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アスタナ、崩壊  作者: サムライソード
勇者誕生
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第九話

 次の日、丈一たちは昨日の話を報告した。ランドルフはたった二回のミッションで自身の記録を塗り替えた丈一に驚きを隠せなかった。


 また、リックの丈一の盾になることで戦闘に貢献するというスタイルも認められ、訓練はザイン対リック・丈一のペアで行われることになった。最初は丈一の戦闘センスにリックがついていけていないことが多かったが、丈一の盾になることのみに専念すると、丈一の動きを阻害せず、ザインからの致命打のみを防ぐことができた。


 戦いではザインと五分五分の戦いを繰り広げられるようになり、丈一はそれが己本来の実力ではないと分かっていながらも、ザインに届いたこの力に確かな喜びを感じていた。


「くっ!ファイヤ!」


 ザインが放った巨大な火の玉をリックは正面から盾で受け止める。その陰から飛び出した丈一がザインに斬りかかると、ザインは巧みな剣捌きで丈一をいなした。


 二人の戦いはリックの盾を超えられないザインと、ザインを追い詰めきれない丈一の剣技の甘さにより膠着状態が続いた。ザインは丈一をいなしながらため息をつく。


「やめだ!やめだ!お前らが俺並みの実力を持ってることは分かったよ」


 丈一は攻撃を辞めて汗をぬぐう。丈一が感慨深そうに言った。


「まさかリックがここまで化けるとはな」


 ザインが剣をしまいながら言う。


「あぁ。だが俺より強い奴はこの世界にごろごろいることを忘れるなよ。それに俺はもうすぐ100点に到達する」


 リックが尋ねた。


「元の世界に戻るのか?」


「バカ言え。新しい力を得るに決まってるだろう」


 そこに訓練を黙って見ていたランドルフが口をはさむ。


「ザインはガチャ回すのか?それとも【無記名】を受け取るのか?」


「最近良いスキルを思いついてな。【無記名】のスキルにするよ」


 丈一が一連の会話を理解できずに疑問を投じた。


「新しい力はガチャと【無記名】とやらで選べるのか?」


 ザインが答える。


「あぁ。【無記名】を選べば自分でカスタムした新しい能力を得ることができる。その代わりに力には制限があって、AとかB並みの力を引き出すには能力にかなり工夫を入れないといけない」


 ランドルフが続けた。


「その点ガチャは大きく外れることもある反面、大当たりの能力を得ることができる可能性を秘めている。まぁ100点取れそうになったら考えればいい」


 ザインがそんな調子のランドルフを見咎める。


「ランドルフ、お前は前の任務失敗しただろ。そろそろ運で誤魔化しが効かなくなってくるぞ」


ランドルフが舌打ちをする。ランドルフには内心焦りが募っていた。


「チッ!分かってる」


 そういってランドルフは苛立たし気に宿舎に戻っていった。丈一はランドルフの焦りを感じ取ったが、それよりも新しい力の詳細について思索を巡らした。


 それと入れ違いで安藤が宿舎から出てきた。血相変えて走ってくる様子に、ザインがただ事でない様子を感じ取る。


「ザ、ザイン!交信が返ってきたよ!」


「どこからだ!」


「発信源はここから南西の方向、砂漠からだ!」


「砂漠か…。転送可能か?」


「シグナルは出てる。けど罠の可能性があるよ。どうするザイン」


 ザインは黙って考え込む。丈一とリックは完全に置いてけぼりだった。ザインは簡潔に思考をまとめ、指示を出した。


「安藤、俺、リック、丈一の4人で行く。シェリーとランドルフに伝言だけ残して急いで飛ぶぞ!」


 パソコンを抱える安藤を筆頭に4人は村の中心部にあるキューブに走っていった。すれ違うシェリーに短く言葉を交わし、宿舎にいるはずがいないランドルフに書置きだけ残して、ザインは光り輝くキューブを掴んだ。


 安藤とザインがアイコンタクトを交わした。ザインがキューブを掲げ、宣言する。


「転移!砂漠のキューブへ!」


 キューブが輝きを強める。光は4人を包み込み、それが収まるとそこは一面砂漠だった。丈一が最初に感じたのは乾いた風だった。砂煙が辺りを立ち込めていて、丈一の視線の先には二人の人影が揺らめいていた。


 風が視界を晴らすと、そこには男女一人ずつ立っていた。男の方は肌が黒く、スキンヘッドの男だった。女の方は浅黒い肌をしており、長い黒髪をたなびかせた端正な顔立ちをしていた。女の瞳は正確に丈一のことをとらえており、丈一は無意識のうちに刀を構えようとしてザインに制された。


