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街の中心から郊外の自分の家まで歩いて30分ほどかかる。街の一の門を出て、まだてくてく歩く。出来るだけ実家から離れたところに住みたいと、家令に希望を出したからね。
どうせなら野菜を植えてみたかったし、憧れのスローライフいいね。いいね。っていう感じで郊外の一軒家。
元は裕福な豪農の家だったらしい。築40年ぐらいで10年ぐらい誰も住んでいなかったから、本当にぼろぼろだったけどね。買ったのはボロボロの家と少々広めの土地。土地に残っていた果実の木が何本かあった。赤い実がなっているので、りんごかもしれない。広い土地はまだ手を入れていないので草ぼうぼうだ。
一度建物全部をインベントリに収納し、出したら、なんてことでしょう。新築のようにぴかぴかでした。家の中のコンロやお風呂やトイレに使う魔石も魔力がMAX状態。
いやー。本当いいスキルいただいていました。呪われたと邪険にされたのはマイナスだったかもしれないけど、貰ったスキルはプラスで、わたしの中ではプラスマイナスゼロだ。何故か前世のマイナス感情も消えたので、黒目黒髪じゃなくなり、呪いだーとか言われなくなった今は、どっちかといえば、プラス寄り。残り人生エンジョイします!
あら?家の前に誰かいる。えー。家令?
「おじいちゃん!」
家令は前世の剣道の師範をしていた祖父に似ていたのと、この世界のたった一人の家族みたいだと思っているので、ずっと、二人っきりの時は、おじいちゃん呼びをさせてもらっている。家令も目を細めて笑ってくれているから、良しっていうことにしている。
「お、お嬢様!!」
「おじいちゃん、おじいちゃん、どうしたの?こんなところまで?」
家令に飛びつき抱き着いたら、しっかり抱き返してくれた。嬉しい。
「奥様が呪われてしまって、お嬢様がお亡くなりになったのではないかという話が出て、まぁあれやこれやいろいろありまして、公爵家からお暇をいただき、取りもとりあえずお嬢様が心配で駆け付けたところでございます。」
「うーん。いろいろのところのお話が聞きたいので、どうぞおうちの中にお入り下さい。おじいちゃんが買ってくれた家だけどねー。」
「わたくしが購入しました時は、これほど綺麗ではなかったようですが、まぁよろしいでしょう。お邪魔いたします。」
「おじいちゃん、この家、本当に良いです。買ってくれてありがとう。」
「いえいえ、お嬢様にかかる費用は本当に少なく、この家なんて公爵家の奥様のドレス1枚より安かったのです。餞別にいただくには安過ぎましたが。お嬢様が離れの中身をすべて持ち出されたのを知って、いい感じに帳尻着いたかなとは思いましたが。」
「えへへへ。いただけるものは全部いただきました!」
「お嬢様が逞しくお育ちで本当に良かったです。」
「それにしても、おじいちゃん、家から暇をもらったっていうことは、お仕事辞めてきたの?」
「ええ、奥様の髪と目の色が黒く染まった朝、奥様から呪われた子を逃がしてしまった責任を取れと言われまして。旦那様からは辞めて欲しくないと言われたのですが、お嬢様を蔑ろにしてきた旦那様と奥様に仕えるのも辛くなって参りましたので、ここが潮時かと。後任も二人育てておりましたので、もう良いかと辞めてきたところです。」
「あー。呪いっていうのか黒目黒髪って本当に母親に移ったんだ。笑える。でも、わたしのせいでおじいちゃん仕事無くなったんだよね。ごめんなさい。」
「仕事は辞め時だから良いのですよ。それにしても、お嬢様、黒目黒髪はどうされたのですか?」
「呪いというのか黒目黒髪を解除する方法が本に載っていて、美の女神像の前で髪の毛をつるつるに剃って、真摯にお祈りしたら解除できたよ。」
