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「あ、あなたは死神ですか?」
深夜。月明かりが怪しげな影を作り出す廃墟で、少女は黒い襤褸を纏った男に尋ねた。
「いいえ、私は悪魔です。あなたと契約を結ぶために来ました。」
少女には男の顔は襤褸に隠れて見えないが、声から楽しいんでいるように感じた。
「けい、やく......?」
「ええ、そうです。あなたが死んだ時に魂を頂く代わりに、望むものを何でも叶えて差し上げます。あなたが望むものはなんですか。美味しい料理ですか?それとも金銀財宝?はたまた寿命を伸ばすことですか?」
襤褸に隠れて見えないが、男の視線はベッドに横たわる少女を見ているようだった。
少女は眼窩が窪んで月明かりが影を作っている。皮膚は骨にへばりついており、以前は艶があり黒かったであろう髪はパサつき灰色になっていた。
栄養失調である。
そんな少女が廃墟の隅に屈んでいた。
少女はなにを願うのか。人間であるからやはり永遠の命だろうか。それとも贅沢を求めるのか。男は楽しみだった。
「なら、わたしとお友だちになってください。」
「お友だちですか。」
「ダメ、ですか?」
少女は目尻に涙をためて聞いた
「いえいえ、ダメではありませんよ。」
少女は笑おうとするもうまく行かず、ひきつったような表情を浮かべた。
「私はお友だちについて無知なので、さしあたって何をすればいいか教えてくれませんか?」
少女は考えていなかったのか少し慌てた。
「えっと、お友だちは自己紹介します。わたしはシオンと言います。あなたのお名前を教えてください。」
「アセビと申します。」
「アセビ......アセビ......よろしく。」
シオンは確かめるかのようにゆっくりと口にした。そしてハッと何かに気付いた。
「お友だちになったんだから敬語はやめにしよう」
お友だちというものをおもしろく思いながらも、アセビは困ったように頭をかいた。
「これは職業病みたいなものですから見逃してくれませんか?」
「......わかった。でも、その代わりに顔を見せてよ」
アセビは襤褸を引っ張った。しかし、固定されているのか少し伸びるだけだった。
「このように取れないんです。」
「......どうなってるの?」
「触ってみますか。」
シオンは差し出された布の端をおずおずと握った。想像していた感触よりもずっと柔らかくて軽かった。
「羽みたい......」
シオンはしばらく新鮮な感覚を楽しむと軽く引っ張った。やはり、アセビと同じように少し伸びるだけだった。
「変なの。」
シオンは小さく笑った。先程とは違ってかわいらしい笑みだった。
そして、襤褸の端を握りしめたまま船を漕ぎはじめた。
雄鶏が泣き空が白むころまで襤褸を纏った男はシオンを見つめながら佇んでいた。




