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ぼろぼろの家は一度自分のインベントリに収納し、出したら新築同様になっていた。なんかそういう仕様なんだよね。最初古いドレスをインベントリにしまってから、どこかに売りにいこうかと再度出してみたら、新品になっていて、あれ?と思って、いろいろ試したところ収納すると壊れていたものも、欠けたものでもすべて新品で復元するということがわかった。
多用しなければ、これで一儲けも出来そうだ。まぁ家もあるし、仕事もあるから今はしないけどね。まだ10歳。自分の身を守れないうちは、余計なことはするつもりはない。
郊外の家は、この古さ加減を他人は誰も真剣に気にしていないだろうから、いつの間にか新築みたいになってもいいだろう。街の一の門の外だし、冒険者にしても魔物のいる草原やダンジョンのある方角じゃないからあまりうちの前を歩かないし、時々隣の村から人が来る時荷馬車が通るぐらいだ。荷馬車から王都に行くのに途中、普通の民家をじろじろ見たりはしないだろう。
家の中の家具は離れから持ってきたから、結構品がいいものだ。外からみたら田舎の家だけど、家の中はちょっとしたお貴族様的な感じになっている。郊外の田舎の家なので鍵がついていなかったけど、買ってきて自分でつけたよ。まぁ気休めだけどね。ということで、居心地はいい。
週に5日、ギルドの仕事で鑑定スキルを使って薬草を50本ほど採取して500ノンナほど稼げている。100ノンナで贅沢しなければ一食食べることができるので500ノンナあれば貯蓄もできる。そして土日にあたる週末はなんと街の教会に通っている。
教会通いは意味がある。わたしみたいに黒目黒髪の神様から目印をつけられた(噂では呪われた)と言われる子は神様にとって距離が近くなるらしい。もともとこの世界、神様が身近なのに、更に近くなるということで、いろんな神様のいる教会へ通うことで、加護をいただきやすくなるのだ。これも本に書いてあった。さすが過去の知恵。
美の女神様以外に、大地の女神様、武人の神様、商売の神様、知の神様・・・。たくさんの神々がこっちの世界にいらっしゃる。それぞれの神様のところにご挨拶に行っているところ。それぞれ加護をいただけるまでは頑張るつもり。やはり剣と魔法の世界、命が軽い。加護でもなんでもつけて長生きできるようになりたい。
危ないことをするつもりはないんだけど、森の浅いところでの薬草採取といっても魔物と出会うことがあるからね。
薬草採取は鑑定スキルもあるので、午前中に50本はいける。その後、自分用に採取して自力でポーションが作れないか試行錯誤している。本には作り方が載っていたけど、師匠もなくポーションを作るのは至難の業だ。
ポーションは薬草と水と魔力で作ることができると本には書いてある。一応お貴族様のお子様だったわたしは魔力を持っているけど(ギルドの登録の時にあるって言われたから)、魔力の使い方を誰からも学んでいない。家庭教師つけてもらえなかったからね。これは家令にもどうしようもできなかったことだ。
だから、本に書いてあるとおりに、薬草を細かく切り、水を入れて混ぜて魔力を注いでいるけれど、どうもうまくいかない。おままごとの青臭い色水みたいな感じ。魔力を注ぐって前世でも経験したことないしね。さぁどうしよ。ポーションはどうしても作ってみたいんだよー。
ギルドの窓口のお姉さんに相談してみると、弟子にしてもらえるかもしれないと、街の錬金術師を紹介してもらえた。ありがとう。
こういう時は礼儀正しい顔のいい男の子っていう擬態が役に立つね。
「すみません・・・。お店の方いらっしゃいますか?」
ほぼ下町寄りで、武器屋とか防具屋や道具屋さんの近くにそのお店はあった。ショーウィンドなどなく、古めかしい重そうな扉は客を拒否しているようにも思える。本当にここなんだろうか。でも、あの可愛い窓口のお姉さんが間違った情報を教えるわけがないよね。
「すみませーん。誰かいませんか?」
「客か。客なら今ポーションは品切れだ。」
少し怖そうなぼさぼさ頭のお兄さん?おじさん?その中間ぐらいの人が店の奥からぼさっと出てきた。
「あのー。ギルドのお姉さんに紹介されました。」
「ああ、おまえか、薬草採取で品質の良い薬草を納品している子は。」
そう言うと怖そうなおじさんは、少し表情が和らいだようだ。
「それがわたしかどうかはわかりませんが、薬草採取で薬草はいつも納品しています。」
「そうか。薬草持っているか?」
「はい。今、手元に20本ぐらいしかありませんが。これです。」
「どれ。ああ。いいね。おまえの薬草はとてもいい。いつもうちに納品してもらっているんだ。そのせいで、ポーションの品質も良くなって、すぐに売り切れるようになった。納品をもう少し多くしてもらおうか思案していたところだ。」
急ににこやかな顔になると、少し可愛い。おじさんではなくお兄さんかもしれない。
「それで、今日はどんな件でここまで?」
「あの、ポーションの作り方を教えていただきたくて。」
「ほう。錬金術の勉強はしたことがあるのか?」
「無いです!」
「んー。おまえの薬草は俺にとっても必要なものだ。今はおまえのお陰で早く売り切れて時間もある。でも、一から教えようと思うと大変だ。授業料は払えるか?」
「授業料?いかほどぐらいで?」
「うん、そうだな。1回薬草50本でどうだ?今の50本と追加の50本で午前中分のポーション在庫が出来れば冒険者からも文句も少なくなるだろう。あ、自分で作る薬草も自分で持ってくること。どうだ?」
鑑定スキルがあるから採取は簡単だ。インベントリがあるから週末に多めに採取しておくこともできる。何回でポーションを作れるようになるかわからないけど、1年とかじゃないだろう。基本の基本だけでいいのだ。とりあえず1回作ってみたいのだ。薬草50本は前世値段に換算すると5000円ほどだ。1回の講習料としてはさほど割高ではないと思った。
「はい。それで構いません。お願いします!」
「じゃ、今ぐらいの時間ならいいから、薬草50本と自分の作成分が採取できたら来ていいよ。」
最初は怖そうに見えたのに、いい人だった!