「それで、今、髪の毛がそんなに短いのですか。よくまぁ女の子がつるつるにできましたね。奥様にはできない解除方法ですね。」
「まだ子どもだし、つるつるも一度してみても面白いかなって。それに、つるつるにすれば、黒目黒髪のままであっても、しばらくは周囲の目をごまかせそうだし。黒目黒髪じゃなくなったらそれはそれでラッキーだしね。それにしてもお母様はどんな感じだった?」
「奥様は取り乱されて、リリアーナ様お嬢様が、あ、お嬢様のお姉様ですよ。正論で責めておられましたね。」
「正論で責める?どんな感じ?」
そう聞くと家令は修羅場の話を教えてくれた。
~実家の修羅場とは~
「お母様、呪われてしまわれたのですね。じゃ、離れで軟禁か、修道院へ行っていただくか、領地の隅に引っ込んでいただくかですね。」
「な、なにを!わたくしは、公爵家の正妻であり、社交界一の美姫と謳われた宮廷の大輪の花ですよ。そ、それを軟禁だとか修道院とか引っ込んでとか、母親に向かって酷すぎます!」
「自分で美姫だとか大輪の花とか言っていて恥ずかしくないのですか。まぁそれはいいとして、お母様、呪われてしまっちゃったじゃないですか。黒い目に黒い髪をしていたら、処分されても仕方がないって、いつもそうおっしゃっていたじゃないですか。」
「あ、あれは、あの子だからいいのです。あの子は呪われた子だから・・・。」
「でも、今はお母さまが呪われたんですよ。一緒じゃないですか?どこが違うのですか?」
「わたくしは、ただ目と髪が黒くなっただけで、何も悪いことをしていません!あの子とは違うのです!早く、呪術師を呼んできなさい。一刻も早くこの呪いを解除させなさい!」
「何故?あの子は赤ちゃんで生まれたばかりで、何も悪いことなんてしていないのに、あの子だって、ただ目と髪が黒かっただけじゃないですか。それなのにお母様は、あの子を離れに追いやり、顔も見ず、一緒に食事もせず、会話もなく、ドレスも与えず、家庭教師も専属の侍女もつけずに、15歳になったら処分するって堂々とおっしゃっていたじゃないですか?あの子のために呪術師を呼ばれたことも無かったですよね。何故、お母様の時だけ違うのですか?一緒でいいじゃないですか?10年もあの子にしたこと。お母様も経験なされたらいかがですか?」
「違う、違う。わたくしは違う。呪われたのはあの子でわたくしは違う・・・。」
「見苦しい。ラフィーネ、君が死ぬと呪いが移るかもしれないから、殺しはしない。長生きしてもらいたいから、領地でゆっくりしてくれ。」
「あ、旦那様までそんなことおっしゃるのですか!わたくしを愛していると、わたくしだけを一生大切にすると、おっしゃったじゃないですか!?」
「ああ、それは呪われる前だ。君は呪われてしまった。一緒にいるとわたしまで呪われてしまうかもしれない。それはちょっと許して欲しい。」
「そ、そんな・・・。」
「父上も一緒に領地へ行って下さい。領地にはお爺様、お婆様もいらっしゃいます。大人しく一緒に隠居していただけませんか。」
「く、クリス!何を!」
「あの子を10年間、呪われた子だと放置し無視してきて、その結果亡くなって、呪いがお母様に返ってきた事実は醜聞です。今、引退した方が世間的に良いと思いますよ。子殺しは大罪ですよ。」
「ああ・・・。わ、わたしは殺していない。」
「あれだけ放置して殺したも同罪でしょう。わたしも18歳になります。この公爵家を継ぐ覚悟はできています。父上は母上と一緒に引退された方が楽になりますよ。」
「い、嫌だ。呪われたラフィーネと一緒にいるのは嫌だ。」
「だ、旦那様!!」
「じゃ、父上は、お爺様お婆様と一緒にお住みになって、母上は昔叔母様がご養生されていた離れにお住みになれば良いのではないですか?」