 風の音で聞こえにくいが、丈一は二人が何か言葉を交わしているのが聞こえた。


「…いたか?」


「ええ…」


ザインが話を切り出す。


「俺たちは北東から転移してきた勇者一行だ!こちらに敵意はない!話をさせてくれないか?」


 二人がこちらに近寄ってきた。


「おいおい、勇者だってよ。じゃあ俺たちはフィッシュクラブってのはどうだ」


 黒人のぼやきに女は無言で返す。


「つまんね。やっぱお前変わったな」


 女がザインに返答した。


「勇者一行ね!ぜひお話をしましょう!私の名前はクラウディア!あなたたちの名前は?」


 クラウディアはなぜか丈一から目を離さず、全員の名前を尋ねた。ザインはそのことに違和感を覚えながらも、メンバーの名前を打ち明ける。


「俺はザイン。隣から安藤、リック、丈一だ」


 クラウディアは口の中で名前を小さく復唱した。


「丈一、ね」


「なぁ、もういいか?」


 クラウディアの隣の男がじれったそうに言った。


「ジョーなんとかだけ残したら良いんだろ。よし、お前ら今持ってるポイント数を教えろ!」


 ザインと安藤が一気に警戒レベルを引き上げる。


「生憎俺たちは弱小でね。全員合わせて30点だ」


「はっ!大層な名前に似つかないな!まぁいい。全員、俺様にポイントを譲渡しろ」


 ザインが剣を抜いた。


「断ると言ったら?」


 丈一たちが戦闘態勢をとる。


「ジェイ!」


 クラウディアがジェイを制しようとして腕をつかむ。ジェイがそれを振り払った。


「あぁ!サラ、お前との契約は守るっつてんだろ!それに結局はやっちまうんだろ?」


 ジェイはそう言いながら、両手に燐光を集める。


「スキル発動!おらいけ!グリム!」


 丈一は今までに見たことがない量の燐光が集まるのを見た。その燐光はモンスターを形成すると、丈一たちの前に立ちはだかった。


 それは巨大な犬のモンスターだった。黒い体表に鋭い牙の隙間からは唾液が垂れていた。ジェイが黒い鞭をグリムに叩きつけると、グリムは悲鳴を上げながら、丈一たちに向かってくる。


「リック!行くぞ!」


 リックが盾を構えてグリムの初撃をいなすと、丈一はすかさず刃をふるった。しかし刃は空を斬り、グリムは軽快な動きで丈一を誘う。ザインが前に出ようとする丈一に警句をとばした。


「丈一!逃げるぞ!」


 丈一が砂塵の中で目を凝らすと、クラウディアとジェイの後ろにキューブがあるのを確認した。安藤が続ける。


「き、キューブを使って、村に転移する!時間を稼いでくれ!」


「ここでこいつを制圧した方がいいんじゃないか!?」


 丈一が問いかけるが、ザインは首を振る。


「嫌な予感がする!こいつらが本当に二人とは限らない!」


 ジェイが更に燐光を集める。巨大な光の集積が収まるとそこには、3メートルはありそうな鬼の形相をした筋骨隆々の男が立っていた。丈一の【怜悧な直感 C】が全力で警鐘を鳴らす。思わずザインの顔を見ると、ザインもその顔に焦りを浮かべていた。


「あの鬼は俺が引き受ける!丈一とリックは安藤とキューブを守れ!」


「バカが!計算がなっちゃいないぜ勇者さんよォ!クラウディア、お前もいけ!」


 リックと丈一の前にジェイとグリムが立ちふさがる。鬼はザインと距離を詰めると痛烈な一撃をザインに喰らわせた。


 ザインは辛うじて形成した盾でそれを防ぐが、攻撃のラッシュはザインの身体を削っていく。丈一はザインに助太刀をする機会を伺うが、


 グリムの攻撃とジェイの鞭による攻撃に対応するので精一杯だった。クラウディアがこちらに歩いてくる。リックの内心の焦りが口をついて出た。


「くそっ!俺たちがたった一人に抑えられるなんて!」


 丈一はひとり、冷静に状況を見極めると賭けに出た。ジェイとグリムの攻撃がリックに集中した瞬間を狙い、リックの影から、ジェイを一気に殺しにいった。


 それに気づいたグリムの甘い攻撃を左手で押しのけ、ジェイに袈裟斬りを放つが、ジェイは素早い身のこなしでそれを避けると、丈一の顎にカウンターの拳を合わせた。丈一はもろにジェイの攻撃を受けると膝から崩れ落ちた。


 ジェイの顔が狂喜に歪む。武器を鞭から拳に変え、丈一を無力化しようとした。


「一匹目はてめぇだ!」


「待ちなさい!ジェイ!」


 声を上げたのは褐色の肌をした女。クラウディアだった。ジェイは舌打ちをすると丈一を蹴り飛ばす。クラウディアはジェイを睨むと丈一に歩み寄ろうとした。


 だがそれはリックによって阻まれた。クラウディアはその様子を見て、丈一に接近するのを諦めると言った。


「彼らを完全に制圧をするのは不可能よ」


 丈一は揺れる視界の中、クラウディアの声を聞いた。


「丈一。またゆっくり話しましょう」


 準備のできた安藤が叫ぶ。


「転移!村へ!」


 その瞬間丈一たちは元居た村に転移した。


 残されたジェイとクラウディアが会話を交わす。


「逃げられちまったが、これでいいのかよ」


「えぇ、これでいいの。私と丈一の運命はここから始まるのよ」


そう語るクラウディアの瞳は金色に輝いていた。

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