリからベッドを出す。離れに置いてあったベッドの中から少し大き目のふかふかのものにした。
「サンディ様、このベッドはちょっと立派過ぎませんか?」
「いいの。いいの。おじいちゃん今までお疲れ何だもの、ゆっくり眠れるのがいいよ。」
家令に反論は許さない。いいベッドで寝てもらいたいもの。
リネン類も全部持ってきたから、使い放題だ。
座り心地の良い小型のソファーとローテーブル、物書き用の机と仕事用の椅子、クローゼットはもともとの部屋についていたので、家令の部屋はあっという間に、仕事もできる男の部屋っていう感じになった。いいぞ。
「サンディ様、ちょっとばかし、格の上のお部屋になっておりますが・・・。」
「いいのよ。おじいちゃん、わたしとおじいちゃんしかいないんだし。好きに暮らしていけばいいと思うの。」
「ああ、そうですね。では、そういたしましょうか。」
家令に頼まれて、空き部屋の一部屋はリネン室というのか離れに置いてあった、シーツ、毛布、マット、タオル、石鹸、魔石、カーテンなど、こまごまとした消耗品類を並べておくことにした。
いちいちわたしのインベントリから出していると準備ができないからだという。家令が下働きの手が欲しいですねと言う。わたしは一人でも大丈夫だけどね。
家令はマジックバッグを所持していたから、自分の荷物はそこに全部入っているのだそうだ。奥様には出ていけと言われたが、旦那様が惜しまれたので、いい金額の退職金をいただいたそうだ。だから、お嬢様はご無理なさらないでくださいと言われたけど、家令のお金で暮らしていくのはなんかおかしいから、やっぱりちゃんと働こうと思う。
その日は夜遅くまで家令と一緒にお話しをした。
離れに居た頃の何倍もお話をした。子どもの体で途中うとうとしてしまったら、家令が抱きかかえてベッドまで運んでくれたようだ。家令の体温に触れて自分は一人じゃないんだなと夢うつつで満たされた気になった。『おやすみなさいませ。お嬢様。』家令の声が遠くに聞こえたような気がした時には熟睡していた。