「そうね。お母様はあの離れがお似合いですわ。呪われてしまったのですもの、もう社交界にも外にも出ることはできませんし。あの子のいた離れよりも領地の離れは近くに湖もありますし景色も良いと思いますよ。」
「わかった。クリスに爵位は譲り、父上と母上のところへ行く。ラフィーネは領地の離れに行け。わたしは今後ゆっくりさせてもらう。」
「ジャン、マリーネ、母上を領地の離れに送ってくれ。」
「「はい。坊ちゃま。」」
「い。嫌。わたくしは、公爵家の・・・。」
「お母様、呪われてしまわれたのだから、諦めて下さい。既に髪も目も真っ黒ですよ。お母様があの子にしたように、お母様も閉じ込められるだけですよ。命まで取りません。病になってしまったことにさせていただきます。呪われたことも黙っておきますから。」
お母様はしばらく暴言を吐き抵抗していた、あれで宮廷の大輪の花だとか恥ずかしすぎる。
お父様もお母様も部屋を出ていって急に静かになってしまった。お兄様がなんともいえない顔をして立ち尽くしている、わたしも同じ顔をしているのかもしれない。
「お兄様、あの子、本当に亡くなってしまったんでしょうか?」
「さぁわからない。呪い返しは子どものうちに亡くなったら親に移るという話は聞いたことがあるが、呪いの解除方法や亡くならなくても親に移す方法があるのかどうかは知らない。もっと勉強しておけば良かった・・・。」
「あの子が生まれるって聞いた時、嬉しかった。妹か弟ができるって聞いて、早く会いたかった。それなのに、髪と目が黒いから呪われた子だと言われて、一度も会えなかった。あの子は独りぼっちで、ずっと離れにいたんだわ。お姉様って呼んで欲しかった・・・。」
「父上は事なかれ主義で母上を溺愛していたからね、母上に、呪われた子には絶対会いたくない。遠くに追い遣って欲しいって言われて離れに押し込め、一度も会いに行っていない。実の親なのに、なんであんなこと出来たんだろうね。
でも、わたしも会いに行けなかった。学園や友人との付き合いで忙しいことを理由に、万が一自分も呪われたらどうしようと一抹の不安を解消することもできずに、あの子に会えなかった。
どうしようもないのはわたしも一緒だ。せめて、もしあの子が亡くなってしまったのだとしたら、あの子の冥福を祈りたい。」
「ええ、わたくしも同じ。侍女に、あの子に会うと呪いが移るかもしれないと脅され見張られて行けなかった。
家令が時々会っているのを知って羨ましかった。家令はぜんぜん呪われていなかったわ。
わたくしも会いに行けば良かった。あの子が生きていればいいのに。いつか会えたらいいのに。あの子とは血が繋がっているからなのか、まだ亡くなっていないとわたくしは思うの。これがそうであって欲しいという期待かもしれないけど。」
「そうだね。確かに。母上が呪われて、あの子が亡くなったかもしれないと思ったけど、そのわりには、心の中が空虚になっていないんだ。あの子の分が減っていない気がする。
逃げて逞しく生きてくれたらいいね。そして、いつかあの子がここに戻ってきてもいいって思ってもらえるような状況にしておきたいね。
それに子殺しは大罪、あの子は死んだのではなく外に出ることもできないぐらいの病弱ということで、籍は残しておこう。」
「ええ、お兄様、いつかあの子が戻って来ることが出来るように、二人で立派な公爵家にしましょう。」
と、そんな感じでございました。と家令から話を聞いた。
お兄様とお姉様が存在していたんだ。そして両親は思っていた以上に屑で、お兄様とお姉様は、とても、まともだった。いつかね、会える日がくるんだろうか。今は、今の現状に満足しているから、当分は戻る気ないけどね。