本当は鑑定スキルがないと薬草50本は結構厳しくて、50本納品して追加の50本はそうそう簡単に達成できるものではないらしい。師匠は来ても良し、来なくても良し、の気持ちだったのだと後で聞いたら教えてくれた。鑑定スキル持っていて本当に良かった!
あと、薬草50本は500ノンナで、前世換算で5,000円ほどだけど、師匠は、これを初級ポーションにできるのだ。ポーションは1本、100ノンナ。
薬草1本で初級ポーションは1本できるから、50本で、5,000ノンナ、前世換算で50,000円だ。そりゃ教えてくれるね(瓶代は1本10ノンナ。師匠は自分で瓶を作れるんだよ。)
でも、教えてもらえないと作られないからそこは仕方がない。
だって錬金術を教えてもらえるんだよ。薬草ぐらい100本でも200本でも採取してくるよー。
「師匠―。薬草持ってきました!」
「おう、本気だったのか。まぁいいか。まずは薬草を出せ。すぐに処理した方が効能良くなるからな。」
そう言われてインベントリから薬草を50本差し出す。『インベントリ持ちか、いいな』と師匠に呟かれた。この世界、容量の大小はともかくインベントリ持ちは結構多い。転生特典のわたしの容量はあの1軒屋が入るぐらいだからかなり大きい。そこは秘密にしている。
「よく見ておくように。薬草は取ってきてなるべく早く乾燥させるのが一番良い。このように魔法が使えたらより良い。」
そういうと、師匠は薬草を魔法で乾燥させていく。新鮮だった薬草がみるみるうちに乾いていく。凄い!こっちの世界で初めてみる魔法だ。じーっと見続ける。すると師匠の手からうっすらもやが出ているのに気づいた。
「乾燥させることで、薬効が濃縮され定着する。あ?魔力が見えたか?」
絶妙なタイミングで師匠が問う。
「魔力か何かわかりませんが、もやが見えました。」
「ああ、それが魔力だ。感覚が鋭いやつは見えやすい。おまえの目が魔力を追っているのがわかった。才能あるかもな。」
「才能あると嬉しいなぁ。」
「ははは。意外と素直だな。」
師匠は、乾燥した薬草を容器に入れて蓋を締める。こうすることで品質劣化を防ぐそうだ。この前段階、本には載ってなかったー。
薬草の乾燥は、生活魔法の乾燥と送風を上手く使っているそうだ。わたしはまだまだ使えなかった。残念。
次の段階で綺麗な水、蒸留水があればそれに、乾燥した薬草をひと匙入れて、混ぜながら魔力を注いでいる。師匠曰く、薬草と水が分解されて更に合成されるイメージらしい。よくわからなかったけど、本にはそこまで詳しく書かれていなかったので、教えていただいて非常に良かった。一見は百聞にしかず、実物を見るって情報量多いね。
今日はここまでで終了。
「師匠、ありがとうございました!」
「ああ、また、薬草が50本採取できたら学びにこい。」
「そうさせていただきます。また来させていただきます!」
新しいことを学ぶのは大変面白い。ポーションなんて前世は無かったから、余計わくわくする。魔法の使い方もぜんぜんわからないまま、師匠が作るのを見ただけだったけど、自分が本を読みながら作るのとは全く違っていて、どうすれば正解なのかがわかって良かった。本当自分で作ることができるようになれるのかな。楽しみだよ!




